ご挨拶

附属図書館長ご挨拶

筑波大学附属図書館では平成7年度の中央図書館新館竣工時に貴重書展示室が設置されて以降、学内各組織の協力を得つつ、本学開学以来所蔵する貴重な資料を広く公開する展示事業を行ってきました。

昨年度は、前年度から附属図書館所蔵資料の現物展示による来場型の特別展を計画・準備していましたが、コロナ禍により開催は極めて困難となり、本来であれば大多数の機関と同様に中止せざるを得ない状況でした。しかし、当該事業を25年間継続してきた意義に鑑み、オンラインでの開催(電子展示)として「もう一度見たい名品 ~蔵出し一挙公開~」を実施しました。期間中のWebサイトへは多くの訪問があったことで、従来の現物展示以上ともいえる反響があり、単なる現物展示の代替ではない形での電子展示が実施できました。

今回の展示は元号が「令和」となった改元に合わせて企画されたものです。人文社会系との共催で、令和3年度筑波大学附属図書館特別展「時をむ -紀年・暦法・元号-」と題して、古来より時間を数え記録し続けてきた人間の営為と、それが与えた政治的、社会的、文化的な影響を所蔵資料から読み解きます。貴重書のみならず、これまであまり知られてこなかった資料も紹介いたします。本展示においては人文社会系山澤准教授が中心となって、谷口教授とともに資料の選定と解説をしていただきました。また、鈴木准教授、江藤准教授、馬場准教授、白戸助教にもコラムをお寄せいただきました。

第1部では日本最初の元号に始まり、改元当時の史料や暦をもとに元号の歴史を解説します。第2部では明治維新以後の日本が近代国家に変容するなかで、一世一元の制をとってから令和に至るまでの元号について取り上げます。第3部では日本で元号以外の紀年法として用いられる神武天皇即位紀元の周辺を紹介します。

附属図書館特別展は、本学に蓄積された豊かな「知」を積極的に内外に向けて発信するという附属図書館の取り組みの一つであります。まだ社会活動は安定したとは言えませんが、今年は実際に貴重書展示室で資料展示をすることといたしました。また、特別展オフィシャルWebサイトから電子展示の公開も行います。ぜひご高覧いただき、新たな世界を発見される機会としていただくことを期待いたします。

令和3年秋
附属図書館長 池田 潤

人文社会系長ご挨拶

このたび、令和3年度筑波大学附属図書館特別展「時をむ -紀年・暦法・元号-」が開催されるはこびとなりました。時(あるいは時間)は私たちの社会や個人のくらしの中に様々な様態で存在しています。そのことを、附属図書館が所蔵する貴重図書・和装古書を通じて、私たちが生活の中で「時をむ」ことの意味を探ることが、本特別展の目的です。

『日本書紀』には、斉明天皇6(660)年の条に、皇太子(中大兄皇子)が初めて漏刻(水時計)をつくり、人民に時を知らせるようにされたとあり、その11年後の天智天皇10(671)年にも、4月25日、漏刻を新しい台の上におき、はじめて鐘、鼓を打って時刻を知らせたと書かれています。律令制下で天体観測や暦を司った陰陽寮には時刻を知らせる漏刻博士という官吏が、漏刻によって知り得た「時」を世間に告知する役目を担っていました。漏刻は、いわば当時の公的な標準時を刻むものとして、都などに住む限られた人々だけが対象であったかもしれませんが、確実に社会の中に存在していました。

しかし、「時」はそのような公のものばかりではありません。本図録のプロローグに引用されている『万葉集』の一首に、大伴家持が長く会えない妻への想いを「月日をむ」と表現したことにも表れているように、人は皆、自らの暮らしの中で独自の「時」を刻んでいます。たとえば、草花や風など身の回りの自然の変化など季節の移ろいに対する私的な感覚であったり、人生の節目になるような出来事のあった年や時期・時代に対して無意識のうちに特別なしるしをつけたりすることもあります。それは、例えば、就職した年、大きな仕事をやり遂げた時、長年想いを寄せていた人に失恋した時、あるいは元号や干支を単位とした社会的時間(時代)を個人の時間軸に刻み込む時などです。「時」に注目してみると、人は公的・私的双方の「時」に包まれ、2つの時間軸を交差させながら生きているという、至極当たり前のことに改めて気づかされます。

今回、「時」をテーマとする特別展を企画するに至った契機は、平成から令和への改元に伴う社会全体の元号への関心の高まりにありました。21世紀の現在においても、元号は私たちの心の中に染みついています。本特別展を、過去の人や社会と元号・紀年などの「時」との関わりに想いを巡らせ、人が生きる上での基本的営為である「時をむ」ことの今日的意味を考える機会とすることができれば幸いです。

特別展「時をむ -紀年・暦法・元号-」への多くの方々のご来駕を心よりお待ちしております。この特別展が皆様自身の「時」の一部として刻印されることを切に願っております。最後になりましたが、本特別展を開催するにあたりご協力、ご支援をいただきましたすべてのご関係の方々に、厚く御礼申し上げます。

令和3年秋
人文社会系長 関根 久雄