2015年5月19日
Readingバトン -教員から筑波大生へのmessage-
青木先生に続く第18走者として、梅村雅之 計算科学研究センター長から寄稿いただきました。
Pick Up
『自然界の非対称性 : 生命から宇宙まで 』フランク・クロース著、はやしまさる訳. 紀伊國屋書店, 2002.3【分類404-C79】
Book Review
この自然界は非対称性に満ちており,もし自然が完全に対称だったら,宇宙も生命も存在しなかった。本書は,素粒子の世界から生命・宇宙まで,自然界の成り立ちを司っている非対称性の構造と起源に迫った好著である。
私たちは,物質世界に住んでいる。当たり前と思っているかもしれないが,宇宙の始まりに物質は存在しなかった。あったのは光だけである。高エネルギー加速器実験で,非常にエネルギーの高い光を互いにぶつけると,“物質”と“反物質”が等量生まれる。物質と反物質は再度出会うと互いに消滅して光に戻ってしまう。宇宙の始まりで起きていたことは物質と反物質の生成であり,この対称性が厳密に保たれたとすると,現在我々が住んでいる物質(のみの)世界は作られなかったはずである。我々が物質世界にいるということはこの対称性が破れたためなのである。
生命現象に目を向けると,生命体の基本分子であるアミノ酸には,化学的な性質が全く同じ左巻き(L型)と右巻き(D型)が存在するが,地上の生命はなぜか左巻き(L型)のアミノ酸しか使っていない。これを,鏡像異性体過剰ないし鏡像非対称性という。鏡像異性体過剰は,19世紀のパスツール以来100年以上にわたって謎になっている。その起源を宇宙に求める説がある。1969年,オーストラリアのマーチソン村に隕石が落下し,その隕石からアミノ酸が検出され,そして鏡像異性体過剰が確認された。宇宙空間で作られたアミノ酸が隕石と共に地球に運ばれて生命の起源となり,L型のアミノ酸だけからなる生命が誕生したというのが宇宙起源説である。(我々の研究室でもこの宇宙起源説の研究をしている。)
本書では,この他にも,原子・原子核,人体,銀河における非対称性に至るまで,興味深く説明されている。この本を通して,自然界の非対称性の意味と,自然の奥深さを知ってほしい。
■次は、関根久雄先生(人文社会系教授)です。