VI. 「現状分析」の試み

 東北帝國大学を辞して東京大学社会科学研究所に招かれるまでの期間、宇野の研究活動は現状分析を中心として展開された。戦時中に所属した日本貿易研究所と三菱経済研究所で、宇野は国内外の経済情勢の分析を手がけた。特に、日本貿易研究所時代に宇野が中心となって作成した『糖業より見たる広域経済の研究』は、おそらく日本では最初の本格的な世界経済論である。戦後の東京大学社会科学研究所では、日本農業の実態を経済学的に分析する仕事を手がけた。『地租改正の研究(上・下)』、『日本農村経済の実態』はその中心的な書物であろう。
 東京大学社会科学研究所時代に、宇野は、「資本主義の組織化と民主主義」、「世界経済論の方法と目標」の二つの重要な論文を執筆している。これらは、宇野が現代資本主義分析の方法を示したほとんど唯一の論文といってよく、この論旨を受けて多くの研究成果が出されている。藤井洋氏、大内力氏や、本学関係者でも大島清氏をはじめとして、降旗節雄氏、榎本正敏氏、小松聰氏などの研究がある。

71. 宇野弘蔵 『農業問題序論』 改造社,1947,初版   所蔵情報
72. 宇野弘蔵、鈴木鴻一郎、大内力、斎藤晴造 『日本における農業と資本主義』 實業之日本社,1948,初版 [参考出品]   所蔵情報
73. 宇野弘蔵編 『林業経営と林業労働』 農林統計協会,1954,初版   所蔵情報
74. 論文「資本主義の成立と農村分解の過程」 (『中央公論』 第578号 (1935年11月)に所収)[参考出品]
75. 論文「資本主義の組織化と民主主義」 (『世界』 第5号(1946年5月)に所収)[参考出品]
76. 論文「世界経済論の方法と目標」 (宇野 『社会科学の根本問題』 青木書店,1966,初版に所収)
77. 財団法人日本貿易振興協会・日本貿易研究所 『ゴム』 (世界貿易産業研究叢書) 栗田書店,1943,初版   所蔵情報
78. 財団法人日本貿易振興協会・日本貿易研究所 『捕鯨』 (世界貿易産業研究叢書) 栗田書店,1943,初版   所蔵情報
79. 財団法人日本貿易振興協会・日本貿易研究所 『生絲』 (世界貿易産業研究叢書) 栗田書店,1943,初版   所蔵情報
80. 宇野弘蔵 『地租改正の研究』 上巻・下巻 東京大学出版会,1957,1958,初版   所蔵情報
81. 宇野弘蔵、東畑精一 『日本資本主義と農業』 岩波書店,1959,初版   所蔵情報
82. 宇野弘蔵編 『日本農村経済の実態』 (東京大学社会科学研究所研究報告 第12集) 東京大学出版会,1961,初版   所蔵情報

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