ご挨拶

附属図書館長ご挨拶

 筑波大学附属図書館では平成7年度の中央図書館新館竣工時に貴重書展示室が設置されて以降、学内各組織の協力を得つつ、本学開学以来所蔵する貴重な資料を広く公開する展示事業を行ってきました。

 昨年度は人文社会系との共催で「令和3年度筑波大学附属図書館特別展 時を数む ―紀年・暦法・元号―」と題し、古来より時間を数え記録し続けてきた人間の営為と、それが与えた政治的、社会的、文化的な影響を読み解く展示を行いました。新型コロナウイルス感染症対策として学内者限定ではありましたが、会期中903名にご観覧いただきました。

 また今春5月16日から5月27日まで、中央図書館において「歴聖大儒像 儒者のまなざし」展を開催しました。令和元年度から令和3年度にかけて解体修理を行った「歴聖大儒像」の修復完成記念として特別公開したものです。展示では、修復工程をパネルや大型ディスプレイで展示し、現在の古美術修復技術と修復された山雪の名画を堪能することができました。また、本作品の修復担当者による保存修理研修会も開催し、職員の学びを深める機会となりました。本展示も学内者限定の観覧となりましたが、10日間の会期中に700名を超える参加者があり、修復への関心の高さを窺い知ることができました。

 今回の展示は附属図書館と本学芸術系の共催により開催します。令和5(2023)年、筑波大学は創基151年、開学50周年を迎えます。今より150年前の明治5(1872)年、東京の湯島聖堂内に師範学校が設立され、その流れは筑波大学に受け継がれています。そのことにちなみ、 湯島聖堂で催された孔子を祀る祭典「釈奠」で用いられた美術資料を展示します。本学が所蔵する「歴聖大儒像」は、林羅山の依頼により、狩野山雪が寛永9(1632)年に21幅制作したうちの6幅です。残り15幅は東京国立博物館に伝わっています。今回は 東京国立博物館に伝わった孔子像や釈奠器などの関連資料を借用し、併せて展示いたします。長い年月を経ての再びの邂逅ですので、本展はそれを観覧できる貴重な機会となるはずです。

 附属図書館特別展は、本学に蓄積された豊かな「知」を積極的に内外に向けて発信するという附属図書館の取り組みの一つであります。本展では貴重な資料の展示だけではなく、中央図書館での特別講演会、オンラインでのシンポジウムも行います。また、特別展オフィシャルWebサイトから電子展示の公開も行う充実した内容となっております。ぜひご高覧いただき、新たな世界を発見される機会としていただくことを期待いたします。

令和4年秋  附属図書館長 池田 潤

芸術系長ご挨拶

 このたび、附属図書館と芸術系の共催により、特別展として、「孔子をまつる―歴聖大儒像の世界」が開催されることになりました。儒教の祖である孔子は、紀元前6世紀に中国山東省で生まれ、その教えは、広く東アジアに波及し、各地で孔子がまつられました。本展では、本学と東京国立博物館が所蔵する「歴聖大儒像」を中心に、孔子祭典を飾った文物や関連する資料を展示します。

 筑波大学芸術系は、前身である東京教育大学教育学部芸術学科や1975 年に設置された筑波大学芸術学系ならびに2004 年の法人化以降に大学院人間総合科学研究科に教員が所属した時期の芸術学専攻によって形成された歴史を踏まえつつ、2011年10月に発足した教員組織です。日本の芸術文化環境および研究開発の創造的振興に寄与することを目標とし、芸術学、美術、構成、デザイン、世界遺産学等の理論から作品制作・実践を含む多彩な専門分野の教育研究を進めています。 

 この展覧会は、2000年から芸術系の教員が中心となって研究を進めている儒教美術に関する研究成果の一部です。これまで学内外で7回の展覧会を開催し、今回で8回目となります。研究の過程で、孔子祭の舞台となった湯島聖堂にかけられた扁額の模本が本学に伝来していることが明らかとなりました。そして、復元研究が進められ、扁額と関東大震災で失われた孔子像の研究が始まり、今に至ります。

 近年、孔子の教えが見直されています。その教えの核の一つとなる「中庸」は、道徳的な行動の基準を具体的に示すものとして、広く知られてきました。中庸とは、過不足がなく調和がとれていることを意味します。国際社会の共通目標である SDGs が新しい概念として我々の生活のみならず研究環境をも席捲しています。「持続可能な活動」のためには、正しい道徳観の醸成が必要でしょう。儒教の持つ道徳観は決して古いものではなく、現代でも通用する大事にすべき概念かと思います。この展覧会を通じて、孔子の教えを感じ取っていただければ光栄です。

 最後になりましたが、本特別展を開催するにあたりご協力、ご支援をいただきました全てのご関係の方々に、厚く御礼申し上げます。

令和4年秋  芸術系長 野中 勝利