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第1部 『源氏物語』と出会う

 『源氏物語』成立の経緯については、大斎院選子の依頼を受けた中宮彰子が紫式部に執筆を求め、須磨巻から書き始められたという説、紫式部の父藤原為時が作り、細かなところを娘に書かせたとする説、さらに、紫式部がこの物語を書いた罪で地獄に堕ちたとする話まで、さまざまに説話的に伝えられているが、確かなことはわからない。
 『更級日記』で、菅原孝標女が、継母や姉らの話を聞いて『源氏物語』へのあこがれを募らせてゆくさまは、平安文学のなかでも印象的な場面であるとともに、最初期の享受のさまを伝えるものである。ここに見られるように、『源氏物語』について確かなのは、途切れることなく読まれ続けたという点である。
 11世紀初頭に成立したといわれる『源氏物語』が読み継がれてきた状況は、ひとつの閉じた世界ではない。藤原俊成が、『建久四年六百番歌合』の判詞で、「源氏見ざる歌よみは遺恨のことなり」と言っていることは有名である。『源氏物語』が、和歌や連歌を学び詠む際の必読書とされたことは、この作品が広く、途切れることなく読まれた、大きな理由のひとつであろう。しかしそれ以外にもさまざまな『源氏物語』との出会い方、向きあい方があった。『源氏物語』がどのように読まれ今日まで生きてきたのか。何が受け継がれ、また受け継がれなかったのか。それを具体的な資料に即して見ることで、その時々の人々が実際に生きていた空間のなかに『源氏物語』を解き放つことを試みたい。

源氏物語

所蔵情報(全文あり)
写本。53冊。江戸時代中期の書写か。
紺地の表紙に、当該の巻にちなむ下絵が金泥で描かれており、塗の箪笥におさめられている。その作りは、江戸時代前期、中期の嫁入り本の典型。胡蝶巻、宿木巻欠。貴重な調度品として保管されていたことをうかがわせ、書入はほぼなし。山路露巻を付す。
  

源氏物語

所蔵情報(全文あり)
写本。47冊。寛永7(1630)年書写か。絵合巻、松風巻、鈴虫巻、夕霧巻、御法巻、蜻蛉巻、夢浮橋巻欠。
表紙裏、各丁上部、行間、さらに付箋による、墨、朱墨の書込が多く見られる。筆跡も異なり、また、注の詳しさ、内容についても、初学者向けと思われるもの、注釈研究的なもの等々多岐にわたり、何人かによる、何段階かの書込であると見られる。
  

源氏物語

所蔵情報(全文あり)
版本。57冊。承応3(1654)年刊 京都 八尾勘兵衛。挿絵入。山路露巻、系図を付す。
表紙裏、各丁上部、行間に、斎藤彦麿による書入がある。斎藤彦麿は江戸時代後期の国学者で、その著作は、「武烈天皇御暴虐正論」等、歴史関連のものが多い。
書入は、人物関係、人物の年齢、官職、装束のこと、言葉の意味等、初学者向けと見られる内容である。
  

花鳥餘情

所蔵情報(全文あり)
写本。10冊。江戸時代初期の書写か。
一条兼良(1402-1481)による『源氏物語』全巻注釈。兼良は応仁の乱を避け、奈良での不自由な疎開生活を送るなかでこの注釈書を著したという。これは、書写者、書写時期等は不明であるものの、兼良が著した最初の段階の本、所謂初稿本系の忠実な写本である。
  

花鳥餘情

所蔵情報
写本。15冊。書写時期、書写者不明。
文明四年記奥書の後に、
此抄卅巻池田若狭守正種用愚本所書写也依所望書銘返遣畢文明十二年正月廿四日 桃花老[在御判]
とある。これは、内閣文庫本(伝梶井宮堯胤親王筆)に見られるものである。
  

湖月抄

所蔵情報
版本。60冊。延宝元(1673)年跋。書林 林和泉/村上勘兵衛/吉田四郎右衛門/村上勘左衛門。
北村季吟による『源氏物語』注釈書。この書のように、『源氏物語』本文と注釈とを一覧しながらよむことのできる本が延宝期頃出版され、『湖月抄』は、『源氏物語』注釈書のなかでも最も流布した。『湖月抄』は『源氏物語』五十四帖の注釈のほかに、「発端」、「表白」、「年立」、「系図」、「雲隠説」を加え、六十冊とすることが多い。
  

仙源抄

所蔵情報(全文あり)
写本。1冊。元和4(1618)年、葛山弥三郎書写。
南朝第三代長慶天皇による『源氏物語』注釈書。跋(自跋といわれる)によれば、弘和元(1381)年成立、『源氏物語』中の言葉をあげ、いろは順に配列する。四十ほどの写本が現在に伝えられている。
  
  

源語導矇抄

所蔵情報(全文あり)
写本。8冊。寛政四(1792)年成立。源嶋万呂。
内題のほかに巻末にも「源語導曚抄と名つけ」とあり、著者による命名と見られる。入門書として著されたものか。本学附属図書館にのみ所蔵される『源氏物語』注釈書。