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資料紹介

初心者向け 「筑波の道」案内

綿抜豊昭

 晴れた日には,図書館情報大学から筑波山がよく見える.筑波山は,連歌作者にとって特別な山であった.『日本書記』に日本武尊と火ともしの翁との次の唱和が載る.
 新治つくばを過ぎていくよか寝つる
 かかなべて夜にはここのよ日には十日を
日本人はかつてルーツ(系図や物事の起源等)を重視した.ルーツは有名人がかかわっていて,古いことがのぞましい.先の唱和を連歌の起源と考え,連歌を 「筑波の道」と称し,二つの准勅撰連歌集は共に 「つくば」がその名に付けられた.また連歌三神の一つに日本武尊が加えられたのも,この唱和によると考えられる.
 筑波山の裏側に所縁の深い真壁道無の肖像画(伝)が, 平成十一年,文化財として認定されている.この真壁道無ほか真壁氏の人々が,連歌に造詣が深かったらしいことは存外知られていない.また筑波山では月次連歌が行われていた.郷土史的,文化史的,宗教的に注目すべきことであるが,資料の翻刻等もなされていないようである.近世後期のその資料がある大阪への旅費と資料撮影にかかる費用あわせて十万円ほどあれば,とりあえず筑波山月次連歌の実態が解明できそうである.郷土愛ある地元出身の学生が連歌に興味を持ち,そうした調査をすることを願って,連歌の入門書等を紹介しておく.
 入門書としては,岩波書店,小学館,新潮社で出された,古典文学の全集の中の連歌関係のものがあげられる.これらは解説も入門的で,作品に注などが付されており必読書.辞典は『俳諧大辞典』〔911.3:I-88〕(明治書院)と『俳文学大辞典』(角川書院)がある.前者は後者よりも数十年も前のものであるが,後者にない項目もあり,両方を必要とする.連歌作品の索引としては『連歌総目録』(明治書院)がある.
 概説書としては,山田孝雄『連歌概説』(岩波書店),伊地知鐵男『連歌の世界』(吉川弘文館)がおすすめ.共に何十年も前のものだが有益.
 連歌史関連のものでは,福井久蔵『連歌の史的研究』が基礎図書だが,出版社がつぶれ,新刊では手に入らない.また木藤才蔵『連歌史論考』(明治書院)は名著.増補改訂版を見ること.
 作家研究は,連歌師宗祇に関する本が多い.最近のものでおすすめは島津忠夫『連歌師宗祇』(岩波書店),奥田勲『宗祇』(吉川弘文館).
 資料としては,三弥井書店から『連歌論集』が四巻でている.また同社から刊行中の『新撰菟玖波集全釈』もあった方がいい.古典作品の全注釈ものの多くは,絶版になると古書価格が急騰するので入手を考える人ははやめに.
 なお図書学的に興味のある人は,京都北野社で成された裏白連歌の原懐紙が,ご近所の筑波大学に所蔵されるので,それをみることをすすめる.連歌作品の記録の形態の有り様がよくわかる.
 研究書は,伊地知鐵男,金子金治郎,木藤才蔵,島津忠夫,奥田勲の著書が,数十年前のものも含め評価が高い.具体的な書名は,著者名から検索して欲しい.論文は,年度ごとに学会誌『連歌俳諸研究』に論文等の目録が載るので参照されたい.
 本稿執筆にあたり,与えられたテーマは「人文科学関係の情報資料媒体の紹介」.人文科学資料の特性は,自然科学と比較して,情報としての価値が長く維持され,論文のタイトルは抽象的であり,言外に含みを持つこともあり,また扱われる資料が広範囲に及ぶため,全てを深く語れる個人は皆無に等しいとされる.その特性をふまえ,対象を連歌にしぼり,「らしく」 紹介してみた.


本学助教授
Beginner's books on Renga-poem,by Toyoaki WATANUKI