図書館情報学の社会科学的側面

－情報資料媒体論と橘報メディア論との関係における管見－

大庭治夫

〔はじめに〕参考図書としての辞典・辞書類などや哲学書などにも多く見られる学・科学・論などに関する定義や概念規定によれば，学ないし学問は科学と哲学の総称を意味し，学や科学が内容上に体系性を有し，価値判断を含まないのに対し，論は，それらの諸条件に拘束されない．また科学は自然料学・社会科学・人文科学の総称を意味する．
　こうした基本認識に立脚すると，図書館情報学は基礎論としての哲学をも含み，且つ，上記3科学の諸要素をも具有することになる．以下においては表題に見られるように社会科学的側面を中心に見てみたいと思う．社会科学の世界においては，方法論が極めて重要な意味・内容を持つのであるが，ここでは一者を他者との関係において考察する「関係論的考察」という見方・考え方を重視したい．

〔図書館情報学管見〕伝統的な図書館学と最新の情報学との総合が試みられる図書館情報学に関しては諸説ある．管見としての私見を申し上げることを許されるならば，幾つかの可能性を提示して参考に供したい．①歴史的に見れば，図書館学が生成・発展する過程において情報学が加わってきたという意味で図書館学の一形態となる．②上位概念・下位概念という視点・論点からすれば，情報学という上位概念の一部分という意味で情報学の一形態となる．③その他としては，いずれとも言えない総合的・学際的学問分野として位置づけられる．

〔情報資料媒体論と情報メディア論〕本学における図書館情報学の一分野に情報資料媒体論（学部）と情報メディア論（大学院）なるものがある．そこで再び管見としての私見を申し上げることを許されるならぱ両者は一体的な関係にある．
　一方では，情報と資料との関係について，資料とは記録された情報と言われたり，乗せるものと乗せられるものと言われたりしているように，いわば表裏一体の関係にある．他方では，媒体とメディアとの関係も採り上げられる．ここで本学の教官仲間でも文系・理系で解釈は微妙に異なりうる．文系は，メディアという外来語を日本語に翻訳したものが媒体であると考えている者が決して少なくないのに対して，理系は多少異なり，媒体は正確には媒体材料の意味で使用されることが多いようである．
　筆者は，異なった分類は基準が異なるということで，それぞれに一理あるという基本認識を持っている関係上，最広義で考えることが多く，両者を特に区別してはいない．その意味においてマクルーハンのメディア論を基本前提として各論に入ってゆくという方法を多用しており，そこから専門・特化しつつ考察を進めている次第である．そうであればこそ人間社会におけるコミュニケーション媒体や手段をメディアと見なし，そこからマス・メディア論その他，多種多様な分野が展開されることになる．

〔図書館資料論管見〕関係論的考察からすると，上記の如き最広義の資料論を念頭に置きつつ，図書館の社会的意味・内容・役割に注目したい．社会科学の基本認識は，万事が時間と空間により異なるゆえ，変わり行くものと基本的に変わらざるものとに留意しつつ考察を進める．なお，館種の相違もまた論点として意味を有すると思われるが，それは社会的背景を具有するからである，即ち，社会全体における社会体系ないし社会システム中いかなる社会単位と結びついているかにより，その図書館の使命・役割が異なり，図書館資料の意味も異なりうる．
　最近では司書講習や司書教諭講習のカリキュラム中に，従来どおり｢資料｣概念を最広義に解釈して視聴覚資料などの概念・用語を存続させる場合と，情報メディアなどの概念．用語を使用する場合とがある．これなどは氷山の一角にすぎないが従来の図書を中心とする資料からインターネット等に象徴される情報メディアが注目を集めるようになった．

〔社会科学資料論管見〕ここで申し上げたいことは社会科学とは何かを多少なりとも勉強することこそ出発点となる，という事である．従来は社会科学の二次資料，三次資料に関する情報資料の紹介が基本となっていたように思われるが，少なくとも本学においては，予備知識・基礎知識として社会科学概論・概説を勉強することが望ましい．短期間で習得しなければならない場合は別として，恵まれた数年間を大いに活用するということであれば，最低限の知識は身につけておくべきであろう．専門書でなくても，入門書や解説書など多種多様な社会科学概説が出回っているので，自分の能力範囲内で努力することが必要であろう．就職との関係も大いにある分野であることを忘れてはならない． 〔官公庁資料論管見〕これもまた就職との関係が大いにある分野として注目してほしいのでもあるが，とりわけ公務員志望の方々は，そもそも官公庁とは何かを知った上で，政府刊行物や地方行政資料などの資料に携わることが望ましい．前述の如く，社会科学は，時間・空間により異なり変化する現実の人間社会を考察する．たとえば，役所とか役人の基本姿勢に関しても，政府刊行物の中でも身近に感じられる白書などにおいて微妙な変化が生じていることが感知される．わが国における白書の場合，従来は各省庁の年次報告書として，過去一年間の業績を書きつらねることが多かった一般的風潮が少しずつ変化を示し，回顧と展望の中で反省点も記述するようになりつつある．たとえば，同じ経済企画庁が刊行している白書でも『国民生活白書』は真の豊かさとは何かを考え，それ以外では『厚生白書』や『環境白書』もまた，光と影を記述するように思われる．
　他方，地方行政資料などにおいても，情報公開制度が出来て以来，地方公共団体は国よりも一足先に原則として情報を公開することで住民に対応している．その中でも特に自然環境や生活環境に関する情報の公開を要求する事例が増加しつつある．たとえば，ダイオキシン測定値のデータであるとか，住民税の使途（議員達の海外研修旅行等）などの事例が多い．
　これらの事柄は，社会科学の視点・論点からすると，広く民主主義の歴史と形態に関係する意味・内容を含んでおり，その含意は大きく且つ深いと言えよう．国民・地域住民の基本的人権としての｢知る権利｣と，それに対応する官公庁の情報公開義務とが，これらの根底ないし背景にあることは関係者一同が大いに留意する必要がある．

〔おわりに〕表題にある通り文字通り管見の域を出ない拙文を結ぶにあたり，筆者の基本認識の要点を整理してみたい．
①一者を他者と関係づけて考察し，理解する．
②定義や概念規定は最広義に解釈する立場を採る．
③社会科学の立場から接近して考察する．
④情報資料媒体と情報メディアは同義的に解する．
⑤資料とは記録された情報と見なされうる．
⑥最広義のメディアには媒体も資料も含まれる．
　以上のような諸点を重視しつつ資料論の諸形態を考察すると，官公庁資料論に見られるように，留意すべき事柄が明確になるように思われる．たとえば資料概念がメディアをも包括するものと理解されることが一般的になり（視聴覚資料など）且つ従来は二次資料中心だった資料論が各種情報資料源として一次データないし一次資料を重視するという新動向が，今や注目されている．官民関係も情報公開制度の普及と共に<informed citizen>が，近代民主主義社会において必要不可欠な基盤であることも認識されつつある．その意味においても公務員は，まさに <pubic servant>の新世紀を迎えることになろう．

本学教授
Aspects of Information and Library Science from the Viewpoint of Social Sciences, by Haruo OHBA