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エッセイ

RISC‐Linz紹介

森継修一

 1997年3月10日より11月30日まで,文部省在外研究員として,Research Instituteof Symbolic Computation, Johannes Kepier Universitat, Linz, Austria(通称RISC‐Linz)を訪れていた。Linzは,人口としてはWien(160万),Graz(25万)に次ぐAustria第3の都市(22万)で,位置的にはWienとSalzburgの中間にある。もっとも在住日本人の数でいうと,Wien(1300),Salzburg(70),Graz(35),Innsbruck(25)についでLinzは第5位(約10人)と,実にマイナーな存在となる。
 にもかかわらず,数式処理や関数プログラミングなどの分野の日本人研究者がほぼ毎年RISCLinzに滞在し,あるいは訪問して,活発に交流を行なっている。同研究所は,もともとJohannes Kepler Universitatの数学科に所属していたProf.Buchberger(多項式イデアルにおけるGrobner基底理論の発見者)によって1987年に設立された。現在,教官10名余りと,博士課程を中心とした大学院生40名ほどが研究活動を行なっている。学生の多くはAustria国外から来ており,各国の研究者も頻繁に訪れるため,研究所内のWorking Languageは英語とされている。(ドイツ語禁止というわけではないが。)
 なお,大学本部キャンパスはLinz市内にあるが,研究所は20kmほどど離れたHagenbergという村にあり,中世に建てられた城を改築して,最新のコンピュータ設備を導入している。セミナーはRISCで行なわれるが,一般の講義は大学本部で行なわれるため,教官も学生も移動には車が必要になってしまう。さらに詳しい情報は,http://www.risc.uni‐linz.ac.atから得られる。研究内容の紹介以外にも,新入学生向けのliving guideなどは,初めて訪問する立場からは大変有用であった。
 さてRISCでは,学生や私のようなビジターには,各自に机とX端末が割り当てられる。教官は個人研究室を持っているが,本学における教官研究室よりもかなり狭い城を改築したことにより,個々の部屋の形はさまざまである。また,正面玄関および全研究室に共通の鍵が貸与され,本や資料を借りるためならば,全員がどこに立ち入るのも自由,というルールになっていた。それでも,ある先生が新入生歓迎の挨拶のなかで,「昔,夜中に私の研究室に潜り込んでカウチで寝るのを常習とする学生がいた。いくら立ち入り自由だからといって,これはやめてもらいたい。」と話していた。洋の東西を問わず,ゴキブリのような生活をする学生はいるものである。
 RISCには,Bibliothekという部屋もあるにはあるのだが,専任の職員はおらず,言ってみれば「共用の書庫」という感じである。「ポインタ」を残して各自の責任で借りてよいが,城の外に持ち出してはいけない,というのがルールであった。購読している雑誌もごく限られるので,本格的に資料を集めようとすると,大学本部の数学科図書室を利用する必要がある。もっとも,この分野の主要な雑誌は日本国内でたいてい購読されている。また,RISC発行のテクニカルレポートシリーズも,最近はWWWにより提供されているので,日本にいても入手が非常に楽になった。やはり,セミナーなどで直接議論できることにこそ,実際に滞在する意義があろう。
 RISCでは今後とも,博士課程の大学院生を世界中から募集していく予定のようである。本学の修士課程を終えたあとの進路としていかがでしょう ? ただ,情報系とは言っても数学的基盤がないと,実際に学位取得をめざすのは困難でしょうが。


本学助教授
Introduction of RISC‐Linz,by Shuichi MORITSUGU