ターミノロジー

Ｇ　　Ｐ　　Ｓ

川瀬正幸

　最近，新聞・雑誌でよくカーナビ（カー・ナビゲーション・システム）の記事をよく見かける．あいにく道路地図派の私のポンコツ車には搭載されていないが，友人の車に同乗すると搭載されていることが多い．いわゆる行き先を登録しておくと，道順を音声などで教えてくれるやつである．親切と言えば親切だが，指定された道をはずれると女性の声（合成音声や英語の声も選べるのであるが，何故か私は女性の声しか聞いたことがない）が「道が違っています」と教えてくれる．「うるさい．こちらの道の方が空いているのだ」などと言いながら運転するのも乙なものであろうか．
　それはさておき，ＧＰＳとはこのカーナビに利用されている技術で，全地球測位システム（Global Positioning System）のことを指す．湾岸戦争当時カーナビを使っていた人は，この戦争の間カーナビの精度が増し自車位置マークが殆ど道路とずれなかったことを覚えておられるであろう（日垣隆『情報の技術』朝日新聞社，1997をご覧になると，この間の事情が詳しい）．
　全地球測位システムとは，複数の人工衛星からの信号電波を受信して現在地を求めるシステムで，アメリカ国防総省が軍事目的のため1970年代から打ち上げてきたナブスター衛星24個から構成される．高度約２万㎞上空に６つの軌道をもって周回する24個の衛星を使い，同時に３基の衛星からの時間情報と位置情報を受信することで，現在地の緯度，経度，高度等を測定する．
　ＧＰＳには２種類のサービスがあり，一つは一般用に公開され，カーナビ等にも利用されているＳＰＳ（Standard Positioning Service），もう一つが湾岸戦争でも使われた軍事用の高精度な，ただし利用が限定されたＰＰＳ（Precise Positioning Service）である．ＰＰＳの場合，軍事的な見地から暗号がかけられており（Ｐコード），民生用の受信機では使えないのであるが，ＳＰＳの場合（Ｃ／Ａコード）にも，ＳＡ（Selective Availability）という誤差誘発機能がかけられている．そのためカーナビ等でもわかるように数十メートルの誤差が出てくる訳である（厳密に言うと測位精度95％の確立で100ｍ以内に収まるようになっている．ＰＰＳの場合は，最高16㎝の精度と言われる．
　このシステムは現在，航空機や船舶の航法システム，自動車のカー・ナビゲーションに採り入れられているだけでなく，測量や地殻変動の観測等にも利用されており，国土地理院では，全国約900点のＧＰＳ観測点を整備し，各点の地殻変動を１㎝以上の高精度で連続的に観測する全国ＧＰＳ連続観測システムの運用を開始している．更には米国においては，ゴルフ・カートに受信機を装備して，プレーヤーのゴルフを支援するなどの事例もある．
　なお，1996年３月米国政府は来世紀に向けたＧＰＳ政策を発表している．これは1995年に公刊された米国議会向け勧告書“GPS:Charting the Future”の内容を反映したものであり，ＧＰＳのサービス対象を軍民および国内外を問わないとするとともに，西暦2000年を目途にＳＡの解除を行うこととしている．ＳＡの解除が行われれば，より一層その精度が増すとともに，応用範囲も更に広がることとなろう．
　それでは「さあ書を捨てよう，ドライブに出かけよう．」ところで，あなたはカーナビ派，それとも道路地図派？
（参考文献：ＰＣＷＡＶＥ,1995年10月号及び1996年10月号）

図書館情報課長
Global Positioning System, by Masayuki Kawase

ターミノロジー

Ｇ Ｐ Ｓ

Ｇ　　Ｐ　　Ｓ