表紙へ   前の記事   次の記事

資料紹介

ドイツ読者研究の基礎資料

佐藤隆司

Leser und Lektuere im 18. Jahrhundert : die Aus1eihbuecher der Herzog August Bibliothek Wolfenbuettel 1714-1799 / Mechthild Raabe. - Muenchen : K. G. Saur, 1989. -4Bde ; 25cm. [020.23 : R-11]
 どの時代に誰がどのような本を読んでいたか、読み方はどのようなものであったか、を綿密な資料研究にもとづき考究する読者研究は、フランスのアナール派の得意とする領域であろうが、しかしフランスに研究の独占を許すわけではない。筆者の知るところでは、ドイツでは3つの中心地があるように思われる。一つは Leipzig で、その成果は Leipziger Jahrbuch zur Buchgeschichte に現われていると思われる。二つ目は Muenchen で、それは Internationa1es Archiv fuer Sozialgeschichte der deutschen Literatur に現れているようだ。三つめが Wolfenbuettel である。
 Wolfenbuettel はドイツの北寄りの州 Niedersachsen の東に位置する小都市であるが、かつては Braunschweig 公国の首都であったこともある由緒ある古都である。われわれには17世紀同地を治めた学者大公 August の名をとり、Leibniz や Lessing がそこの司書であったHerzog August Bibliothek(1572年創立、現在約75万冊の蔵書、12千点のmss,4千点のincunabulaを持っている)によって忘れてはならない地名となっている。その図書館と結びついて図書学と図書館史研究グループ(Wolfenbuetteler Arbeitkreis fuer Geschichte des Buchwesens, Wolfenbuetteler Arbeitkreis fuer Bibliotheksgeschichte)があり、その成果は例えぱ碩学 Paul Raabe の主催によるWolfenbuetteler Schriften zur Geschichte des Buchwesens のシリーズとなって現れている。
 この図書館は August 大公の見識により当時から公開されていた(Bibliotheca publica)と知られているが、貸し出し記録も大公の亡くなった1666年から今世紀にいたるまでのそれが13巻のfolio版で残されているのである。 Paul Raabe 教授の夫人 Mechthild Raabe は啓蒙主義の時代の読者について関心を集中させ、Anton Ulrich 大公の亡くなった1714年からその世紀の終わりまでの記録を纏めたのが4巻からなるこの本である。
 第1巻は533ぺ一ジの本文の前に104ぺージの前付けがあり、 Pau1 Raabe の序文のあとMechthi1d 夫人が18世紀のこの図書館の歴史を詳細に記している。本文は貸出者名のアルファベット順リストであるが、姓名と生没年の後に略歴、貸し出し年月日、書名、その分類記号が記されている。487ぺ一ジ以降に貸出者の男女別、学歴別、国籍別等の統計表が付されている。第2巻は貸し出し者の社会的地位別リストという性格であるが、社会的地位で大別したあと、本の主題別、著者名別に配列されている。やはり貸出者名、貸し出し年月日が付されている。714ぺ一ジから成るが、625ぺ一ジから統計表となっている。第3巻は貸し出された本の著者名目録となっているが、やはり貸出者名と年月日がしるされている。統計表もついていて616ぺ一ジからなっている。第4巻は貸し出された本の分類目録という性格であるが、それぞれの本の貸出者名、貸し出し年月日がついているのは他の巻と同じである。664ぺ一ジからなり、統計表もついている。
 1巻の前書きをみるとコンピュータも使って編集したとのことであるが、基本的には詳細かつ正確な手作業によっているはずである。こういう資料を作るところがドイツの凄さだと思うし、ドイツの学問の深さをしみじみと感じさせられる。なお、ドイツ語圏で1840年から1980年までに出された図書学、図書館史領域の壮大な文献目録が出されている。これも Wolfenbuettel の研究チームの偉大な成果というべきだろう。それは次のようなものである。
 Wolfenbuetteler Bib1iographie zur Geschichte des Buchwesens im deutschen Sprachgebiet 1840-1980. Herausgegeben von der Herzog August Bibliothek Wolfenbuettel, bearbeitet von Erdmann Weyrauch unter Mitarbeit von Cornelia Fricke, mit einem Vorwort von Paul Raabe. - Muenchen, K. G. Saur, 1989 - 91. - 5 Bde.


本学・教授
A Basic Materia1 for the History of Reading in Germany. by Takashi Sato