ほうっておけぱ「本や雑誌が50年、100年でボロボロ」になって使えなくなるという、いわゆる酸性紙問題がわが国で一般に紹介されたのは1980年代であった。かなやひろたか氏の『本を残す一用紙の酸性問題資料集』〔014.6 : Ka - 47〕はよく知られている。図書館の資料保存に、強い関心が寄せられることとなったのは、この酸性紙問題を一つの契機としてであった。
図書館における「資料保存」を、単純に「資料」と「保存」に分けて考えることはできない。「資料」はともかく、「保存」を『広辞苑(第4版)』でひくと、「そのままの状態を保って失わないこと。現状のままに維持すること」とある。これだけでは図書館における資料保存について誤解が生まれるかもしれない。図書館では「その資料の利用を現在と将来にわたって保証する、また、利用を一層促進させるための行動の一切」を資料保存という(利用のための保存)。この新しい考え方によって、資料保存は、図書館の資料提供機能(=利用)を支える機能として位置づけられた。「ただ人の手にさわらせずに、書庫の奥で大事にしまっておく」といったそれまでのイメージは払拭しつつある。
図書館における資料保存を論じるさいの基本的な用語には、1「プリザベーション(preservation)」、2「コンザベーション(conservation)」、3「レストレーション(restoration)」がある。適当な訳語がなく、これらの用語はカタカナで書かれることが多い。1986年に刊行された、IFLAの資料保存に関するガイドライン(邦訳『IFLA資料保存の原則』日図協、1987)[014.6 : D - 98]では、これらの用語は、1「保存」、2「保護」3「修復」という訳語で、以下のように定義づけられている。
「保存」:図書館・文書館資料およびそれに含まれる情報を保存するための保管施設の 整備、職員の専門性、政策、技術、方法を含む全ての運営面、財政面の考慮。 「保護」:図書館・文書館資料を劣化、損傷、消失から守るための個々の政策と実務で、 技術系職員が考案した技術と方法を含む。 「修復」:経年、利用等により損傷した図書館・文書館資料を技術系職員が補修する際 に用いる技術と判断。これらは「修復」「保護」「保存」の順で、資料保存の歴史的な発展をも示す。「プリザベーション」(=今日の資料保存)は、酸性紙問題への取り組みのなかで生まれた諸活動を、新たに包含したもっとも包括的な概念である。