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資料紹介

こころのセルフヘルプ

上月英樹

 「こころに関する本を読みたい」「張りのない日々だが,もっと積極的な生き方をするための本を読んでみたい」などの言葉は,心理学部や医学部の学生ならずとも,よく口にすることでしょう.精神や心理面に関する書物で,日頃から気軽に親しめるものはないのでしょうか.更に,そのような書物を読むことによって,こころにかかる霧が晴れたり,リラックスできるようになったり,自分の精神状態を客観的に把握できるようになり,いわゆる「こころのセルフヘルプ」にも役立つようなものはあるのでしょうか.以下に挙げる書物がそれらにあてはまると思われますので簡単に紹介します.
 こころの科学(隔月刊,日本評論社)
 日本を代表する精神病理学者である宮本忠雄らが監修し,毎回,特別企画として様々なテーマを取り上げています.内容は,専門家(医師や臨床心理士,ソーシャルワーカーや看護婦など)のみではなく,一般の人々も読みやすいように平易に表現してあります.過去の幾つかの特別企画を紹介すると,こころの危機への援助(19号),無意識の世界(27号),病みつつ生きる支え(29号),不安(40号),こころのケア(45号),現代の抑うつ(50号),アイデンティティ(53号)などがあります.上記の特別企画のほかにも,具体的な事例(症例)の呈示や,こころに関わりの深い映画の紹介(こころの映写室)などもあり,飽きさせません.
 現代のエスプリ(月刊,至文堂)
 毎号,特集を組む形式で,その内容は多岐にわたり,必ずしもこころに関する事柄だけではなく文化や社会現象なども取りあげられています.ある事項に関して集中的に調べてみたい,深めてみたいという時には,最適でしょう.特集に取りあげられたもののなかには,女性のストレス(226号),悲しみへの援助(248号),現代の生きがい(281号),リラクセイション(311号),自己モニタリング(314号)などがあります.
 森田式精神健康法(長谷川洋三著,ビジネス社,1974)
 不安に対する構えや,「あるがままに」様々な感情を受け入れて行動していくことの重要性などが書いてあります.いわゆる森田療法の本ですが,決して教科書的ではなく相談の実例を盛り込んで,わかりやすく表現してあります.やや神経質傾向の人,ものごとにとらわれやすい性格傾向の人には格好の書物でしょう.因みに,著者は医師ではなく,かつては自らが種々の神経症的不安に悩んだ経験を持ち,森田療法と出会ったことで新しい生き方に目覚めた元新聞記者です.森田療法を扱った本は多くありますが,まず,この本からスタートするのが良いでしょう.
 「うつ」を生かす(大野 裕著,星和書店,1990)[493.76:O-67]
 悲観的に考えすぎる人,どうしても視野が狭くなり極端に走りがちの人などに参考になるのが,この書物です.最近脚光を浴びている認知療法の入門書ですが,一般の人が理解しやすいように,認知療法の成り立ちからはじまり,どのようにしてうつ病者特有の認知の歪みを訂正していくかなどが記されています.
 こころのセルフヘルプは,激しい落ち込みで抑うつ状態を呈している時は,難しく,そのような時は,一刻も早くカウンセリングや医療のルートに乗ることが大事です.しかし今回紹介した書物は,健康な大学生やサブクリニカルな人々の知的好奇心を満足させ更には,人格の成長や成熟を促すのに役立つでしょう.


本学・助教授
Self-help of Human mind, by Hideki Kotsuki