「行列のできる図書館の作り方 〜学生の図書館利用促進、学習支援を考える〜

平成20年度茨城県図書館協会大学図書館部会研修会

研修会実施要項

1 テーマ:「行列のできる図書館の作り方 〜学生の図書館利用促進、学習支援を考える〜」

2 趣旨

大学図書館は大学の学術情報基盤整備の中心機関であり、研究、教育、学習支援という役割を担うといわれている。しかし、学生にとっては図書館に行っても単位がもらえるわけでもなく、卒業まで一度も図書館に行ったことがないという学生も存在する。情報リテラシー教育の重要性が謳われて久しいが、授業のためだけではなく、図書館をキャンパス生活の中でもっと有効に活用してもらうためにはどうすればよいのか。学習をサポートするために図書館ができることとは何か。
学生が押し寄せる、行列ができる図書館となるにはどうすればいいのかを、文部科学省の平成17年度「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」、平成19年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」に採択された取り組みをもとに考えてみたい。

3 主催 茨城県図書館協会

4 日時及び会場

平成21年3月4日(水) 13:30〜17:10
筑波大学春日地区情報メディアユニオンホール
茨城県つくば市春日1丁目2

5 参加対象者

県内の大学図書館、公共図書館、公民館図書室等職員及び近隣の大学図書館職員

プログラム

基調講演「学生が来る図書館の条件」(13:40〜14:20)kenshu-fukei

事例報告1「マイライフ・マイライブラリー」〜学生の社会的成長を支援する滞在型図書館へ〜(14:20〜15:00)

文部科学省平成19年度「新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム」

事例報告2「読書運動プロジェクト」〜学生、教員、図書館が協力して読書の危機に挑む〜(15:00〜15:40)

文部科学省平成17年度「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」

パネルディスカッション(16:00〜17:00)

■コーディネーター:
  逸村裕(筑波大学図書館情報メディア研究科教授)
■パネリスト:
  橋本春美(東京女子大学図書館 図書館課長)
  鈴木明子(フェリス女学院大学附属図書館)
  高橋努 (筑波大学附属図書館 情報サービス課長)
  佐藤翔 (筑波大学大学院 図書館情報メディア研究科)

■パネルディスカッション要約


逸村:基調講演、事例報告に対して多数のご質問をいただいています。その中からいくつかを取り上げ、それに答える形で進行したいと思います。

逸村:最初に、次の質問には、学生の立場から答えてもらうということで、佐藤さんに少し話してもらいましょう。

(質問)図書館を利用しない学生をどのように図書館に来させるか
(質問)学生のニーズをどうつかむのか

(佐藤さんの発表)
図書館を利用しない理由としては、
・電子ジャーナル等、非来館サービスでこと足りる。
・研究室で研究環境が整っている。
一般的な学生としては、以下のような理由もある。
・授業のレジュメ等で十分。図書館に資料を探しにくる必要がない。
・バイト、サークルで忙しく、図書館に行く時間がない。
・そもそもあまり勉強していないから。

図書館を利用する理由としては、
・電子化されていない資料を使う。
・レファレンス資料を使う。
・ソファーでくつろぐ。
など、また、一般的には、
・資料の貸出
・レポート、卒論の執筆(人文、社会系は自由に使える研究室がないので)
・時間つぶし、新聞、一般雑誌の閲覧
・友達との待ち合わせ
などがある。

図書館に行く理由をまとめると、
a必要に迫られて使う。
図書館に行かないと利用できない資料が必要。
でも、図書館に行かなくても情報を入手できればそのほうがいい。
b行きたいところだから。

結論としては、
必要に迫られて行った時には、使いやすく。
そして、居心地もよい。
居心地の良さと機能性(資料の探しやすさ他)が両立していること。

最後にダメな図書館とは、
・必要に迫られて行っても使い勝手が悪い。
・特に用がないときにも行きたくならない。

(質問)OPAC利用者のサンプルは
逸村:25人くらい。報告したのは2人で、1人はyahooから入っている。もう一人はOPACから。特に探索スキルがある学生ではない。他にもいろいろな学生がいたが、学術論文的に紹介しやすい学生を取り上げている。特徴的な学生と多数派双方の学生を捉える必要があると考えている。

(質問)継続するためのインセンティブ
鈴木:活動をやっていて楽しいこと、盛り上がりが大切。テーマによって盛り上がるときとそうでないときがある。読書運動の成果は貸出冊数の増加などでしか見えないが、その数字では学生にはぴんとこない。
学生メンバーにおもしろいと思ってもらうこと。メンバー一人ひとりに声をかける。週1回のミーティングを楽しいものにする。一人ひとりの重要性を言葉で伝える。
学生からの意見はできるだけ取り上げる。うまくいかなくてもやってみれば納得できる。

(質問)他部署との関係、反応は?
橋本:GP事業として事前に全学的な了解を取っている。現実的には、それぞれの部署はいそがしいので、全学的な協力は難しい面もあるが、こちらから働きかけることが重要と考えている。

(質問)教員への働きかけは具体的にどうするか?
橋本:以前は、学内会議で図書館の活動があまり報告されていなかった。マイライフ・マイライブラリー以降は情報を積極的に発信するようにしている。キャリアセンターとは就職対策関係で連携。他部署からの申し出はできるだけ受ける。他部署に聞いて回ることで繋がりを作る。教員は委員会組織で協力を得る。マイライフ・マイライブラリー運営委員会を組織。学習コンシェルジェについても運営委員会の教員が活動内容、計画等において協力。学習コンシェルジェの相談内容はマニュアル化して学内の理解を得た。

鈴木:イベントの人集めが難しいので、教員を直接訪問。教員との信頼関係が大切。地道に草の根的なコミュニケーションをしている。
逸村:ある大学では、1年前期にある基礎セミナーのTAに図書館ガイダンス受講を義務づけている。教員も楽になるし、大学院生にもメリットがあり、一石三鳥。

(質問)成果指標としてどんなものを設定しているのか
橋本:GP事業の成果報告を求められる。定性評価だけでなく、定量評価が必要。数字で示すため、アンケートを実施。指標としては、認知度、利用率など。マイライフ・マイライブラリーの場合、学生の社会的成長をどうやって測るのかが課題と考えている。
逸村:定量的評価は出しておくしかない。教育のアウトカムはTOIECとか定量的に測れるものもあるが大半は難しい。中長期的に少しずつ上がる数値、例えば、貸出冊数、入館者数などはよい。電子情報源を提供したのに入館者数が減っていないのはプラス評価とすることができる。定量的と言っても解釈によって評価は変わるので。自己評価を求められた際にはSあるいはAと自己評価するのがよい。理由がつけられればそれでよい。評価において謙虚になる必要はない。

(質問)職員のチームワークを高めるには?
高橋:当たり前だが、職員間のコミュニケーションを良くすることが大切。ミーティング等により、双方向のコミュニケーションを図り情報を共有する。

逸村:環境が複雑化している今日、このような研修会で良い事例を聞くだけでなく、失敗の事例集を作ったり、良くない事例の研修会もあって良いのではと考えている。

小野寺(フロア):茨城大学では様々な改革を行っている。大学のトップページに図書館の活動を積極的に掲載する、学部を回って書架の狭隘化等、図書館の実情を説明するなど、学内に図書館の活動をアピールしている。具体的には教員や学生の成果を展示するコーナーを設けたり、市民への貸出サービス、図書館の古地図を使って水戸城下の地図を作成するなどの地域貢献の試み等を行っている。学生からは、図書館設備に対する改善要望があり、その要望からトイレの改修を行った。ハード面での立ち遅れが目立っている。

岡部(司会):茨城大学さんの試みなど各館の様々な試みを把握する努力ができていない。
うまく行かなかった事例はなおさらのこと伝わらない。組織として失敗事例を集めることは難しいかもしれないが、勇気ある個人が個人ベースではじめることはできるのではないか。

逸村:トイレをきれいにするのは大切なこと。図書館のトイレがあまりきれいでないということは学内の他のトイレもきれいでないということ。女子大ではトイレをきれいにすることは当たり前であっても共学大ではそうでもない。トイレをきれいにすることは学生を呼ぶための有力な要件となる。台風予算などをうまく利用するなどの方法もある。

逸村:アンケートには、事例・アイデアを書いてもらっています。時間も押してきたので少し紹介します。
・大学院生によるアドバイザ
・個人ガイダンスを丁寧に行う。
・新入学生に対して積極的にガイダンスを行っている。
・教員との授業における協力
・一年生必修科目のTAは図書館ガイダンス受講を義務づける

逸村:ガイダンス等は継続して行うことが重要。惰性にならず、特定の人の力に頼ることなく組織として実施できる体制を作る必要がある。

逸村:もう少し時間があるということですので、何か質問があれば。

佐藤:学習コンシェルジェはレポートには答えないということでしたが。筑波でも大学院生のアドバイザが相談を受けているが、答えは教えなくてもレポートの方向性などには答えないのか。
橋本:成績評価につながるレポートには答えない。
厳密な線引きは難しい。院生が教育、指導することはできないので、支援するということで行っている。特定のレポートに対してではなく、その分野の基本的な事項、情報検索の方法やレポートの体裁、著作権などについて支援している。
佐藤:特定のレポートに答えるほうが簡単。一般的な事項は聞かれても答えにくい。
橋本:そこのところは利用を促進するためにも課題だと認識している。相談内容については、メーリングリストで質問内容、回答を報告してもらい、館長、事務、マイライフ・マイライブラリー運営委員会の教員で確認している。
逸村:図書館が教育にどこまで踏み込むかは、意見が分かれるところでもある。

(予定の時間が過ぎ)
逸村:長時間にわたって、いろいろなお話を伺うことができました。皆さんのお役に立てばと思います。