筑波大学附属図書館報「つくばね」
「つくばリポジトリ」が始まります
富田健市
はじめに
 平成18年3月から,筑波大学の機関リポジトリである「つくばリポジトリ」の運用が開始されました。 「機関リポジトリ:Institutional Repository」とは,耳慣れない言葉だと思いますが,簡単に説明すると,学術機関の構成員が生産した論文等の学術情報を電子的に保存し,インターネットで世界に向けて発信するためのものです。近年欧米の学術機関で多く設置され,国内でもいくつかの機関で運用が開始されています。ただ,これまでの説明では従来の「電子図書館」とどこが違うのか,はっきりとしないと思います。その違いを含めて,どのようなサービスなのかを紹介します。研究者の皆様にはぜひ活用いただきたいと思いますし,学内の研究者の皆様には趣旨をご理解いただいた上,学術論文の登録等を含め是非「つくばリポジトリ」の充実にご協力をお願いします。

1.機関リポジトリとはどのようなものか
 機関リポジトリに含まれている「リポジトリ:repository」という言葉は,例えばアスキーの提供している「デジタル用語辞典」では,「貯蔵庫とか倉庫といった意味がある言葉。使われ方はさまざまで,何を指しているかは局面に応じて異なる」と説明されています。ただし,平成18年2月段階では,この辞典の想定している局面の中に機関リポジトリは含まれていないようです。
 機関リポジトリは学術機関リポジトリとも表記され,シリアルズ・クライシスと呼ばれる,学術情報の流通が少数の大手商業出版社に独占され,価格の高騰等により研究者が入手しにくくなっている状況への打開策として登場しました。学術論文を研究者の所属する機関のサーバに登録するところまでは,従来の電子図書館機能の一部と同じです。違っているのは,タイトル名や著者名といった基本的な情報を世界共通のフォーマットで記述することにより,世界中から論文を集めて公開している論文検索サーバ(複数存在し,今後も増えていきます)にも蓄積されることです。利用者は,論文検索サーバを検索することで,世界中の機関リポジトリに登録されている学術情報を自由に無料で閲覧できます。このことにより,論文の読者が飛躍的に増えることが期待されています。(図参照)
 機関リポジトリの現状等,もう少し詳しい概要については,学会の方たちへの説明用に準備したwebページがありますので,興味のある方はぜひそちらを参照してください。

図


2.「つくばリポジトリ」で集めるもの
 機関リポジトリは,前述したようにシリアルズ・クライシスへの対抗策としての意味合いから登場したため,収録されるコンテンツとして研究者から第一に期待されているのは,査読付きの学術雑誌に掲載された学術論文です。研究者からの要望に対して,出版社側でもある程度は対応していて,雑誌に掲載されたそのままの論文を著者が公開することを  認めているところもあります。ただし,現在のところはそのような出版社はまだ少数派で,多くは著者の手元にある雑誌掲載版の直前の版までを認めているだけです。そして,ご自身の論文の版を管理しておられていて,雑誌掲載版の前の段階のものを保存されている著者は,まだそんなに多くはおられないようです。このため,先行機関でも収録数は期待と比較してさほど伸びておらず,今後の課題となっています。つくばリポジトリでは,学内の研究者の皆様の登録を図書館がサポートし,学会や出版社との協議を行い,是非雑誌掲載版の収録数も充実させていきたいと考えています。
 機関リポジトリで収集する学術情報は,学術雑誌掲載論文に限定されるわけではありません。科学研究費補助金による研究報告を含む研究報告類,紀要掲載論文,学位論文等も対象となります。筑波大学附属図書館では平成9年度から電子図書館の構築が始まりましたが,当初から学内の学術情報の収集を大きな柱として位置づけてきました。したがって,すでに数千件レベルで各種論文の収集・電子化を終えています。つくばリポジトリの公開にあたって,これまで収集してきた学内研究成果についても,機関リポジトリのフォーマットへ変換した上で収録しています。これにより,つくばリポジトリは発足時から国内有数の規模を持つ機関リポジトリとなりました。
 つくばリポジトリで収集する学術資料の中で,雑誌掲載論文と並び大きな柱の一つとなっているのが博士学位論文です。筑波大学発足から平成15年度までの5,578論文について「博士論文:論文の概要および審査の要旨」の内容がすでに収録されています。  このうち,約千件については,全文または著者による要旨も収録されています。また,本学の教員の中で本学の学位を取得されている方は,340名ほどいらっしゃいます。この中で電子図書館に学位論文を登録済みの方は,140名と半分以下にとどまっていました。昨年,まだ登録されていない200名の方に,改めて登録をお願いしたところ,半分以上の方から回答をいただき,100名の方に登録を承諾いただきました。この中には,著作権などの権利処理が原因で残念ながらすぐに公開できない方もおられ,最終的に論文が収録できたのは84名の方でした。この結果,340名中224名の方の学位論文が収録されることにより,収録率は65パーセントを超えることになりました。まだ登録済でない方,さらには今後学位を取得される皆様には,今後ともご協力をお願いします。

3.Tulips−Rについて
 つくばリポジトリの英文の名称は,「Tulips−R」といいます。「Tulips」は,これまで筑波大学電子図書館サービスの英文名称である「Tsukuba University Library digitized Information Public Service」の略の意味で使われてきました。しかし,電子図書館サービスは,その開始時には従来の図書館サービスとは別個の特殊なサービスという位置づけでしたが,学術情報が電子体で流通するのが一般的となった現在では,あらゆる面で従来のサービスとも一体となって利用者に提供されるものとなっています。このため,これからの「Tulips」は,従来のものから「digitized」を除いた,「Tsukuba University Library Information Public Service」の意味で使うこととしました。したがって,筑波大学附属図書館が提供する全てのサービスの総称が,「Tulips」だということになります。
 「Tulips」は,サービスの総称ですので,いくつかのコンポーネントから成立しています。つくばリポジトリも,「Tulips」の一部ですからコンポーネントの一つであり,リポジトリの英文の頭文字「R」と組み合わせて,「Tulips−R」となります。
 今後は,新しい内容となった「Tulips」とその一部である「Tulips−R」を,より充実したものへと成長させていきたいと思いますので,皆様のご支援をお願いします。
(とみた・けんいち 情報サービス課長)
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