筑波大学附属図書館報「つくばね」
附属図書館の本年度の目標と課題
植松貞夫

はじめに
 本年度最初の館報「つくばね」の発行にあたり,学内外の関係者各位に,筑波大学附属図書館への一層のご支援と,ご協力をお願い申し上げます。
 附属図書館では,秋葉原のビジネス科学研究科法曹専攻の開設にあわせ,4月8日に法科大学院図書室を開室した。広さ約405m,蔵書収容力約2万(現在約3,500)冊,120(現在40)席の規模である。
 さて,附属図書館では,本年度の重点目標を(1)サービスの充実,(2)蔵書・コレクションの充実,(3)管理運営の効率化の各側面から決定した。
 また,図書館機能の全般的な向上に向けた研究開発を目的とする「研究開発室」を本年度から開設し,6月以降本格的な活動を開始することとしている。
1.サービスの充実
 昨年度は「来館してもらう価値のある図書館」への努力を行ってきた。大学図書館の利用形態には,来館型利用と電子図書館機能を介した非来館型利用とがあるが,附属図書館としては,サービスの基本は「まず来館してもらうこと」と考えている。本年度も,館内環境の改善や職員による適切な利用者支援により,来館者の増加と来館者の満足度のさらなる向上を目標に,館内に「図書館サービス向上プロジェクトチーム」を編成し,種々の改革を継続的に実施することとした。具体的には,以下のような内容を課題としている。
1)施設・利用環境面の改善
 筑波大学図書館は,とくに中央図書館は,全国の大学図書館を通じて,面積規模,蔵書規模,開架資料規模,座席数などからみて特大に位置する。その「大きさ」は本図書館の誇りとするところではあるが,反面,その巨大さゆえに,利用者が求める資料に到達することが難しいということも少なくない。また,さしもの中央図書館も30年間の蓄積を反映して,狭隘化が進行している。このことから,利用者が資料により容易に到達できることを目的に,開架書架スペースの利用環境改善を図る。
 具体的には,
 ・開館以来蓄積された図書が並ぶ2階から5階の開架書架スペースは,いずれも満杯に近くなっている。書架の狭隘化対策として,一部の図書を書庫に移動させるなどにより,開架書架には比較的新しい図書が,分かりやすく取りだしやすいように並ぶようにする。
 ・館内のサイン・表示について総合的な見直しを行う。
 ・検索用パソコンの設置場所や,検索画面の改善を図る。
 など
2)パソコン環境の改善
 現在,筑波地区の図書館内には,附属図書館の電子図書館システムの端末(186台)と,学術情報メディアセンターの教育用計算機システムの端末(101台)とが設置されている。いずれも,平成18年3月から新システムにリプレースされる予定で,現在それに向けた作業が進行中である。
 その中では,現在よりも館内に分散配置することを基本に,設置位置を見直しすることも含まれている。可能な限り1人当たりの占有面積を広くするなどや利用者のパソコン利用行動の実体に即した形で,機能向上したパソコンが,より使いやすく快適な環境に配置されるよう計画している。
3)土日・祝日の開館時間の改善
 昨年11月から,試行的に土日祝日の開館時間を従来より3時間早めて午前10時からとすることを実施した結果,来館者の増加効果が確認できたため,本年度は利用規則上にこれを定め定常化する(大塚図書館と法科大学院図書室を除く)とともに,これまで日曜日の開館を行っていなかった体芸図書館でも,日曜日開館を実施することとした。
4)非来館型利用環境の改善
 館報前号で紹介したように,昨年度末に,附属図書館電子図書館システムのWebページのトップページのデザイン・レイアウトを一新した。今後は新システムへの移行もふまえ,使い勝手のさらなる向上を図ることとしている。
 電子図書館システムからは,電子ジャーナルなどのデジタルコンテンツへのアクセスを提供しているが,現在計画中の電子図書館の新システムでは,従来からの機能に加え,附属図書館の内外を問わず,利用者の知的生産にとって必要な電子的情報資源を有機的に統合し,最小限のアクションで最適な情報源に到達できるよう,情報資源リンキング機能や,いわゆるMy Library機能などを備えた「リソースオーガナイザー型電子図書館」を目指すこととしている。
2.蔵書・コレクションの充実
 筑波大学附属図書館は,全学共同利用を標榜して,一元的な図書館の設置と運用,全学資料の物理的な集中管理とその全面開架方式による提供等,少ないサービスポイントでの重点的・専門的な図書館サービスの提供を基本方針としてきた。
1)活字資料の充実
 昨年度は,教育用基本図書,学生用希望図書,留学生用図書及び図書館情報学分野図書の資料充実を行った。また,各学群・学類に推薦を求めている教育用基本図書について,シラバス掲載の参考図書を優先するなどの選書方針の見直しを行った。本年度も,上記の主に学生を利用対象とする図書について効果的な選書による整備を行う。
 しかし,学術研究用図書の充実については,教員の研究費による購入に依存している状況に変わりがない。
 ・(現在および将来)自身の研究に必要
 ・学生・院生の研究に利用させたい
 ・次代の研究者に利用させるために図書館には備えておきたい
 ・他大学教員など学外者のためにも筑波大学には所蔵しておくべき
といった図書資料については,ぜひ積極的に購入していただくよう教員各位にお願いいたしたい。
2)電子的情報資源の充実
 近年,電子ジャーナルやデータベース,電子ブック等の電子的資料の普及にはめざましいものがある。しかしながら,これに呼応した学術雑誌の価格体系の変更(従来の電子版プラスから印刷版プラスへ)と,アクセス料の継続的な値上げなどにより,電子的資料の収集を安定的に継続することが困難になっている。
 また,本学電子図書館から提供できている電子ジャーナル,データベースの種数は,対教員・大学院生数や分野の多様性などからみて,全国の主要大学に比して低いレベルにある。
 本年度以降,電子ブックを含めた電子的情報資源の拡充を計画しているが,それには全学での一層の経費負担が必要になることについて,ご理解をお願いしたい。
3)機関リポジトリ構築への取り組み
 国立大学図書館協会に学術情報員会(筑波大学は委員長館)が設けられ,そこにおける具体的かつ緊急性の高い課題に取り組む小委員会の一つとしてデジタルコンテンツ・プロジェクト(筑波大学が主査)が活動を行っている。この小委員会では,機関リポジトリ(Institutional Repository)の実現に向けた啓蒙活動や,具体化へのモデルの提示を大きな課題としている。
 機関リポジトリとは,上記の電子ジャーナルに代表される,学術情報流通の商業出版社による独占状態に起因する問題の解決策の一つとして構想されているもので,大学などが学術情報発信のためにサーバを用意し,所属する研究者が研究成果である学術論文などをそれを通して公開する学術情報の「オープンアクセス」の方式である。
 筑波大学は1998年に,「発信型電子図書館」を標榜して,全国の大学図書館に先駆けて先導的電子図書館の予算措置を受けているが,その具体化の一つとして,学内の博士学位論文の全文コンテンツの提供を行ってきた。しかし,図書の場合の目録にあたるメタデータが不十分であるなど,使い勝手のよいものとはいえない。学位論文を含めて,学内で刊行されている紀要や,学術雑誌に報告された学内教員の研究論文などを収集し,有機的に整理して提供する本システムの実用化に向けた検討と,教員の理解を得る活動を展開する予定である。
3.研究開発室
 附属図書館研究開発室は,図書館機能の高次化に資する研究および開発を行うことを目的に設置するものである。
 法人規定に定められた具体的な業務は,
 (1)学術情報の収集および管理の一元化・効率化等にかかる研究および開発に関すること
 (2)学術情報の収集,管理,提供,発信等にかかる制度的・技術的課題の研究および開発に関すること
 (3)電子図書館にかかる調査および研究に関すること
 (4)貴重図書等図書館資料の保存等にかかる調査および研究に関すること
 (5)その他教育研究支援活動にかかる調査および研究に関すること
とされている。このような業務の遂行のため,教員の副館長を室長として,学長が指名する室員(教員)による複数の研究プロジェクトグループを形成することとしている。また,図書館の機能向上に直接つながる課題解決を目的に,具体的な課題をテーマとすることから,研究グループには適宜職員を交えて,現場からの発想をとり入れるとともに,職員の資質向上の機会とすることを意図している。
4.管理運営面での改善
 昨年度から,上記のサービスの充実,蔵書・コレクションの充実の目標を実現するために,具体的な業務の進め方について抜本的な総点検を実施し,組織編成などの再構成を実施してきているが,サービス水準のさらなる向上にむけて一層の努力を続けることとしている。中でも,教員の図書購入請求から整理までに要する期間の短縮は早期に実現させる。
おわりに
 以上,本年度の目標と課題について概要についてまとめた。可能なものから早急に実現化を図りたい。ご支援とご協力をお願いする次第である。
 なお,附属図書館ボランティアが開始以来,6月1日で10年となる。現在は46名のボランティアが館内でさまざまな活動・サービスを展開されているが,内12名は開始以来継続されている方である。ここに記して感謝の意を表したい。
(うえまつ・さだお 附属図書館長)
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