筑波大学附属図書館報「つくばね」
附属図書館の目標と課題
植松 貞夫
ご挨拶
館長写真  本年4月1日より館長に就任しました。法人化に伴い附属図書館は,国立大学法人筑波大学における一部局と位置づけられ,館長は専任職になり,任務と責任範囲は従来にも増して大きなものとなりました。中央図書館と4専門図書館の構成には変りありませんが,部局としての出発に際して,館長のもとに教員(併任)と事務職(専任)の2副館長を設け,管理・運営・サービス全般にわたる企画・執行の体制を整えました。また,組織のスリム化を行いました。
 これまで図書館にかかわる教育・研究に携わってきた者として,いささかの経験を含め,全力でこの任に当たる所存です。着任以来7ヶ月が経過していますが,今年度第1号の『つくばね』発行(本号よりWeb版のみに変更しました)にあたり,附属図書館の今後の方向性の一端を記すとともに,各位のご指導・ご鞭撻をお願いする次第です。
1.附属図書館の目標:先進的大学図書館像の追究
 本学附属図書館は30年前の開館以来,学際的利用とその教育の発展に資するため,図書館資料の集中管理,資料情報の一元的管理,全面開架方式,夜間22時までの開館,土・日・休日開館など,全国の大学図書館の範となる先進的な取り組みを続けてきた。また,情報のデジタル化への対応でも,1998年に国立大学初の先導的電子図書館の予算措置を受けて以降,着実な成果を蓄積し,この面でも先進的大学図書館の評価を得ている。
 今後も,全学構成員および学外の関係者のご協力・支援を得て,知識・情報を収集,整理,保管して利用に供するという図書館の基本機能を着実に発展させることで,新しい時代における学習・教育・研究の中核的な機構として,学内外に先進的大学図書館像を提示し続ける存在であることを目標とする。
 具体的には,第一に,全学構成員の知的活動に不可欠の「頼りになる図書館」となること,第二に,これまではややもすると投資に対する効果の測定が不十分であったり,資源の配分・投入に関し経営的な観点が不足していたことの反省にたち,法人化後の大学図書館として,経営感覚を備えた主体としての大学図書館運営を行うこと,第三には,地域社会並びに社会に対する大学の貢献・連携の一翼を担う活動を展開することである。
(1)頼られる図書館に
 知識と情報の創成・流通・蓄積にかかわるコンピュータと情報通信技術の進歩は,情報の受発信におけるセルフサービス化を拡大する方向に向っている。これは専門家が専有していた知識と技術を大衆化するものであり,いわば専門家不要の方向である。これが,資料を用いた知識再生産活動の場である図書館とそこに働く専門家としての図書館職員の地位の不安定化をもたらしている。この状況下にあって,附属図書館が大学における教育・研究の基幹施設・機能であり続けるためには,個人ではもち得ないコレクションを蓄積したりデータベース等電子的情報資源を豊富に備えること,利用者のレベルを常に上回る専門的知識と技術を有する職員による人的サービスを提供することで「さすが図書館は頼りになる」と思ってもらえる,信頼される図書館でなければならない。
a:学習図書館機能の充実
 大学院に重点を置く筑波大学にあっても,最大の構成員は学部段階の学生であり,附属図書館の利用者の最大集団である。これら学生が主体的かつ積極的に勉学に没頭できる知的な環境を提供するのが附属図書館の任務の第一である。学生が図書館を利用する主な理由を挙げれば,(1)講義,演習・実習,試験に関連した自学自習,(2)卒業研究や自己の関心についての調べもの,(3)教養の増進,娯楽を目的とする読書等,そして(4)待ち合わせの場所や昼寝する座席の利用ということになろう。このうち(4)以外に関しては,ネットワーク上の電子的情報資源の膨大化により,必ずしも図書館への直接来館を要しない利用形態が一般化してきている。来館者数は減少傾向にあり,来館しても活字資料の利用が減少する傾向にある。
 しかし,学習図書館機能には体系的で網羅性の高い蔵書構築が基本であることから,学生用資料の整備にかかる経費についてはこれを高い水準で維持することを「中期目標・計画」にも明記したところである。インターネットへの過度の依存を抑制し,活字を通した知識獲得の場とすべく魅力的な蔵書構築に努めたい。同時に,学習,調査・研究の目的ごとに選べる多様で機能的かつ快適な利用環境の整備を図る必要がある。本学図書館は延べ60余の研究個室を有するなど,建設時には先進的なものであったが,一部には老朽化が進んでいたり,新しい利用形態にそぐわない部分もある。全図書館施設について見直しを行い,活字資料とネットワーク経由の資料・情報の両方を同時に利用するメディアミックス型利用に対応できる図書館への転換を図ることで,学生にとって,学習と情報収集のために,さらには特段の目的をもたなくても,行かずにはおれなくなるような雰囲気と活気に満ちた学習図書館としたい。「来てもらえる図書館」への努力を怠ってはならないと考えている。
b:研究活動に貢献する図書館
 研究図書館機能に関しては,研究の基盤となっている電子ジャーナル等電子的資料の整備・充実が喫緊の課題である。電子的資料は自然科学,医学,科学技術分野で先行していたが,人文社会系分野でも急速に拡大している。的確・迅速に情報が得られることから,研究の情報源として必須の要素に成長した。また,全学全構成員が,時間と場所の制約を超えて,平等に利用できる高い共用性をもつという特徴を有する。しかるに,本学の電子的資料の整備水準は同規模大学に比して決して高いとはいえない。加えて,その経費負担方式についても改めるべき時期に至っている。附属図書館としては,電子的資料の質・量両面の充実並びに安定的な整備体制に関し,平成18年度からの抜本的な改革案を提示して各構成員の理解を得るべく努力していきたい。
 電子的資料のみに目を奪われがちであるが,図書等活字資料の充実による研究図書館機能の整備にも特に教員各位のご協力を要請したい。大学図書館の学術図書コレクションの構築は,そのほとんどを教官研究費による購入に依存している。すなわち,大学図書館が学術・研究図書館として充実できるか否かは,教員の図書購入にかかっているといえる。しかし,筑波大学全体での資料購入に支出される金額は同規模大学に比べて多いとはいえない状況にある。その原因には,デジタル情報資源へのシフトといった外部要因と,本図書館のいわゆる100冊制限など制度上,および整理期間が長いなど業務上の問題という内部要因とが挙げられよう。内部要因については,現在全般的な見直しを行っており,業務処理手順の改善や一部のアウトソーシング,オンライン書店の利用など工夫・改革に努める所存である。
 活字資料と電子的情報資源へのアクセスの両方が充実したハイブリッド図書館を,研究図書館の先進像としたい。後に続く学生・院生・研究者の利用も視野に入れた,将来にわたる大学の資産としての充実した蔵書コレクション構築のために教員各位のご協力を改めてお願いしたい。
c:職員の資質向上
 頼りになる図書館は頼りにされる図書館職員がいて実現される。高い専門知識と技術を備えた職員を確保・養成することで,人的サービスの充実に努めたい。そのためには,新規の職員の採用方式等についても検討する必要があるが,当面の課題として(1)質の高いサービス提供への組織編成,(2)教員と一体となっての研究開発が可能となる研究開発室の設置,(3)単純・反復的な業務を軽減して知的労働に専念できる環境と制度の整備に向けての検討・働きかけを行ってきている。また,国立大学の法人化後,大学図書館の中堅職員を対象とする大学図書館職員長期研修は,筑波大学の主催事業となったが,これを含め職員の資質向上への自己啓発を促す方策を積極的に講ずる予定である。
(2)地域貢献,社会連携の窓口として
 本学附属図書館では地域住民にも開かれた図書館として,閲覧サービスを提供してきた。また,社会人の生涯学習,社会貢献の場として活用してもらうために,1995年から40数名の社会人ボランティアの受入を行い,来年度10周年を迎える。ボランティアは利用者にも好評であり,職員の啓発にも寄与している。また,県内公共図書館や筑波研究学園都市内各機関の図書館等,最も関連の深い国立情報学研究所を始めとする全国の国立大学図書館等との連携協力に関しても,附属図書館は社会連携の窓口として積極的に取り組んできた実績を有している。今後とも一層の強化・拡充に努めたい。
 それとは少し観点が異なるが,大学図書館にも,生涯学習の場や折にふれてのリカレント学習の場としての役割が求められている。退職された教職員,卒業生,修了生,各種講習の受講者等の本学関係者が,気軽にいつでも「ホームカミング」できる図書館となるべく利用規則等を見直していきたい。
2.情報発信型図書館
 文部科学省科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会情報科学技術委員会デジタル研究情報基盤ワーキング・グループは,2002年3月の「学術情報の流通基盤の充実について(審議のまとめ)」において,大学図書館に様々な学術情報の総合的な発進窓口(ポータル機能)を担うことを求めている。本学附属図書館の電子図書館では,当初から情報発信機能が最優先の事項に挙げられてきた。今日「学術機関リポジトリ」と呼ばれる学内研究者の研究成果の発信機能については,先進的取り組みとして国内外から注目されてきたところである。今年度から附属図書館は国立大学図書館協会の学術情報担当理事館となり,この機関リポジトリ構築の全国的な整備推進のとりまとめを行うこととなった。部分的に先行する国立情報学研究所との連携を図りつつ,全国のモデル図書館としてより一層の機能強化に取り組みたい。学内で生産される学術論文,研究開発成果,並びに博士学位論文等を,知的所有権にも配慮しつつ,網羅的に収集し発信することが課題である。
 これに加えて,上記のまとめでは,大学全体の情報発信と学術情報の発信を結合あるいは融合させた新たな情報流通基盤体制を整備することを求めている。学術情報メディアセンターとの協調による大学情報機構の構想もあり,関係部局等との協議課題である。


 以上,やや羅列的な記述になったが,企画・立案・執行・評価の体制を整え,大学における知的活動のバックボーンとして情報・知識の蓄積を強化し,利用しやすく,頼りがいのある図書館という目標の実現に向けて努力することを表明してまとめとしたい。
(うえまつ・さだお 附属図書館長)
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