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シリーズ・電子ジャーナル
(2)電子ジャーナルの導入をめぐって
9月から,エルゼビア社のSD−21プロジェク
トへの参加に伴い,筑波大学においても本格的な電子ジャーナルのサービ
スが始まりました。電子ジャーナルへの取り組みは,急速に進んでいるのです
が,今回は,電子ジャーナルの現況とわが国の大学における電子ジャーナル導
入を巡る状況について,見ることにします。
電子ジャーナル・サービスの現況
今のようなインターネット上で学術雑誌が読め
る電子ジャーナルの登場は,1992年10月のOCLC
による Electronic Journals Online が最初とさ
れています。当初は,冊子体の存在しない,オン
ラインのみのものが中心でした。その後,エルゼ
ビア社のTULIP実験計画の成果を踏まえ,学
術出版社系を中心に冊子体の存在するものを電子
化して提供する形態が増加し,現在ではこちらが
主流になっています。米国で「電子ジャーナルの
年」とされている1996年には,各社の電子ジャー
ナルが相次いで提供され,実験段階から大きく実
用段階に踏み込んでいます。
代表的なサービスとしては,学術出版社系では,
エルゼビア社の ScienceDirect及びEES,アカ
デミック・プレス社のIDEAL,シュプリンガ
ー・フェアラーク社のLINK,ワイリー社の
InterScience, 他にオックスフォード大学出版局,
ブラックウェル社などのサービスも知られていま
す。 学協会系では,米国化学会(ACS),米
国物理学協会(AIP),米国電気・電子技術者
協会(IEEE),英国王立化学会(RSC),
英国物理学協会(IOP),英国電気技術者協会
(IEE)などの大手が積極的に取り組んでいま
す。なお,IOPの刊行する35誌については,今
年の秋口から,文部省学術情報センターがナショ
ナル・サイトとなり,わが国の学術研究機関に無
料提供(各機関の雑誌講読の有無にかかわらず)
されることが決まっています。
さらに,スエッツ社の SwetsNet,OCLCの
Electronic Collections Online,オーヴィド社の
Ovid Full Text,シルバープラッター社のSilver
Linker(ERLの拡張版)などのように複数の出
版社の電子ジャーナルを包括的に提供するアグリ
ゲーター・サービスというのもあります。
わが国では,学術情報センターが日本の学協会
誌のフルテキストを提供する電子図書館サービス
を1997年4月から始めています。 300タイトルに
及ぶ学協会誌を提供しています。また,日本化学
会,日本生化学会,日本物理学会などの大手学会
では独自にもサービスしています。
どのくらい電子ジャーナルが出ているのか,正確な数字は把握できかねます
が,一説には1万数千タイトルと推定されています。ちなみに,北海道大学の
図書館職員有志で作成しているオンラインジャーナル・リンク集 (http://ambitious.lib.hokudai.ac.jp/online_journal/)
には約8千タイトルが採録されています。世界のカレントな学術雑誌は約4〜
5万タイトルと言われていますから,その四分の一から五分の一程度を電子的
に読むことができる状況が生まれているということです。
わが国の大学での導入状況
このような電子ジャーナル・サービスの進展に
対して,わが国の大学図書館はどのように取り組
んでいるのでしょうか。
1996年12月に実施された国立大学図書館協議会
(加盟館 100校)の調査結果では,電子ジャーナ
ルの導入館は予定を含めても15%でした。しかし,
1998年10月に行われた学術情報センターの調査で
は,「冊子体の定期講読によりアクセス資格を持
つものを導入している」という設問に50%以上の
図書館が○をつけています。また,今年の8月に
実施された電子ジャーナル検討ワーキンググルー
プのエルゼビア社のSD−21に限定した導入状
況調査では,回答のあった62館中41館(66%)が
導入済か導入予定で,残りは検討中でした。こう
した一連の調査結果から,国立大学において急速
に電子ジャーナルの導入が始まっていることが推
測されます。
とはいえこれらの数字を以て,わが国の大学図
書館においても,電子ジャーナルの導入が本格化
していると判断するのは早計でしょう。たとえば,
冊子体の講読契約とは別個に電子ジャーナルを購
入するケースや,冊子体の講読価格にプラスアル
ファして電子ジャーナルを導入するというケース
は,引き続き低率のまま(前述の学術情報センタ
ーの調査では15%程度)だからです。
つまり,冊子体の無料付加サービスには対応で
きているものの,電子ジャーナルを単独で扱うケ
ースは,国立大学の会計制度上の問題もあり,導
入契約を結ぶまでに至っていないのが現状です。
もちろん,契約だけの問題ではありません。導入
のための新たな経費をどう手当てするか,過去分
の保存問題にどう対応するか,文献複写などの図
書館協力(ILL)の問題はどうなるかなどの課
題がたくさん存在するのです。
電子ジャーナルの導入問題は,個別の図書館で
対応するにはあまりにも課題が多く解決困難であ
り,組織横断的に検討すべきであるというのは,
全国の大学図書館の共通認識でしたから,本年5
月,国立大学図書館協議会に電子ジャーナル検討
ワーキンググループ(関東・東京地区担当)が設
置され,集中的に検討されることになりました。
電子ジャーナル検討ワーキンググループでは,
先ず,緊急を要し,かつ複雑な契約内容をもった
エルゼビア社のSD−21プロジェクトの問題に
取り組み,各大学の導入の参考となる具体的な提
案をしています。
また,アカデミックプレス社やワイリー社など
の具体的な提案を参考に,経費モデルの検討やI
LLへの影響などの調査を実施しながら,電子ジ
ャーナルの利用に係わるコンソーシアムの可能性
について検討を行っています。
さらに,国立大学においては最大の課題である
電子ジャーナルの導入契約の標準的なモデル作り
にも取り組んでいます。
電子ジャーナルという新しい情報サービスが,
利用者に対する福音であるとすれば,図書館はそ
の導入に対し積極的でなければなりません。難し
い課題を抱えてはおりますが,ひとり筑波大学図
書館だけでなく,全国の大学図書館の知恵を結集
して,早急に解決を図りたいと思います。
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Last updated: 1999/09/28