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電子図書館とは何か

原田 勝

 最近,1年前に任務を終了した国立国会図書館電子図書館推進会議の委員およびオブザーバーを中心とする多彩な執筆者の協力を得て,電子図書館をめぐるさまざまな問題を論じた本を編集する機会に恵まれ〔1〕,改めて「電子図書館とは何か」を考える必要にせまられた.
 一般の常識に反するかもしれないが,誰もが合意できる電子図書館の定義はまだない.もちろん,電子図書館に関しては世界中で多数のプロジェクトが実施されており,それらのホームページを見ると,定義らしいものを見ることはある.
 電子図書館とは「インターネットとWWWをプラットフォームとする情報提供システムである」というような定義もある.数年前は,インターネットとWWWがありさえすれば,フリーのゲートウェイ・プログラムを入手して,あとは,資料電子化のための資金に応じて,いくらでも大きな電子図書館ができると考えていた人も多かった(今でもいる).
 また,インターネット上に無数に存在するネットワーク情報資源の総体が,すでに事実上の電子図書館になっていると主張する人たちもいる.
 しかし,世の中には,誰もが電子図書館と認める大規模な統合システムはまだ出現していないのである.現物がないのに定義するというのは難しいこであり,それまでの経験によってとらえ方は大きく異なってくる.
 実際,電子図書館の世界に入ってきた人たちの経歴はさまざまである.ネットワーク専門家,ソフトウェア技術者,マルチメディア専門家,図書館システムの開発グループ,図書館員,出版人などは,まだ近い方だといえる.
 このような人たちが電子図書館の定義を試みれば,大きな違いがでてくる,それが,利用者から見た電子図書館とも大きく違ってくるのは当然である.
 たしかに現在の電子図書館の実現に向けた取り組みは,情報通信技術の進歩によって可能になったものであるが,電子図書館はまず図書館でなければならない.そして,単なる資料の集積場所を図書館とはいわないのと同じように,いかに大量のディジタル文書を保有するシステムがあったとしても,それを直ちに電子図書館と呼ぶことはできない.
 つまり,電子図書館は,次のような要件を満たしている必要がある.
 1)明確な目標・目的を持っている.
 2)一貫した方針のもとに,コレクションが構築されている.
 3)十分に評価が加えられた,優れた資料を保有している.
 4)コレクションが組織化され,検索手段が整備されている.
 5)すべての利用者に公正な利用を保証し,プライバシーなどへの配慮がある.
 6)新しい情報流通の仕組みを知悉した図書館員がいる.
 7)印刷資料を有する図書館では,印刷資料とシームレスに統合されている.
 もちろん,電子図書館はまず図書館でなければならないとはいっても,必ずしも従来と同じ図書館を意味するわけではない.例えば,大学図書館は,研究・教育の支援という目標のみでは十分ではなくなり,大学図書館の公開,アカウンタビリティーを高めるための情報公開,地域住民・機関との良好な関係の構築(PR),共同研究の推進,インターネット通信教育の導入,などへの対応を求められてくる.
 図書館は,こうした変化を視野に入れ,電子図書館の構築を好機として,役割の再定義をしなければならない.
〔1〕 原田 勝, 田屋裕之編『電子図書館』勁草書房,近刊.


本学教授
Requirements for the electronic library,by Masaru HARAPA