Readingバトン(徳永 幸彦 生命環境系准教授)

2015年12月16日
Readingバトン -教員から筑波大生へのmessage-
和田先生に続く第24走者として、徳永 幸彦 生命環境系准教授から寄稿いただきました。

 

 

Pick Up
『偶然の科学』ダンカン・ワッツ著 ; 青木創訳. 早川書房, 2012.1【301.6-W49】

Book Review
 科学的説明からは、歴史的側面は極力排除すべきことになっている。しかしながら、この歴史性の魅力に我慢できなくて、前世紀に1本だけ、この言葉をタイトルに含んだ理論論文を書いた。結果は散々で、10年余りの間、誰からも引用されなかった。しかし、2000年を越えた辺りから、ぽろぽろと引用が始まった。
 何故、目の前の現象が起こっているのか、科学者でなくても人々は何がしかの説明を試みる。しかしながら著者のワッツは、「モナ・リザが人々を魅了するのは、モナ・リザが芸術的に優れているものを持っているからではなく、人々が魅了されるようになったからである」という解釈を投げかける。我々の善悪や公平、優劣の判断は絶対的なものではなく、文脈や歴史、社会的環境が偶然に規定した制約の中で、これまた偶然に決まっていると解釈する。いや、偶然に決まっているという観方をまず受け入れてから、その上で科学的推論や解釈を試みることを推奨している。
 一見非科学的にもみえるこの姿勢は、ネットワーク科学を駆使した実験に裏打ちされた主張でもある。そのネットワーク科学にはびこる常識にも、著者は懐疑的である。例えば、ネットワークの中において、スーパースプレッダーやインフルエンサーだと考えられる「特別な存在」の影響は、思ったよりも小さい。だから、ネットワークのアウトプットに対する妥当な予測を得たいならば、反常識を培い、実験をしかけ、測定不可能と思っていることを測定するべきであると主張している。
 世の中ネットワークだらけである。この本は、様々なネットワークの柵を紐解くためのヒントを、そして何よりも覚悟を与えてくれる。私も、自分の歴史性についての論文の引用が、近年突然始まったのは何故か、反常識を駆使して詮索してみようと思う。

■次は、菊池彰先生(生命環境系准教授)です。