Readingバトン(波多野澄雄 附属図書館長)

2011年2月23日
Readingバトン-教員から筑波大生へのmessage-
山田学長に続く第2走者として、波多野澄雄 附属図書館長から寄稿いただきました。

 

 

Pick Up
『歴史を学ぶということ』入江昭著.講談社 , 2005.10【分類289-I64】

Book Review
 この本は、高校を卒業後、すぐにアメリカに留学され、半世紀を歴史の教育と研究に捧げた入江昭教授の自伝風の歴史の入門書です。主に新入生向けに開講している全学共通科目「大学と学問」と題するオムニバス講座の教材の一つです。
普通の入門書とはちがって、自分の体験に寄り添いながら、歴史を学ぶということは何を意味するのか、現在の世界を理解するにあたって、なぜ歴史が重要なのか、といったことを考えようというものです。例えば、自分の国の歴史をどのように理解し、どのように後の世代に伝えて行くべきか、といった問題について、私たちはどうしても日本人の立場で過去を正当化しがちです。その例が歴史教科書です。日本の教科書は、他国から見ると日本の過去の戦争や外交を正当化しているように見え、しばしば批判され、国際問題となることがあります。
この問題をどのように考えるべきなのでしょうか。歴史教科書は、その国の歴史や伝統に基づくもので、歴史を国際化したり、他国と共有したりすることはあり得ないという立場も当然あります。入江教授は、それはそれで一つの見方であるが、「一国の歴史は他国との歴史との関連においてこそはじめて意味をもってくるのだ、という考えも尊重されなければならない」と述べています。なぜなら、現代世界が人や情報や文化・文明が国境を超えて激しく移動し、私たちの生活に影響を及ぼし、いわゆるグローバル化しているとすれば、一つの国の歴史も他国との関係や世界とのつながりのなかで、その発展や特徴を考えることの方が意味があり、重要であるという見方も成り立つからです。つまり、一人一人が現代の世界をどう理解するかによって、歴史の見方も違ってくるというわけです。
本書の世界を見る眼は、悲観的であるより楽観的で、現実的であるより理想的ですが、私たちはどのような世界に生きているの、どこに向かおうとしているのか、世界の動きや過去をどのように理解すればよいのか、といったことを考える多くのヒントが含まれています。

■次は、吉武博通先生(大学研究センター長)です。