Readingバトン(池田潤 人文社会系教授)

2014年8月19日
Readingバトン -教員から筑波大生へのmessage-
永田学長に続く第12走者として、池田潤 人文社会系教授から寄稿いただきました。

 

 

Pick Up
『新しい世界史へ : 地球市民のための構想』羽田正著.岩波書店 , 2011 【分類081-I95-R1339】

Book Review
 「現在私たちが学び、知っている世界史は、時代に合わなくなっている。現代にふさわしい新しい世界史を構想しなければならない。」これが本書のメッセージです。
 本学でもそうですが、日本には史学を日本史、東洋史、西洋史に分類する伝統が存在します。著者によると、これは日本を「自」として「他」と峻別し、後者を見習うべき西洋と指導すべき東洋に分ける世界観の産物だといいます。だとすれば、これは戦前の日本でしか通用しないアナクロかつローカルな分類で、たしかに時代に合っていません。戦後、学校教育に登場した「世界史」も旧来の東洋史と西洋史の合体に過ぎず、新たな世界観は呈示できていないと、著者は主張します。ちなみに、著者はイスラーム史が専門で、東京大学副学長も務める人物です。
 本書は、第1章「世界史の歴史をたどる」、第2章「いまの世界史のどこが問題か?」、第3章「新しい世界史への道」、第4章「新しい世界史の構想」という4つの章で構成されますが、第2章の問題提起と、それに対する解決案として第3章で提示される「地球主義」がとくに重要です。著者の言葉をいくつか書き抜いてみましょう。

  • 歴史には力がある。現実を変える力がある。人々に未来を指し示す力がある。
  • 世界の現状を追認するだけの世界史と歴史学には、そのような政治的、社会的、そして文化的な力はない。
  • いま私たちに必要なことは、イラクやアフガニスタン、パレスチナなどの問題を「彼らの」ではなく「自分たちの」問題として捉え、一緒になって解決に取り組もうとする姿勢である。そこに、自と他の区別はあるはずだが、その上にさらに大きな「自分」を思い描くことが肝要なのである。
  • 新しい世界史は、この大きな「自分」を生み出す力となるべきだ。
  • 地球社会の世界史は、世界がひとつであることを前提として構想され、それを読むことによって、人々に「地球市民」という新たな帰属意識を与えてくれるはずのものだからである。

 第4章で示される構想は「地球主義」に基づく歴史叙述の一例に過ぎず、決定版ではありません。「人々が世界はひとつであることを理解でき、自分がそこに帰属しているという地球市民意識を持ちうるような歴史叙述であれば、それはすべて新しい世界史である」と著者自身が言います。そのような歴史叙述は,従来の歴史学の枠組みを越えるもので、歴史学者だけが特権的に生み出すものではないでしょう。文理を問わずさまざまな分野の研究者、地球規模課題の現場で問題解決に挑む人々など、国境を越えて活動するすべてのグローバル人材に発言の資格があります。
 私自身、歴史学者ではありませんが、本書を読んで、地球主義の世界史という発想に興奮をおぼえ、歴史に地球の未来を変える力を吹き込んでみたいという気持ちになりました。この興奮を学生の皆さんにもぜひ味わってもらいたいと思います。

■次は、守屋正彦先生(芸術系教授)です。