教員著作紹介コメント(秋山 学先生)

パイダゴーゴス(訓導者)他の書影

パイダゴーゴス (訓導者) 他(キリスト教教父著作集 ; 第5巻 [アレクサンドリアのクレメンス 3] )』

[アレクサンドリアのクレメンス著] ; 秋山学訳

東京 : 教文館, 2022.9【分類 132.1-Ki54-5】

【コメント】

東京・銀座の教文館より刊行されている『キリスト教教父著作集』は,おそらくわたくしが大学院生のころに創刊されたシリーズだったかと思う.創刊からすでに30年以上が経過したことになるが,このたびそのシリーズの第5巻として,初期ギリシア教父の一人・アレクサンドリアのクレメンス(150-215)の主要著作である『パイダゴーゴス(訓導者)』『プロトレプティコス(ギリシア人への勧告)』ほか小品3点および「断片集」を,拙訳により収めた『アレクサンドリアのクレメンス3』が刊行されることになった.同シリーズからは,すでに『アレクサンドリアのクレメンス1 ストロマテイスⅠ』(第1~4巻を所収)および『同2 ストロマテイスⅡ』(第5~8巻を所収)が,それぞれ「キリスト教教父著作集4/Ⅰ」および「4/Ⅱ」として,やはり拙訳により2018年に出版されており,これでクレメンスの全著作が公刊されたことになる.当初わたくしがクレメンスの著作を手掛けたのは,平凡社から1995年に出版された『中世思想原典集成』(全20巻)の第1分冊「初期ギリシア教父」のうちに,上掲した『ストロマテイス』のうちの第5巻,およびこのたびの「クレメンス3」に収められた『救われる富者とは誰であるか』(訳題は平凡社版とで異なる)を訳出したことに遡る.このたびの企画を立案・承認して下さった『キリスト教教父著作集』監修者の荒井献先生(日本学士院会員),出版にこぎつけて下さった教文館の方々,そして平凡社の企画の頃からお世話になっている小高毅師に,まず御礼を申し上げたい.

思えば,この間わたくしはクレメンスだけに取り組んでいたわけではなかった.元来西洋古典学科の出身であるわたくしにとっては,大学院在籍中の途中段階で,当時ようやく盛んになり始めたギリシア教父関係の邦訳事業の一員として駆り出されるようになり,以降,クレメンスの他にニュッサのグレゴリオス(335-394)による作品の邦訳・論考執筆をも手掛けることになった(教員著作紹介をご参照いただければ幸いである).ただクレメンスは,教父たちの中で,ギリシア文学や哲学からの引用が圧倒的に多い著作家として著名である.その意味で,西洋古典学科での研鑽は,わたくしにとって決して無益なものではなかったのであろう(関連する拙著として『教父と古典解釈 : 予型論の射程』分類:132.1-A38).一方2004年から06年にかけては,本学筑波大学からの長期派遣・在外研究により,ハンガリー東部のギリシア・カトリック教会の共同体での滞在が実現したが,これはギリシア教父たちの伝承が,今日どのように息づいているかを体験する上で不可欠な時間であった(関連の拙著は『ハンガリーのギリシア・カトリック教会 : 伝承と展望』分類:198.19-A38).そして帰国後には,筑波大学中央図書館に所蔵される江戸後期の高僧・慈雲尊者飲光(1718-1804)の自筆本を発見するという奇遇にも与り,拙著を公刊することができた(『律から密へ』188.5-J55).クレメンスは,史上初めて,仏教への言及をおこなった教父としても著名である(『ストロマテイス』1,15,71,6;分類:132.1-Ki54-4-1).

この9月末で,わたくしは本学への奉職からちょうど満25年を迎える.この間,日常における研究のための基盤となってくれた筑波大学附属図書館に,何にもまして心からの謝意を述べたいと思う.

(あきやま まなぶ;本学人文社会系教授)