教員著作紹介コメント(秋山 学先生)

【本の情報】

Gregory of Nyssa : Homilies on the Our Father : an English translation with commentary and supporting studies
 : proceedings of the 14th International Colloquium on Gregory of Nyssa (Paris, 4-7 September 2018), : hardback

edited by Matthieu Cassin, Hélène Grelier-Deneux, Françoise Vinel

Leiden : Brill, c2021【分類 132.1-G84】

【コメント】

Gregory of Nyssa: Homilies on the Our Father
(Supplements to Vigiliae Christianae: 168), 2021

「カッパドキア三星」の一人として知られるギリシア教父・ニュッサのグレゴリオス(335-94)については,
古典学者ウェルナー・イェーガー(1888-1961)が,晩年におけるほとんど全ての活動を,このグレゴリオス
の校訂版出版のために献げたことで知られるように,古典ギリシアとキリスト教中世をつなぐ文化的・歴史的な
核と位置づけられてきた.「国際ニュッサのグレゴリオス学会」は,1969年9月に第1回大会がシュヴトーニュ
(ベルギー)にて開催され,1971年にその論文集がブリル社より公刊されている.そしてこのたび,2018年9月
に第14回大会がパリにて行われ,その論文集が今年2021年,同じブリル社より刊行される運びとなった.
大会論文集の第14巻が,第1巻刊行からちょうど50年を経て公刊されたことになる.さいわい,パリでの筆者の
イタリア語による口頭発表は査読を通過し,この第14巻に収められることとなった(609-20頁所収).筆者は
大学院生の頃,イェーガーやジャン・ダニエルー(1905-74)といった20世紀を飾る巨匠のグレゴリオス論を
目にし,異次元の世界と感じていたが,一応このたび,彼らと同じ出発点に立てたことになるのだろうか.

 この巻は「主の祈り講話」というグレゴリオスの一著作を主題とし,同著作をめぐって注釈付きの英訳を前半
の400頁前後までに収める.以降740頁まで,テーマ別に行われた研究発表が論文として収録されている.この
「主の祈り講話」の第3巻には,ほぼ8~9世紀頃より東方教会と西方教会の教義上の一大論点となってきた
「子から」というテキストがあり,この読みがなぜ4世紀のグレゴリオスの著作上に見られるのか,甲論乙駁の
論争が展開されてきた.ギリシア語の諸写本には,この読みを留めるもの,消した跡の残るもの等々がある一方,
シリア語訳ながら留めるものが見られ,文献学上の実証は欠かせない.一方,グレゴリオスの思想・神学から推
すならこの読みは受け入れられるのか,という点についても議論が不可欠である.拙論では現段階での筆者の見
解を公にした.

 ささやかな筆者の歩みを刻む一論文となったが,古典学の恩師である久保正彰日本学士院会員,学位を授けて下
さった宮本久雄師,そして図書館蔵書の充実を通じて本学での研究の礎を敷いて下さった故・野町啓名誉教授に,
この場を借りて御礼申し上げたい.

(あきやま まなぶ;本学人文社会系教授)