Readingバトン(五十嵐沙千子 人文社会系准教授)

2013年7月24日
Readingバトン -教員から筑波大生へのmessage-
渡辺先生に続く第7走者として、五十嵐沙千子 人文社会系准教授から寄稿いただきました。

 

Pick Up

『自分の仕事をつくる』西村佳哲著.ちくま書房 , 2009【分類366.29-N84】

Book Review
~就活に、あるいは自分の仕事に悩んでいる人に~

 「働かないと食べていけない。仕事だから辛いのは当然、嫌なこと我慢するのは当然、働くのは大変なんだ」・・・ってセリフ、よく聞きますが、実はそれっていわゆる「仕事ができないヒト」特有のセリフらしい。つまり、デキない人の思い込み、または愚痴または症状っていうわけ。反対に、「仕事ができるヒト」って、「やりたいことしかしない」「仕事と遊びのケジメがない」「嫌なことは我慢しない」んだそうだ。で、「働くのが楽しい」らしい。そりゃそうだろう。「毎日楽しい」って、そんなの楽しいに決まっている。
 だが、そんなことが本当に可能なのか?? ケジメがなくても、やりたいようにやってても大丈夫なのか?? いやむしろ、それが「デキる」条件だ!・・・なんて、いったいどういうことなのか?それでいいのか??
 この本にはそう生きている人たち、自分に嘘をつかずに生きている「デキる」人たちがたくさん登場します。
 読んで、ちょっと世界と人生が明るくなるかもしれない。


Pick Up

『定本想像の共同体 : ナショナリズムの起源と流行』ベネディクト・アンダーソン著 ; 白石隆, 白石さや訳. 書籍工房早山 , 2007【分類311.3-A46】

Book Review
~「自分は日本人だ」と思っている人に、あるいは「歴史や文化が好き」な人に~

「ここは日本だ」「日本の歴史は日本史だ」「ここに住んでいる私は(モチロン)日本人だ」  かつては私もそのことを疑ったことなんてありませんでした。ああ本当に、今から考えると、あたしってバッッッカみたい!! 「学問」のセカイではもうとっくの昔に、そんなのは「ただの思い込み」でしかないってことになってたのに!! 高校の先生はちっともそんなこと教えてくれなかった。(って大学の先生もだけど。)
ただの「思い込み」でしかないものを「客観的事実」だって言い張るのは恥ずかしいことです。恥ずかしいだけじゃなくて、それはとっても危険なことです。
 「思い込み」を「思い込み」とちゃんと認識した上で、「それは<事実>じゃなかったんだ」ってキッパリ自覚した上で、その上で初めて、「いったい私は誰なんだろう?」「この国とあの国は今どうつきあえばいいんだろう」って考えることができる。「「歴史」や「文化」って何なんだろう?」って考えることができる。愕然としちゃうかもしれないけれど、そしてやっぱり自分のアイデンティティが揺るぐことは怖いけれど、それでも逃げずに、そして怒らずに、初めて誠実に、あなたは考えることができるんです。


Pick Up

『ソクラテスの弁明』(『ソクラテスの弁明. クリトン』プラトン著 ; 久保勉, 阿部次郎訳. 岩波書店 , 1931【分類081-I95-24】)所収

Book Review
~大学生である人に~

このタイトルを見てあなたはきっと、「え〜っ!!プラトンー??」って思ったと思う。「嘘でしょ?? テツガク?? 無理っ!!」って。
だまされたと思って読んでほしい。
面白いから。ふつうに感動するから。ふつうに泣いちゃうから。
登場するのは、すごく単純な、すごくふつうなすごく素直な人です。そのためにその人は死ななきゃいけなくなっちゃうんだけど。怖れながら、でもほんとうに正直に生きていこうとした、そしてほんとうにそう生きたその人は、そう生きた(死んだ)ことによって、やっぱり怖れながら正直に生きていたいと思うあたしたちに、怖れながらそう生きていくあたしたちの道を、あなたの傍らをずっと歩き続けている、歩き続けていく。あなたがそうであり続ける限り。一緒に。


Pick Up

『星の王子さま : オリジナル版』サン=テグジュペリ作 ; 内藤濯訳. 岩波書店 , 2000【分類953.9-Sa22】

Book Review
~人間である人に~

「読んでね」ってみんなに言いたい本はたくさんあるけれど、この本は「読んでね」って言いたいわけじゃない。みんなから「読んだほうがいい?」って言われたら、むしろ「読んでもらいたくない」って言っちゃうと思う。ほんとうに、読んでもらいたいわけじゃない。
ただ、これはわたしの大事な本なんです。
だから、もし、あなたが読んだら。
もし、あなたが、ひとりで、この本をひとりで読んだら。
そうしたら、あなたのひとりは、世界中のひとりとつながるんだ、とあたしは思う。
そして、もう決してそのつながりは切れることはないんだ、って。
そして、そのひとりであることが、世界を変えるんだ、って、あたしは思っています。

■次は、森直人先生(人文社会系准教授)です。