2013年12月24日
Readingバトン -教員から筑波大生へのmessage-
森先生に続く第9走者として、野村港二 教育イニシアティブ機構教授から寄稿いただきました。
Pick Up
『日本国語大辞典』日本国語大辞典第二版編集委員会, 小学館国語辞典編集部編.小学館 , 2000-2002 【分類813.1-N77-1~13,s】(参考)
Pick Up
『広辞苑』新村出編.岩波書店 , 2008 【分類813.1-Sh64】(参考)
Pick Up
『The Oxford English dictionary』prepared by J.A. Simpson and E.S.C. Weiner.Oxford University Press , 1989 【分類833-O93】(参考)
Pick Up
『研究社新英和大辞典』竹林滋編者代表.研究者 , 2002 【分類833-Ta58】(参考)
Book Review
ブックレビューなのに辞書4編? 私が本を読まないのを、権威ある辞書のタイトルでごまかしたなと感じた方、正解かもしれません。第何版か書いていないのは、私のいい加減さと感じた方、今度は私の勝ち。普段は最新版を使っていても、時間があるときに図書館に並んでいる古い版と読み比べて、見えてくることを楽しんでいます。
(図書館註:便宜上、リンク先はそれぞれ特定の版になっています。ご承知おき願います)
伝統と権威のある辞書の変遷は、文化史そのものです。試しに、新英和大辞典の初版に近いものと、最新の第6版で「default」を比べてみます。新版には、「[電算]デフォルト、初期設定、既定値」という意味が掲載されていますが、第5版までは、「怠慢、不履行」などだけで、コンピュータ用語は出ていません。Oxford English Dictionary (OED)では、徹底的に単語の語源や初出が調べられています。
私の専門になりますが、1970年代に細胞融合でトマトとポテトからpomatoが作られたことは有名です。このpomatoという単語の由来を調べていて、19世紀初頭の育種家による造語であることをOEDで知りました。バイオテクノロジーの専門書で無視されている事柄が、OEDに残っているのです。研究者としてこの宝庫を使わない手はありません。OEDや日本国語大辞典の用例からは、読むべき本や文献に出会えます。ただ、日本国語大辞典からは初出が不明な言葉が多いこと、特に江戸末期から明治初頭に作られたらしい言葉の初出が不明なことが多く、研究の余地があることに新鮮さを感じたりできます。
広辞苑に掲載されている秀逸な挿絵にも変遷があります。同じ項目でも、最新版では観点が全く異なる絵になっていることがあります。そうなった理由を考えることは、昭和から平成にかけての日本の文化史を考えることにもなるでしょう。比較すると思わず笑いたくなる絵もあるので、宝探しをしてみてください。
もちろん、他の言語でも伝統のある辞書、たとえばLe Petit LarousseやDudenを読み解くことで得られる情報は多いそうです。
何かの言葉に「おや?」と思ったら、迷わず大きな辞書を引き比べ、じっくり読んで社会と言葉の歴史の世界に入ってみてください。
■次は、松本末男先生(附属学校教育局教授)です。