教員著作紹介コメント(礒田正美先生)

礒田正美先生(教育開発国際協力研究センター)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2015/05/11)

【本の情報】
『Lesson study : challenges in mathematics education : hardcover(Series on mathematics education:v. 3)』edited by Maitree Inprasitha … [et al.]. World Scientific, c2015【分類375.41-I57】

【コメント】
 1872年学制発布と同時に設置された師範学校(筑波大学の創基)は、1873年に附属小学校を設ける。以来、附属学校を中心に国内発展し、世界で絶賛される日本型算数授業を生み出した開発型研究方法が「授業研究」である。筑波大学教育開発国際協力研究センターCRICEDは、附属教員と共同し、世界各国の授業研究展開を支援するコアセンターとして機能している。
 本書は、2006年1月に始まり、10年目を迎えた日本政府・タイ政府提案APEC人材養成部門HRDWG「授業研究による算数数学教育の革新」プロジェクト前半の研究成果を収めた書籍である。ともに筑波大学OBであるMasami IsodaとMaitree Inprasithaが共同代表を務める同プロジェクトは、1)筑波大学で研究主題を共有する計画会合、文部科学省・コンケン大学共催、筑波大学・アジア太平洋経済協力国際会議を実施し、2)各国で授業研究を実施し、3)タイ教育省・筑波大学共催、コンケン大学・アジア太平洋国際会議で報告会合を実施する年次サイクルで展開され、APEC21ヵ国授業研究ネットワークのハブとして機能している。
 グローバル時代を生きる読者には想像し難いであろう。円の価値が著しく低かった筆者の恩師の時代には、「アメリカでは」と語る紹介や訪問調査結果の解説が最新学術動向となった。その後、観察した授業が、5年、10年後の論文出版時に変わらないことを前提にした授業記録の国際比較も盛んになった。グローバル時代を先導するAPEC「授業研究による算数・数学教育の革新」プロジェクトが目指すのは、比較のための授業データの固定化ではなく、授業改善そのものである。今日より明日、明日より明後日とよくなること、それが次世代を担う子どもを育てる授業研究である。どうすればよくなるのか。そのために日本側は、各国で授業公開し、各国教師を覚醒させ、日本の算数教科書を翻訳し、卓越した算数数学授業研究を実施し、革新的な指導法や教材、アイデアが内外で開発し合い共有し合うことを目指す。
 何がよいものであるかを示し、そのようなよりよい授業を再現可能にする、よりよい授業実現の方途を示す再現科学を構築することで日本の教育学が世界の学術動向を先導することまでも視野に加えて、本書は出版された。

関連文献
教員著作紹介コメント(礒田正美先生)『Mathematical thinking : how to develop it in the classroom(Monographs on lesson study for teaching mathematics and sciences:v. 1)』