2.情報探索行動の分析(2) - 2020年度(令和2年度)研究開発室成果報告

解説

 2020年度は(1)「機関リポジトリに登録されたオープンアクセスジャーナル収録論文の被引用数の変化」、(2)「筑波大学附属図書館の貸出履歴の分析」を実施した。ここでは(2)について報告する。

(2)筑波大学附属図書館の貸出履歴の分析

 貸出サービスは図書館の基本的サービスの一つである。
 図書館資料の貸出履歴サービスについては多くの研究がある。大学図書館の研究では、以下の傾向が知られている。

a.月単位で分析を行うと、カリキュラムに応じて毎年同じような結果が得られる。
b.学生の主題分野、学年ごとにかなり異なった結果になる。
c.館外貸出と館内閲覧を比較するとかなり似通った結果になる。ただし大型本、法律など傾向の異なるものもある。
d.図書の出版年が古くなるにつれて貸出数は減少する。

 筑波大学附属図書館の貸出履歴を分析したものとして2012年と2018年の調査がある。
 2012年の調査では、2006年度から2010年度までの貸出履歴1,600,884件を分析した。年間の貸出冊数において、学生の生活と図書の貸出の増減に関係があること、学群生と大学院生を比較して大学院生の方が貸出を多く利用していること、学類ごとに図書の貸出が多い学年に違いがあることなどを示している。また、利用されている主題分野が学生の専攻分野に即していることが分かり、学生の専攻と貸出の主題分野に密接な関係があることが示唆された。また出版年から25年以内の蔵書(約60,0000冊)が貸出の約80%を占めていること、蔵書全体(2,522,585冊)の約3%が貸出の80%を充足していることを明らかにした[1]。
 2018年調査では、継続調査として、2011年度から2017年度までの貸出履歴(1,697,544件)を分析した。2012年調査の結果と同様に年間貸出冊数において、学生の生活と図書の貸出の関係性が示された。また学類ごとの貸出の特徴に加えて、3年次編入生の貸出について、学類に応じて差はあるものの内部進学者と同程度から2倍程度、貸出を利用していることを明らかにした[2]。
 筑波大学では2013年度から学期制の変更を行った。変更前は3学期制、変更後は2学期6モジュール制となった。夏休み期間も変更になったため、単純な比較は難しい面もあるが どちらの研究においても、学生の生活や専攻分野が大きく貸出に影響していることが示されている。また、それぞれ、今後の課題として継続して調査を行い先行研究との比較を行うことの重要性を示している。本研究においては[1] [2]を踏まえ、調査を行った。
 本研究での調査対象は筑波大学附属図書館の2014年度から2019年度までの貸出履歴データである。一般貸出のみを分析対象とし、利用者区分から学群生、大学院生のデータを抽出して分析を行った。個人情報は扱っていない。

 「2014-2019年度別の月別貸出冊数 (冊)」は以下の通りである。

 

年度別の月別貸出冊数(冊)

表1 年度別の月別貸出冊数(冊)

 学群生と大学院生に分けて集計した結果は、6年間合計で学群生750,611、大学院生676,538である。学群生と大学院生の学生数の比は10:7である。貸出冊数の比は10:9である。大学院生は学群生と比較して貸出を多く利用しているといえる。

 

学群生と大学院生の年度別貸出冊数(冊)

表2 学群生と大学院生の年度別貸出冊数(冊)

 全体の傾向として学群生は2017年度以降、大学院生は2018年度以降貸出数が減少している。
 学群生の2019年度平均貸出数は11.23。この数値は全国大学で上位に位置する。
 各月ごとの貸出数を比較した。グラフにすると毎年同じようなパターンを示す。学群生と大学院生ではその傾向はやや異なる(ポスター図2)。これは期末テストに重点を置く学群生とそれほどではない大学院生の貸出行動の違いと考察される。
 学類ごとの貸出傾向は異なる。平均貸出数の多いのは人文と比文である(ポスター図3、表1)。
 各学類の学年別の貸出傾向を見るとその主題の割合が変化する学類がある。社会学類、数学類、工学システム学類、情報メディア創成学類の4学類である。
 過去の調査結果と比較する。2006年度貸出冊数は一年間全体で307,954であったのに対して、2019年度の貸出冊数は213,644と減少している。詳細を見ると、主題分野別については0類と9類以外の分野の貸出が減少している。特に5類と6類は2006年度の半分程度まで減少している。学生の興味範囲や情報源の利用に変化が生じていると考えられる。なお、本研究の詳細な結果は[3]に掲載されている。

[1] 本田美咲. 大学図書館における貸出履歴の分析. 筑波大学, 2012, 222p. (筑波大学卒業論文).
[2] 武富一起. 大学図書館における貸出履歴分析. 筑波大学, 2018, 129p. (筑波大学卒業論文).
[3] 土屋健人. 大学図書館の貸出履歴分析. 筑波大学, 2021, 97p. (筑波大学卒業論文).

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