2.情報探索行動の分析(1) - 2020年度(令和2年度)研究開発室成果報告

解説

 2020年度は(1)「機関リポジトリに登録されたオープンアクセスジャーナル収録論文の被引用数の変化」、(2)「筑波大学附属図書館の貸出履歴の分析」を実施した。ここでは(1)について報告する。

(1)機関リポジトリに登録されたオープンアクセスジャーナル収録論文の被引用数の変化

 オープンアクセス (OA) とは 査読付き学術雑誌に掲載された論文をインターネット上において無料・無制限に利用可能とすることである。 この成立の背景には学術雑誌の価格高騰や発展途上国での学術情報流通状況の改善などが存在する。定義として2002 年の Budapest Open Access Initiative(BOAI) によって定められたものが一般的である[1]。
 BOAI においてオープンアクセスは大きく 2 つに区分された。 ひとつはGold OA と呼ばれるオープンアクセスジャーナルを通して論文を公開するものである。もうひとつはセルフアーカイビングによって論文を公開するGreen OA である。
 オープンアクセスジャーナルとは インターネット上において公開されている購読料を必要とせずに利用できる学術雑誌を指す。種類はいくつかあるが、今日では「著者支払い・読者無料型」が主流となっている。それは著者が論文処理費用(Article Processing Charge: APC)を支払うことで読者が無料で閲覧できるモデルである。
 2010年ごろからはオープンアクセスメガジャーナルと呼ばれる年数万件の査読論文を提供するPLOS ONE、Scientific Reportsが現れている。筑波大学所属研究者の論文も多く掲載されている。
 セルフアーカイビングにはいくつかの形態がある。代表的なものには分野別のプレプリント・サーバであり、物理学分野の arXivなどがあげられる。また各大学・研究所が設置している機関リポジトリがあげられる。
 「つくばリポジトリ」は2006年3月に公開された。1998年以来の電子図書館コンテンツを引き継ぎ、当時から日本有数の規模を誇っている。2014年5月には、国立情報学研究所(NII)が提供する共用リポジトリサービスの 「JAIRO Cloud」上に移行した。2015年11月には オープンアクセス方針を採択するなど筑波大学はオープンアクセスに関連し、活発な活動を繰り広げている。その一翼を担っているのがつくばリポジトリである。
 機関リポジトリ登載コンテンツに関する研究は盛んである。そのテーマのひとつにOAジャーナル掲載論文を機関リポジトリに登載すると、その被引用数とアクセス数はかなりの件数に上ることが先行研究によって示されている [2] [3]。
 本研究ではつくばリポジトリに登載されたOAジャーナルのデータとその被引用数を調査した。つくばリポジトリとプレプリント・サーバarXivに登録されたOAジャーナル収録論文群(データ群A: 1,519件、計 297 誌に収録)といずれのリポジトリにも登録されていない論文群(データ群B: 22,614件)を対象に比較調査を行った。
 その結果、データ群全体の被引用数の比較ではA群10.66、B群10.30と顕著な差は認められなかった。
 筑波大学が強い分野とされる物理学分野のOAジャーナル(タイトルについてはポスター表参照)論文について上記A群とB群の比較調査を行った。その結果A群がB群を概して上回る結果となった。
 オープンアクセスメガジャーナルに着目するとScientific Reports と PLOS ONE共につくばリポジトリに登録した論文の方が登録していないものより被引用数は僅かながら多くなっていた。
 つくばリポジトリに登載されたOAジャーナル論文を雑誌単位で集計すると、多い順にScientific Reports, PLOS ONE, Journal of High Energy Physics, Physics Letters B, Nature Communications, Cancer Science, Journal of Epidemiology, International of Molecular Science, Physiological Reports, AIP Advancesという結果になった(ポスター表を参照)。分野は多様な結果になっている。
 オープンアクセスによって被引用数が増加する要因として3点の仮説がある。

  • OA仮説:雑誌論文をオープンアクセス化することによって研究者の目に留まりやすくなり被引用数が増加する
  • 早期アクセス仮説: プレプリントの形で学術雑誌への掲載より早く公開されるため被引用数が増加する
  • 自己選別仮説:著者が自ら重要だと考える論文をオープンアクセス化するため、被引用数が増加する

 今回の調査ではこの仮説のどれが該当するかは明確にはならなかった。
 本研究では、出版から登録までの期間が短いものが多い。より長期にわたる調査を行えば、リポジトリに登録されている論文とされていない論文の間に被引用数の伸びの差が見られた可能性がある。なお、本研究の詳細な結果は[4]に掲載されている。

参照

[1] Budapest Open Access Initiative, ”Budapest Open Access Initiative”. http://www.soros.org/openaccess/
[2] 佐藤 翔, 永井 裕子, 古賀 崇ほか. 機関リポジトリへの登録が論文の被引用数と電子ジャーナルアクセス数に与える影響. 情報知識学会誌. 2011, 21(3), p.383-402.
[3] 小林 俊貴. JAIRO Cloud 導入前後における機関リポジトリのオープンアクセスコンテンツ利用. 2019, 133p. (筑波大学大学院修士論文).
[4] 大森悠生. 機関リポジトリに登録されたオープンアクセスジャーナル収録論文の被引
用数の変化. 筑波大学, 2021, 27p. (筑波大学卒業論文).

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