Monthly Archives: 1月 2017

教員著作紹介コメント(小川 美登里先生)

ブックコメントのアイコン小川 美登里先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『いにしえの光(パスカル・キニャール・コレクション:最後の王国:2)』パスカル・キニャール著/小川美登里訳. 水声社, 2016.12【分類950-Q6】

【コメント】
バロックという名で知られるフランス十七世紀に活躍し、その後忘却の彼方に忘れ去られてしまったヴィオール奏者サント・コロンブを生き生きとよみがえらせ、人生と愛と音楽をめぐる悲しくも美しい物語を書いたパスカル・キニャールという作家をみなさんはご存知でしょうか(その物語は「めぐり逢う朝」というタイトルで映画化され、のちに世界的に大ヒットしました)。今回、水声社という小さな出版社から作家の名を冠したコレクションが刊行されました。みなさんにご紹介するのはそのうちの一冊です(コレクションが完成すると、15の珠玉の書物が日本語で読めるようになります。乞うご期待ください!)。

パスカル・キニャールは1948年生まれのフランス人作家です。音楽家でもあり、絵画にも造詣が深く、大学では哲学を専攻していました。そんな多彩なキニャールが愛するのは「読書」という、われわれにとっても非常に身近な営みです。ですから作家、文筆家といった肩書き以上に、彼にぴったりの名称があります。「文人」です。まさに「文の人」、フランス語では「レトレlettrés」、英語に置き換えるとreaderになってしまいますが、ニュアンス的には「文字を扱う人」、「文字に埋もれる人」、さらには「文字でできた人」のイメージの方がより近いでしょう。

そんなキニャール渾身の作品が、みなさんにご紹介する「いにしえの光」です。この書物は、ひとことで言うと、人類が積み上げてきた文字による遺産(流行りの言い方では「レガシー」ですね)のもっとも光輝く部分をたくさん集めた玉手箱のような本です。人類の歴史や文学に通じ、古典小説や説話、寓話などを読み漁(文語では「渉猟」といいます。まさに「文字を狩る人」のイメージですね)った読書のプロが、みずからの視点(文学的、哲学的、人類学的、精神分析的)をとおして、時間とはなにかという本質的な問題について語っています。こんなふうにご紹介するとひどく難解な書物のようですが、いったん読み始めると、どんどん先に読み進めることができます。その理由はふたつあります。第一に、キニャールの文章はイメージ豊かで、読者の心をつかむ物語性に満ちていることです。もうひとつの理由は、断片という形式によるものです。断片というと、ギリシアの哲学者ヘラクレイトスやニーチェの書き物を想起する人がいるかもしれません。小説を読むことに慣れている人からすれば、少々とっつきにくいですよね。でも、断片形式は独特のリズムを生み出すという、音楽的な効果をもっています。どこから読書を始めても、どこで終えてもいいのも断片形式の強みです。

私たちと同時代を生きる作家の作りだす文学には、たしかに教科書的なとっつきやすさはないかもしれません。でも、そうした先入観をいったん取り払えば、親しみやすさすら覚える作品であることをみなさんも実感してくださることでしょう。キニャールは、読書こそが、私たち現代人がもつことのできる最高の贅沢であると述べています。誰にも邪魔されず、他者の視線を寄せ付けないあなただけの空間で、ぜひ「いにしえの光」をご堪能あれ。


教員著作紹介コメント(柴田 靖先生)

ブックコメントのアイコン柴田 靖先生(医学医療系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『今さら聞けない画像診断のキホン』西川正憲 [ほか] 著/日経メディカル編集. 日経BP社/日経BPマーケティング (発売), 2016.9【分類492.1-N83】

【コメント】
本書は日常診療でよく使用される胸腹部X-pや頭部CTなどの画像診断の読み方を解説したものです。私は脳神経外科医として20年以上にわたり、数十例の頭部CTを毎日読影しています。研修医などへ頭部CTなどの講義もしており、依頼を受けて頭部CTを執筆しました。なるべく詳しく、適応、被ばくの問題から、他の画像診断法との比較、各種CT撮像法、各疾患における読影方法などを解説しました。教科書的な記載よりも、特に日常臨床で役に立つように、見逃しやすい点、間違いやすい点などを実際の経験に基ついて解りやすく解説しました。画像診断は、まず理論を理解して、実際に画像を見て、できれば臨床で経験することが王道です。臨床経験が少ない時点では、本などで勉強することによりある程度は補えます。放射線科医は専門家として、その読影レポートはもちろん貴重ですが、読影レポートを理解できないのは悲しいことで、自分で読影できる方がより楽しいです。放射線科医が不在の病院もあり、外来や救急では自分で読影して診断治療を進める必要があります。画像が読めるようになると、症例検討会やカンファレンスなどが理解できるようになり、楽しくなります。臨床実習を行っている医学生や研修医に特に読んでほしいと思います。


教員著作紹介コメント(青柳 悦子先生)

ブックコメントのアイコン青柳 悦子先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『貧者の息子 : カビリーの教師メンラド(叢書《エル・アトラス》)』ムルド・フェラウン著/青柳悦子訳. 水声社, 2016.11【分類953.9-F21】

【コメント】
小説です。翻訳ものはなんだか難しい感じがする、という方も多いでしょう。でもこの作品は、山村での少年時代の思い出を軸にした心温まる内容で、文章も短く、きっとすいすいと楽しく読み進めることができます(ときに涙しながら!)。普段、小説は読まない、という人にもお薦めです。舞台はアルジェリアの片田舎、「カビリー地方」と呼ばれる辺境の地域で、時代は20世紀前半。でも農業が中心のこの地域はなんだか昔の日本みたいなところが一杯あって、私たちにとってまったく遠い所なのに、不思議に近しい印象も覚えるはずです。大学教員が訳したくなるだけあって、掘り下げようと思えばいくらでも深い内容が湧き出てくる、侮れない小説です。


教員著作紹介コメント(坂井 公先生)

ブックコメントのアイコン坂井公先生(数理物質系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『数学パズルの迷宮(パズルの国のアリス:2)』坂井公著/斉藤重之イラスト. 日経サイエンス/日本経済新聞出版社 (発売), 2016.6【分類410.79-Sa29】

【コメント】
 パズルの本ですが、試行錯誤で解くような問題は少なく純然たる数学的思考で考える問題ばかりです。「まえがき」にも書きましたがパズルは易しくありません。ですが、問題そのものを理解するのは難しくないですし、解答もなるべく初等的に解説しました。
 「こういう問題を解くのに、こういう数学が使えるのか」というような感動を持って読んでもらえればうれしいです。