教員著作紹介コメント(中野目 徹先生)

ブックコメントのアイコン中野目徹先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『長善館史料館所蔵資料目録』長善館史料館所蔵資料調査会編集. 燕市教育委員会, 2017.2【分類372.105-C57】

【コメント】
本書は、新潟県燕市の長善館史料館の所蔵資料を、人文学類「日本史実習」受講の学生たちとともに整理して作成した目録です。長善館とは、江戸時代後期の天保4(1833)年から明治45(1912)年まで同地に存続した漢学を中心とする私塾で、のべ1000名もの学生が学んだといわれています。調査は、平成25(2013)年度に始まり、本年度まで4年間にわたって続けられ、毎年約20名、のべ約80名の学生たちが加わって行われました。整理して目録に収めた資料は約2000点に及びます。このなかには、歴代の館主に宛てた多くの書簡のほか、塾で使用した教科書や著名人の掛軸などもありました。また付録としてCD-ROM版の目録も付け、検索の便を高めてあります。今後は、整理した資料の精査に加えて、現在は新潟県立文書館に保存されている歴代館主の日記を解読していく予定です。実習授業の成果報告書として本書を見ていただけますと幸いです。


教員著作紹介コメント(礒田 正美先生)

礒田 正美先生(人間系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『数学的思考 : 人間の心と学び』David Tall著, 礒田正美・岸本忠之監訳.岸本忠之,添田佳伸,木根主税,渡邊耕二,小原豊,真野祐輔,北島茂樹,馬場卓也,布川和彦,溝口達也,植野義明,新木伸次,中和 渚,白石和夫,佐伯昭彦訳.東京: 共立出版.【分類410-Ta75】

【コメント】
本書の原著は、David Tall (2013). How Human Learn to Think Mathematically: Exploring the three worlds of mathematics. Cambridge University Pressであり、原題の直訳は「人はいかに数学的に考えることを学ぶか: 数学三世界の探検」である。原著裏表紙には礒田を含む3者による次のような推薦文がある。
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本書は、数学的思考とアイデアの発達にかかる30年に及ぶDavid Tall氏による研究の到達点である。それは、こどもに垣間見られる思考やアイデアとしてはじまり、やがては概念結晶として発現する。数学的思考とその学習という主題は、大きな主題であり、特定の視座においては部分的な像しか映せない、容易に全体を描き出せない主題である。対照的に、本書は、読者に大局的な鳥瞰、数学理解の発達に関する総合的で全体的な視野を提供する。

Alan H. Schoenfeld カリフォルニア大学バークレイ校、米国

友人Davidは、数学学習と数学的活動、数学授業とを通じて学習者が当面する、数学に起源する障害に重要かつ意義深い洞察を展開する類まれな研究者の一人である。本書で、彼は、研究者の夢である数学的思考にかかる統一理論を提供する。それは、幼児から大人になるまで、すべての学校段階で遭遇する肯定的ないし否定的な経験を両方とも考慮した理論となっている。その理論によって、数学世界で機能する概念結晶に先立つものとして累積経験が圧縮される様相が示される。

John Mason オープン大学、英国

Tall教授は、日本の授業研究で顕著にみられる問題解決型の学習指導も含めた数学の教授学習過程への様々な指導法に柔軟に応ずる簡潔な用語で、数学概念の発展を解説している。本書を、小学校から大学までのすべての学校段階における教員養成課程の学生・院生、教員に推薦したい。

礒田正美、筑波大学、日本

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本書は、数学的活動の三大要素(文部省1999、礒田正美2014)、1)振り返ることによる絶え間ない知識の再構成、2)数学的認識とその価値の追究、3)数学の発展方法の獲得において、特に1)と2)の実際の様相を、数学三世界を念頭に記したものである。15名の共訳者に感謝したい。
参考文献
文部省(1999).中学校学習指導要領(平成10年12月)解説:数学編.大阪書籍.
礒田正美(2014).算数・数学教育における数学的活動による学習過程の構成:数学化原理と表現世界、微分積分への数量関係・関数領域の指導.共立出版.


教員著作紹介コメント(小川 美登里先生)

ブックコメントのアイコン小川 美登里先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『いにしえの光(パスカル・キニャール・コレクション:最後の王国:2)』パスカル・キニャール著/小川美登里訳. 水声社, 2016.12【分類950-Q6】

【コメント】
バロックという名で知られるフランス十七世紀に活躍し、その後忘却の彼方に忘れ去られてしまったヴィオール奏者サント・コロンブを生き生きとよみがえらせ、人生と愛と音楽をめぐる悲しくも美しい物語を書いたパスカル・キニャールという作家をみなさんはご存知でしょうか(その物語は「めぐり逢う朝」というタイトルで映画化され、のちに世界的に大ヒットしました)。今回、水声社という小さな出版社から作家の名を冠したコレクションが刊行されました。みなさんにご紹介するのはそのうちの一冊です(コレクションが完成すると、15の珠玉の書物が日本語で読めるようになります。乞うご期待ください!)。

パスカル・キニャールは1948年生まれのフランス人作家です。音楽家でもあり、絵画にも造詣が深く、大学では哲学を専攻していました。そんな多彩なキニャールが愛するのは「読書」という、われわれにとっても非常に身近な営みです。ですから作家、文筆家といった肩書き以上に、彼にぴったりの名称があります。「文人」です。まさに「文の人」、フランス語では「レトレlettrés」、英語に置き換えるとreaderになってしまいますが、ニュアンス的には「文字を扱う人」、「文字に埋もれる人」、さらには「文字でできた人」のイメージの方がより近いでしょう。

そんなキニャール渾身の作品が、みなさんにご紹介する「いにしえの光」です。この書物は、ひとことで言うと、人類が積み上げてきた文字による遺産(流行りの言い方では「レガシー」ですね)のもっとも光輝く部分をたくさん集めた玉手箱のような本です。人類の歴史や文学に通じ、古典小説や説話、寓話などを読み漁(文語では「渉猟」といいます。まさに「文字を狩る人」のイメージですね)った読書のプロが、みずからの視点(文学的、哲学的、人類学的、精神分析的)をとおして、時間とはなにかという本質的な問題について語っています。こんなふうにご紹介するとひどく難解な書物のようですが、いったん読み始めると、どんどん先に読み進めることができます。その理由はふたつあります。第一に、キニャールの文章はイメージ豊かで、読者の心をつかむ物語性に満ちていることです。もうひとつの理由は、断片という形式によるものです。断片というと、ギリシアの哲学者ヘラクレイトスやニーチェの書き物を想起する人がいるかもしれません。小説を読むことに慣れている人からすれば、少々とっつきにくいですよね。でも、断片形式は独特のリズムを生み出すという、音楽的な効果をもっています。どこから読書を始めても、どこで終えてもいいのも断片形式の強みです。

私たちと同時代を生きる作家の作りだす文学には、たしかに教科書的なとっつきやすさはないかもしれません。でも、そうした先入観をいったん取り払えば、親しみやすさすら覚える作品であることをみなさんも実感してくださることでしょう。キニャールは、読書こそが、私たち現代人がもつことのできる最高の贅沢であると述べています。誰にも邪魔されず、他者の視線を寄せ付けないあなただけの空間で、ぜひ「いにしえの光」をご堪能あれ。


教員著作紹介コメント(柴田 靖先生)

ブックコメントのアイコン柴田 靖先生(医学医療系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『今さら聞けない画像診断のキホン』西川正憲 [ほか] 著/日経メディカル編集. 日経BP社/日経BPマーケティング (発売), 2016.9【分類492.1-N83】

【コメント】
本書は日常診療でよく使用される胸腹部X-pや頭部CTなどの画像診断の読み方を解説したものです。私は脳神経外科医として20年以上にわたり、数十例の頭部CTを毎日読影しています。研修医などへ頭部CTなどの講義もしており、依頼を受けて頭部CTを執筆しました。なるべく詳しく、適応、被ばくの問題から、他の画像診断法との比較、各種CT撮像法、各疾患における読影方法などを解説しました。教科書的な記載よりも、特に日常臨床で役に立つように、見逃しやすい点、間違いやすい点などを実際の経験に基ついて解りやすく解説しました。画像診断は、まず理論を理解して、実際に画像を見て、できれば臨床で経験することが王道です。臨床経験が少ない時点では、本などで勉強することによりある程度は補えます。放射線科医は専門家として、その読影レポートはもちろん貴重ですが、読影レポートを理解できないのは悲しいことで、自分で読影できる方がより楽しいです。放射線科医が不在の病院もあり、外来や救急では自分で読影して診断治療を進める必要があります。画像が読めるようになると、症例検討会やカンファレンスなどが理解できるようになり、楽しくなります。臨床実習を行っている医学生や研修医に特に読んでほしいと思います。


教員著作紹介コメント(青柳 悦子先生)

ブックコメントのアイコン青柳 悦子先生(人文社会系)よりご著書の紹介コメントをいただきました。

【本の情報】
『貧者の息子 : カビリーの教師メンラド(叢書《エル・アトラス》)』ムルド・フェラウン著/青柳悦子訳. 水声社, 2016.11【分類953.9-F21】

【コメント】
小説です。翻訳ものはなんだか難しい感じがする、という方も多いでしょう。でもこの作品は、山村での少年時代の思い出を軸にした心温まる内容で、文章も短く、きっとすいすいと楽しく読み進めることができます(ときに涙しながら!)。普段、小説は読まない、という人にもお薦めです。舞台はアルジェリアの片田舎、「カビリー地方」と呼ばれる辺境の地域で、時代は20世紀前半。でも農業が中心のこの地域はなんだか昔の日本みたいなところが一杯あって、私たちにとってまったく遠い所なのに、不思議に近しい印象も覚えるはずです。大学教員が訳したくなるだけあって、掘り下げようと思えばいくらでも深い内容が湧き出てくる、侮れない小説です。