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世界で最も先進的な医学図書館をめざして

高田 彰

 医学図書館は昭和53年に開館しているが,その設計の段階から日本で最も先進的な医学図書館をめざしていたものと推察される。例えばその特徴として,当時としては画期的な210平方メートルもの広い視聴覚室を設置すると共に,その一部にCAI(Computer Assisted Instruction) 室を設けていることがあげられる。視聴覚教材の有効な利用とコンピュータを使用した医学教育を前提に医学図書館の機能を考慮していたわけであり,ここでは実際に同時に50人もの学生が視聴覚教材を用いたグループ学習を行ったり,当時としては珍しいCAI専用のコンピュータ・システムを用いた教育などが実施された(写真1)。CAI室には本学学術情報処理センターの計算機システムとを結ぶコンピュータ専用通信回線が敷設され,情報処理技術を用いた医学教育について先進的な取り組みがなされ,その流れは現在にいたるまで途切れずに続いている。

医学図書館と教育用計算機システム

 本学では創設時から,全学生に対して共通科目「情報処理」を必修カリキュラムとして課しており,そのための情報処理環境として教育用計算機システムが運用されている。あまり知られてはいなかったものの,以前より教育用計算機システムの一部が小規模ながら,医学図書館の視聴覚室およびCAI室に設置され,学生教育に使用されてきた。情報システムの急激な発展に対応し,より良い情報環境を提供するため,平成7年に医学図書館視聴覚室を大幅に改造し,コンピュータルームとしての体裁が整備された。平成9年に教育用計算機システムが更新され,医学図書館のシステムは大幅に増強されて40名規模の実習も実施可能となった。医学図書館としては,新たな時代の幕開けを迎えたと考えられる。
 医学図書館の教育用計算機システムは開館時間中は自由に利用することが可能であり,医学地区の学生に限らず全学的な学生によって活発に利用されている。医学図書館の開館時間は長期休暇期間を除き,平日午後10時まで,土・日・祭日は午後1時から午後6時までとなっており,教育用計算機システムを自主的学習に使用する学生に対する便宜が図られている。特に土・日・祭日は,学術情報処理センターおよび体芸棟の実習室が閉鎖されているため,利用者の多い時期にはほぼ満席の状態になる程である(写真2)。効果的な教育を行うためには,先進的な情報処理環境を継続的に整備し,その情報処理環境が学生の自主的な勉学においても有効に利用されることが必要であるが,医学図書館はそのための理想的な場を現在提供しているといえよう。
 国立大学では,情報システム関係のレンタル予算は,その額と配分先が限定されており,一般的には情報システムは中央集権的に配置され管理されてきた。この点は,情報システムの中心が大型汎用計算機システムから分散型オープンシステムに移行した現在でも必ずしも改善さていないことが多い。しかし,本学では,従来より情報システム資源を分散して配置することに努力しており,教育用計算機システムの一部を医学図書館(ならびに中央図書館)に配置することも,そのひとつの方策として実施されてきたという経緯がある。現在大学全体の情報化推進をどう進めるかという大きな課題があり,これにどう取り組むかは大学全体のパフォーマンスに大きな影響を与える事柄であると考えられる。医学図書館に設置された教育用計算機システムの運用は,関係する複数の組織がそれぞれの資源(計算機システムのレンタル費用,人的資源,場所,設備等)を提供しあいながら,情報システムの円滑な運用と利用者へのサービス向上を図ったという点で,今後の方向性を示したものとして評価されるべきものであると考えられる。

医学図書館と電子図書館

 本学における情報化推進という点では,本年1月に電子図書館システムの実運用が開始されたことは記憶に新しい。他大学に先行して本学に対して電子図書館システム構築のためのレンタル経費が認められ,さらに電子図書館システムに登録する資料の電子化作業のための予算が継続的に認められたことは,この数年間にわたる図書館の努力が外部から高く評価されたことを示している。この電子図書館プロジェクトにおいても,医学図書館は重要な役割を果たしてきた。
 本学における電子図書館への取り組みの発端は,昭和61年に附属図書館運営委員会の下にニューメディア検討ワーキンググループを組織し,光ディスク装置を含む「ニューメディア」の導入による資料のコンパクト化を検討したことによる。中央図書館における資料保管スペースの狭隘化が深刻化する状況の下での検討であった。電子図書館への取り組みが本格化するのは,故阿南功一元学長の肝入りで平成2年に評議会の下に図書館将来計画委員会が組織され,中央図書館の増築と共に電子図書館への取り組みの方向性が示されてからである。平成3年より図書館電子化専門委員会が組織され,2期6年間にわたる電子図書館構築へのプロジェクトが開始された。尚,中央図書館増築への努力も平行して行われ,幸いにも平成7年には増築が実現した。この結果,電子図書館プロジェクトは図書館の狭隘化と資料のコンパクト化という束縛から開放され,より純粋に電子化された情報の流通と活用,ならびに情報の発信という視点から検討を行うことが可能となった事は幸いであった。
 電子図書館への最初の取り組みは電子化された学術情報の利用という点にあり,医学図書館を中心に検討と環境の整備が進められた。どうして医学図書館なのかという点については,平成3年当時はCD-ROMによる電子出版が立ち上がりはじめていた頃でもあり,またCD-ROMサーバをネットワークに接続してサービスを行う仕組みが普及し始めた頃でもあったが,このような環境で利用できる情報ソースが医学分野で多かったことがあげられる。また,医学図書館の利用者にもこのようなサービスへの高い要求があり,特に文献検索サービスに関しては医学図書館は本学の他の図書館と比較しても際立って高い要求が従来より認められていたからである。実際に医学図書館に設置されたCD-ROMサーバの利用頻度は極めて高く,サーバの更新や端末の増設を行いサービスの向上を図ったところ,医学図書館を利用する研究者の研究環境を大きく改善することができた。この成功をもって,電子図書館への動きが加速したことは間違いないものと思われる。
 蛇足ではあるが,現在中央図書館および医学図書館で提供されている医学文献データベースの購入費用は医学3学系の経費で賄われている。これも関係する複数の組織がそれぞれ提供できる資源を出し合い,組織としての機能を高めている例であると考えられる。今後より多くの電子化された情報を購入する必要がでてくるものと思われるが,その際のひとつの方向性を示していると考えられる。電子図書館については,現在は情報発信とう観点からその運用が行われており,今後の更なる発展が期待されているところである。

医学図書館と地域社会

 医学地区には医学図書館を中心にいくつかの教育・研究組織等が存在するが,なかでも附属病院は医学図書館の果たすべき機能に大きな影響を与えていると考えられる。平成10年度筑波大学概要によれば,平成9年度筑波大学国立学校特別会計の歳入は218 億4 千万円であったが,附属病院収入は119 億2 千万円と全体の約54.6%を占め,授業料及び入学検定料の73億8 千万円(33 . 8%) を大きく上回っている。平成10年度筑波大学附属病院概要によれば,附属病院の1日平均外来患者数は約1,200名,1日平均入院患者数は約700名であり,医師,薬剤師,看護婦,臨床放射線技師,臨床検査技師等の医療専門職ならびに事務職員等,合計1,000名以上もの教職員がまさに24時間体制で活動を行っている。これらの教職員は医学図書館の利用者であり,ここで得られた情報が直接的に附属病院における医療活動に利用される。このことによって,医学図書館の果たす社会的な役割の大きさが推測可能であろうし,医学図書館の24時間開館への切実な要望があることも理解できるものと思われる。本学を巣立ち周辺地域において医療の最前線で活躍している多くの医療従事者も,医学図書館を利用していることも見逃せない事実であり,今後の医学図書館の機能を考えているうえでは,地域社会との連携を無視できないものと思われる。
 医学図書館は歴代の図書館職員と医学地区教職員の努力によって発展を続けてきた。開学当初に日本で最も先進的な医学図書館をめざして計画が練られたとするならば,開学25周年を迎えた現在は,世界で最も先進的な医学図書館をめざして新たな計画を策定するべき時期なのではなかろうかと考える次第である。

(写真1)CAI室に設置された医学CAIシステム 昭和55年頃
 日本語の文章と画像はスライドプロジェクターを,音声はカセットテープレコーダーを,マイクロコンピュータにより制御しながら提示し,インタラクティブなマルチメディア環境の下で,患者の診断や治療のシミュレーションを行うことができた。これとは別に,学術情報処理センターの大型計算機を用いたシミュレーションプログラムも提供されていた。
(写真2)休日も満員状態の視聴覚室     平成10年6月のある日曜日
 写真を撮影する直前までは,空席待ちの行列ができたと学生が教えてくれた。

(たかだ・あきら 臨床医学系助教授)


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