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(59)夕一ミノロジー

情報資源識別子

谷口 祥一

 情報資源識別子とは,各種の情報資源に対して,その一義的な同定・識別を目的とした番号・コードからなる「識別子(identifier)」の総称である.印刷物から電子資料まで,著作物として識別が必要なあらゆる情報資源がその対象候補となるため,これまでに多様な識別子が提案され,そのうちのいくつかが実用化されている.われわれに馴染みのISBNやISSNがその代表例である.その他にも,例えばISO国際規格に制定されているものには,先の2つに加えて,ISRC(国際標準レコーディングコード),ISMN(国際標準楽譜番号),ISRN(国際標準テクニカルレポート番号),現在審議中のISWC(国際標準著作コード)やISAN(国際標準オーディオビジュアル番号)がある.あるいは,欧米の出版業界主導で図書・逐次刊行物を対象に,新たにBICI,SIC1,さらにはP11(Publisher Item ldentifier)が導入されている.また,最近では広範な適用可能性をもつDO1(Digitalobject ldentifier)が関心を集めている.
 こうした識別子を巡る議論が,近年にわかに熱を帯びてきている.その背景には,ネットワーク環境下における情報資源の有効かつ円滑な権利(著作権)処理と流通とを実現するためには,識別子が基盤要素の一つとして必要不可欠であるという認識がある.それゆえ,出版業界や音楽業界など権利保有者側からの取り組みが,必然的に熱心となる.
 これら各種の識別子を整理するには,以下のような複数の観点から捉えることが有効であろう.
1) 対象とする情報資源の種別:印刷物等,パッケージ系の資源のみを対象としたものか,あるいはネットワークを介してアクセス可能な電子資料を対象としたものか,またはそれら両方を含めたものか.ちなみに,ISBNやISSNは,電子資料をも対象とし うるよう近年方針を変更したという.
2) 識別子付与の書誌レベル:図書・逐次刊行物という独立した刊行物の単位で識別子を付与するもの(ISBN,ISSN等)から,それらの構成部分である章や記事の単位で付与しうるもの(BIC1,SIC1,PII),あるいは車・節・図表など任意の単位で付与可能なもの(DOI)に分かれる.
3) 識別子付与の書誌的実体レベル:知的・芸術的内容のまとまりという著作のレベルで識別子を付与しようとするのか(ISWC),あるいは文字・記号列で著作の内容を表現したテキストのレベルで付与するのか(ISRC,ISAN),特定のフォーマットや媒体に固定された段階の具象化物レベルで付与するのか(ISBN,ISSN等).例えば,著作レベルで識別子を付与することは,同一著作が多様な表現形式や物理的形態・媒体をもって出現しても,それらすべてに対して単一の識別子を対応づけることを意味する.
4) 識別子付与・管理の主体:著作者または出版・頒布者等,権利保有者側がその任に当たるのか(ISBN等),書誌コントロール機関等の第三者機関が行うのか(ISSN).
5) 識別子の用途:同定を始めとする書誌的な用途のみを意図するのか(ISSN等),情報資源本体へのアクセスに伴う権利処理までを含めて実現することを意図しているのか(DOI等)など.後者の場合,例えばDOIでは,それをディレクトリサーバに送り,目指す情報資源の所在を示すURLもしくはそのアクセスに関わる必要な情報を戻してもらい,最終的な アクセスに至るという,resolutionと呼ばれるプロセスが介在することになり,この過程で権利処理が可能となる.
6) メタデータの有無:識別子を付与した情報資源に関する各種の情報(アクセスに必要な情報を含む)を記録したメタデータを作成・提供する仕組みを備えているか(ISSN,DOI等).

本学助教授
Information Resource ldentifier,by ShoiChi TANIGUCHI