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これからの附属図書館像に向けて

植松貞夫

 私は10月20日に,附属図書館の館長に就任いたし ました.これを機会に若干の所見を記させていただ きます.
 本学附属図書館は国公立大学を通じて図書館情報 学にかかわる唯一の専門高等教育機関の附属図書館 として,創設当初より,通常の大学附属図書館の機 能に加えて,図書館情報学に関する高度の理論と技 術についての教育の実践の場としての機能,および 研究開発の場としての機能をも併せて付与され,そ の多様な機能と事業の展開により我が国の学術文化 の発展に寄与してきた.
 この20年間にわたる,歴代館長と図書館情報課の 職員,そして附属図書館委員会委員を始めとする教 員,職員,学生のご尽力・協力に対し感謝の意を表 すと同時に,こうした実績を一層発展させることに 微力を尽くす所存です.
 さて,本館報の前号では,開学20周年を記念した 特集において,前任の藤野館長と前前任の竹内館長 に,取り組むべき課題をまとめていただいている. 藤野先生は,図書館組織のあり方,保存システムの 見直し,メディア開発による「コンテンツ」情報発 信,担当する図書館職員の養成を挙げられ,竹内先 生は教育者・研究者のよきパートナー,学生のよき ガイドとしての大学図書館職員像の確立とその養成 の必要性を指摘されている.これらいずれも急務か つ大きな課題に関し,その解決・改善の方向に向け て着実に取り組んでいかなければならない.その他, 今後予想される国立大学の体制そのものにかかわる 変化に関連して発生してくるであろう諸課題に対し ても,本学附属図書館は国立大学附属図書館のモデ ルとして,常に改革の最先端であり続けることが社 会的な要請であろう.

  頼られる図書館に
 知識と情報の創成・流通・蓄積にかかわるコンビ ュータとコミュニケーション技術の進歩は,情報の 受発信における個人化を拡大する方向に向って続け られてきているといえる.これはつまり,これまで は専門家が専有していた知識と技術を大衆化するも のであり,いわば専門家不要の方向である.これが, 資料を収集し提供する物理的な存在としての図書館 とそこで働く専門家としての図書館職員の地位の不 安定化をもたらしているといえる.
 この状況下にあって,附属図書館が大学における 教育研究の基幹施設・機能であり続けるためには, 個人ではもち得ないコレクションを蓄積したりデー タベースを備えること,利用者のレベルを常に上回 る専門的知識と技術を有する職員の人的サービスを 提供することで,「さすが図書館に助けてもらうとす ごい」と思ってもらえる,頼られる図書館でなけれ ばならない.しかし,そうであることは一般の大学 でも容易ではないと考えられるが,とりわけ本学の ような図書館情報学に関する多数の研究者を擁しそ の専門家としての学生を養成する大学にあっては, 格段の努力を要することであろう.
 藤野・竹内両先生が指摘された図書館職員の問題 はすなわち,利用者に頼りにされる職員となること を求めるものであり,そうなれる環境を整えること であるといえる.頼りになる図書館,頼りにされる 図書館職員を実現するためには,質の高いサービス 提供への図書館組織や研修方法の見直し,単純・反 復的な業務を軽減し,知的労働に専念できる環境と 制度の整備,あるいは教員と一体となった研究開発 の機会の創出など,本学ならではの職員の資質向上 のための努力を行う必要があると思われる.

 メディアミックス型図書館へ
 学生が大学図書館を利用する主な理由を挙げれば, (1)講義・演習・実習,試験に関連して自学自習のた め,(2)卒業研究や修士論文作成のため,あるいは自 己の関心に関する調べもののため,(3)教養の増進, 娯楽を目的とする読書等のため,そして(4)待ち合わ せの場所としてや昼寝する座席の利用のためという ことになろう.このうち(4)以外に関しては,ディジ タル情報の利用の増加により,必ずしも図書館への 直接来館を要しない利用形態が一般化してきている. 特に本学では総合情報処理センターや各講座・セン ターの共同研研究室,あるいは自宅からでもディジタ ル情報を利用できる環境が整備されていることもあ って,さしもの「本好き」が多い本学学生にあって も,活字離れというかインターネットを介してのデ ィジタル情報への偏重傾向が強まっているように思 われる.
 本学の図書館は,学習と研究の両方の利用に好都 合であるように,研究棟と講義棟の中間に位置して いるが,研究的な利用にも学習上の利用にも,来館 を必須要件としない状況は今後ますます普遍化する であろう.
 そのため,図書館を図書館という名称の物理的な 空間に限られたものではなく,大学全体を凶事館と 考えるような発想の転換が必要になろうし,ディジ タル図書館などは既にそうなっているものといえよ う.一方において,快適な閲覧空間を備え,活字資 料とネットワーク経由の資料・情報の両方が同時に 利用できるようなメディアミックス型利用に対応で きる図書館への転換など,「来てもらえる図書館」へ の努力も怠ってはならないと考える.
 その第一歩として本年度から,1階の閲覧机に情 報コンセントを装備するなど,このための環境改善 に着手することにしている.

  研究開発・実験を支援する図書館
 本学の附属図書館は,ディジタル図書館システム やマルチメディアデータベースシステムなど,図書 館情報学に関する先端的な研究の成果を取り込んだ り,開発途上にある機器やシステムの実用実験の場 となるなど,大学図書館の発展のためのモデル図書 館,実験図書館としての機能を担っていかなければ ならない.定常的な業務と実験・試行とはなじみに くい部分もあるが,できる限り受入れる柔軟性を確 保していきたい.

  地域や社会に開かれた図書館
 藤野前館長も,まず卒業生と修了生,そして本学 の司書講習,大学図書館職員長期研修,新任図書館 長研修,および公開講座などの「修了生」が,折に ふれていつでも「ホームカミング」できる図書館で ありたいと述べておられるが,私も大いに賛同する ものであり,実現を目指していきたい.同時に,つ くばや近隣の住民の生涯学習に資することができる 図書館として制度と運営体制の整備を図っていきた い.常磐新線が実現すれば秋葉原と45分で結ばれる ことで,本学附属図書館は,個性あるコレクション と専門知識を有する職員の人的サービスの魅力によ り,東京都内や沿線住民の利用意欲を喚起すること になろう.その備えを検討していきたい.

  物理的な環境の改著
 図書館に収蔵されるべき資料は,常に増加し続け る.利用者が図書館に求めるサービスの内容は時代 とともに変化する.こうした質と量からなる図書館 の進歩・発展に対して,物理的な環境はそう簡単に は追随できない宿命をもつ.本学の図書館もこれま で書架の増設や部屋の用途変更などの対策を講じて きたが,数年前から満杯の状態であり,保存スペー スの捻出など今後の大きな変化に対して対応するこ とがきわめて困難な状態にある.  幸いにも,図書館のエクステンションとして要求 していた情報メディア総合センターの建設が有望に なってきた.ここには,上記のディジタル情報の利 用環境,社会への図書館開放,ディジタル図書館へ のコンテンツの整備・開発,開学20周年記念展で展 示したような博物館的資料を展示するためのメディ アミュージアムなどのスペースを設けていきたいと 構想している.これで物理的スべースに関する積年 の課題が一挙に解決するわけではないが,大幅な改 善が実現でさるものと期待している.

 以上は私の個人的な見解である.本学職員の多数 は図費館と図書館サービスに関連する専門家である ため,附属図書館のあるべき姿に関しては,それぞ れがさまざまな見解をおもちである.そのため,逆 に合意形成が困難な面もあろうが,利用者の声を集 約することに努めるなどフランクに要求や議論がで きる雰囲気を創りだし,できる限り多数の合意を得 て,長所は伸ばし,短所はとり除くべく勇敢に改善 に努めていきたい.  大学の全構成員に一層のご協力をお願いいたしま す.


附属図書館長
For the Next Stage of ULIS Library,by Sadao UEMATSU