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資料紹介

新 聞

後藤嘉宏

 〈資料紹介〉に,「新聞」という題が掲げられるの を見て,驚かれる方も多いであろう.
 実際,オリジナルの新聞(これを原紙という)は 図書館資料であるが,大抵の図書館は短期間で廃棄 する.本は尻に敷いてはいけないと子供時代,両親 から聞かされるが,古新聞は,平気でレジャーシー ト代わりの敷物にされる.所詮本より格下の存在だ.
 『びぶろす』の1950年6月号に新聞切り抜き特集 がある.そこで東大新聞研究所の初代所長,小野秀 雄は,新聞を資料として利用するに際し,「『賢明な る判読』を経なければならない」と述べ,報道する 側の姿勢を併せ見る必要性を強調する.他方小野と 共に日本の新聞学の草分け的存在であった小山栄三 は,外国の新聞切り抜き図書館の事例を紹介して, 大抵の新聞資料の利用者は,報道姿勢に関する情報 ではなく,事実に関する情報を求めていると指摘する.
 新聞社の中で新聞切り抜きが行われたのは,朝日 新聞が最初である.1911年6月朝日は索引部を設立 し,部長杉村楚人冠の下,新聞切り抜き業務を開始 している.索引部は同年11月編輯局制の採用に伴っ て調査部と改称された.さらに調査部は95年ニュー メディア本部等と統合し,電子電波メディア局のデ ータベースセクションとなった.
 したがって新聞切り抜き業務の延長上に新聞記事 のデータベースは位置づけられる.また,新聞縮刷 版も調査部長の杉村楚人冠が社内資料として保存さ れる新聞の山の解消のために考えついたものとされ, 1919年8月の「東京朝日新聞」 7月号が最初である.
 これらの歴史的経緯から,新聞切り抜き,新聞縮 刷版,記事データベースは,常に調査部との絡みで 生まれてきたことが分かる.この調査部とは,執筆・ 編集支援の資料づくりとそのレファレンス調査を主 な業務とする部署である.新聞縮刷版は市販され, 記事データベースは有料で一般に公開されているが, これらはそもそも記者の執筆や編集支援のための道 具であったのである.
 したがって出発点において事実よりも,事実の報 じられ方を伝えることを目的としたメディアであっ たといえる.しかしそうはいっても公開されたから には,小山のいうように,事実を伝えるメディアと みなされていく.しかも新聞縮刷版に較べて記事デ ータベースは,検索の便宜はあるものの,記事のイ メージ情報が伝わらず不便だとの声も記者たちから 出されている.実際,記事のイメージ情報や報じら れ方は,原紙が最もよく伝えていて,縮刷版,デー タベースの順にその程度が落ちる.例えば記事のレ イアウト等の情報が分かって初めて,その記事を新 聞社がどの程度重視したかが分かる.また記事デー タベースでは,誤報は修正され得るし,新聞社外部 のライターの寄稿記事は著作権上の理由から欠落し 得る.つまり内容についても原紙と全く同一の媒体 とはいえない.
 また新聞記事データベースはCTS(コンピュータ 入力・編集)導入以降の記事のみをカバーしている. CTS以前の記事に遡及した検索はできない.
 これらの欠点を埋め合わせるものの一つが,1995 年に発売された「戦後五〇年 朝日新聞見出しデー タベース」(071:A‐82)などである.見出しデータ ベースと縮刷版を組み合わせることで,CTS以前の 古い記事も検索できるし,イメージ情報も外部のラ イターの記事も入手できる.ただ全文記事データベ ースよりも検索の漏れは多い.また94年以降,読売 新聞と毎日新聞の電子縮刷版が年間24枚のCD‐ ROMで発行されている.
 このように色々なメディアを組み合わせて,事実 を知る資料として,あるいは報道姿勢を知る資料と して新聞記事は使われ得るのだ.


本学助手
Newspapers as a Material,by Yoshihiro GOTO