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ディジタル図書館の時代

藤野幸雄

 本学もディジタル図書館への本格的な取り組みが始まった.これまで,いくつかの国立大学図書館では,古典作品・貴重書や学術論文,さらに雑誌のバックナンバーのフル・テキストをコンピュータに蓄え,文献データベースを作る方向で取り組みがなされてきた.
 本学のディジタル図書館では,大学の使命を受けて,メタデータデータベースの構築および資料そのもののディジタル化を中心とする内容となるが,図書館は本学の教育の中心の場を占め,教官の研究も図書館の機能と技術の開発に向けられたものが多いことから,このシステムが今後の研究開発にとっても重要なものとなる.今後のディジタル図書館は,研究者および学生の利用の中核となる.
 ディジタル化した図書館で図書館はいったいどう変わるのであろうか.いくつかの点を取り上げて考えてみよう.第一に,利用者の意識が変わるであろう.図書館は20世紀以降だけを取り上げてみても,何度かの転機を経過してきた.今世紀の初めには,図書館はいまだ「大きいことが良いこと」との思想に支えられていた.それが,個々の図書館が独力で利用者要求に応ずることが出来なくなり,相互協力のシステムが模索され始めた.戦後の図書館機械化の時期,記録はコンピュータに内蔵され,資料利用ははるかに便利になった.それは時間的に短縮されただけではなく,空間的にも短縮されたのであり,所在に関わる情報はいながらにして入手できる状況が生まれていたからである.さらに現在,資料そのものが利用できる可能性が出てきている.戦前からの図書館を利用してきた者にとって,こうした一連の変化は,驚くべき速さで進行したことが実感できる.
 図書館はサービス機関であり,利用者のために存在している.ディジタル化によって,第二に,図書館の教育的な機能がこれまでとは変わってくる.学生の資料利用および教官の教育が問いなおされるかもしれない.これまで,わが国の教育が欧米型の教育と根本的に異なっていた点は図書館が教育の中心に据えられていなかったとの指摘は多くの識者によりなされてきた.学生からの要望によりこのあたりが変わることが期待できよう.目の前の端末の画面こ出てくるのは,資料だけでなく,講義そのものであり,教官の肉声であるから,そして,遠隔の地でそれが利用できることになるからである.図書館利用は受け身の姿から積極的なものに変えることができる.これは,図書館そのものが学術型から公共型に変身することを意味する.アメリカのナショナル・ディジタル・ライブラリーの全国構想は,僻地学校教育を支えることで始まり,この仕事の中核となっているのが合衆国議会図書館であった.
 第三に,図書館自体に研究開発能力が求められることになる.それを受けて,図書館員の意識も変わらねばならないし,そこで求められる図書館員の資格も見直されることになるであろう.新たな図書館サービスのもとでの職種の見直しも迫られるかもしれない.しかし,図書館員は何時の時代でもその職業意識の変革を求められてきたのであり,つねにそれに対応してきたのであった.
 これからの図書館員に必要なことは,技術への対応ばかりではない.利用者の要求がさらに多様化し,ディジタル図書館の時代が到来した現在こそ,本学における教育・研究の真価が問われる時代でもある.


本学副学長・附属図書館長
Period of Digital Library. by Yukio FUJINO