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トレール探検

永 森 光 晴

 知ってしまったら知らない自分には戻りたくない.これは解剖学者の養老猛氏の言葉である.つくば歴8年目にして覚えたマウンテンバイク(MTB)遊び.いい年をして週末になると野山を駆けずりまわり,時には転んですり傷も作る.しかし一度味を占めると,なかなかにして愉快でやめられないのだ.
 MTBで走るのは山の中の道だ.この道をトレール(trail)と呼ぶ.トレールは大雑把に二種類に分類できる.ハイカーとMTBがすれ違える程度の巾のトレールをシングルトラックと呼び,自動車が入れる程度の巾のトレールをダブルトラックと呼ぶ.さらに路面が土か砂利かで分類できる.MTBで走るには土のシングルトラックが最高だ.好運なことに茨城県には土のシングルトラックが数え切れぬほどあるのだ.
 その茨城県の中でも筑波山周辺は網の目のようにシングルトラックが張り巡らされている.加えて,筑波山頂を除けばハイカーはほとんどおらず,つくば市中心部から筑波山までは車で30分程.MTBで走っても1時間はかからないでたどり着ける.こんな宝の山が近くに眠っているのに手を出さないでいるわけにはいかないだろう.
 MTBに乗り始めたきっかけは,友人の「山に行こうや.MTBは貸すから」の一言だった.友人が貸してくれたモスグリーンのMTBにまたがり,転びながら,ひーひー言いながら一日走り回った.とにかく疲れたのだが,急な坂道を登りきった時の壮快感,頂上で見る景色,下りで感じる風,どれも最高だった.
 初めて山に行った帰り道,既にMTBの購入を決意していたのだ.まんまと友人のワナにはまってしまった.しかし騙されたとは思っていない.むしろ「なんで今までこんな楽しいことを隠していたんだ,コノヤロー」だ.
 それからは暇さえあればMTBを車に積み込み,トレールを求めてさ迷い走った.「さ迷う」という言葉は冗談でなく,本当に迷ったこともある.崖から5〜6m転落したこともある.しかし驚かれるかもしれないが,ヘルメット,グローブ,プロテクタを着けていれば意外に大きな怪我はない.ただし無理をしないに越したことはない.
 茨城県内を中心にトレールガイドブックに載っている山を一通りめぐると,今度は国土地理院の2万5千分の1地形図を頼りにトレールを探すようになった.地形図を頼りに使われなくなった旧道や薮に埋もれた林道を探すのだ.まるで宝探しの探検のようなものである.
 トレール探検の三種の神器は,ナタ,スコップ,ノコギリだ.ナタは薮を切り開き,スコップは雨で流された道を修復し,ノコギリは倒木を移動させ道を開くのに使うのだ.普段走らせてもらっているトレールを整備すると思えば,重労働もさほど苦にならない.  山での出会いもすこぶる楽しい.同じMTB乗りに出会えばトレール談義に花が咲く.そのまま合流して,予定とはあさっての方角にハンドルを向けることも多々ある.ハイカーと遭遇すれば,まずMTBでこの坂を登ったのかと驚かれ,次に感心される.猟師に頼まれ谷から猪を引き上げたこともある.肉を持っていくかと言われたが流石に遠慮した.
 秋になると山は紅葉で賑わう.茨城県の冬は雪が少なく走るのには丁度いい季節だ.先日筑波山で発見した新しいトレールは,少し走ってみたところ,なかなかのお宝のようだ.今度の週末はバッグに三種の神器を詰め込んで探検してくることにしよう.  


本学助手

Trail Ride, by Mitsuharu NAGAMORI