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光ファイバー

磯谷順一


 家庭でインターネットを利用すると,モデムを買い替えても,ISDN(サービス総合デジタル通信網)に入ってもなかなか応答が速くならず,通信回線の“細さ”にいらいらしてしまう.この “交通渋滞”を解消する策として,2015年までに各家庭の軒先まで光ファイバーによる高速回線を引く計画が進んでいる.
 光ファイバーは長距離・高速・大容量の情報伝送媒体であり,銅線(メタルケーブル)の数万倍の伝送容量を持つ.音声だけでなくカラー動画像などをリアルタイムで各家庭に伝送するマルチメディア通信には欠かせない情報通信インフラである.家庭やオフィスからネットワークを通じて図書館を利用するサービスにも重要である.
 銅線では電波の周波数が上がると,短距離しか伝わらない.光通信では,半導体レーザー光という高い周波数の電磁波(波長1.3ミクロンの光の周波数は2億3千万メガヘルツ)を情報の“運び屋”に使うので,オン・オフの形できわめて多くのパルス信号をのせることができる.単に,光の伝わるのが速い(ガラス中の速さは真空中の3分の2倍)からでなく,1秒間あたりに送れる情報が多い(一定量の情報を速く送れる)ので,高速・大容量なのである.PCM(パルス符号変調)の電話1回線分は毎秒64キロビットだから,ファイバー1本の中に,何千人分もの電話やファックスを一括して載せたレーザー光を通すことになる.1985年に完成した旭川から鹿児島までの日本縦貫光ファイバーケーブル(24芯)では,1ファイバーあたり毎秒400メガビット(電話5760
回線分)に過ぎなかったが,1本のファイバーに多くの回線を詰め込む多重化技術の進歩により,1ファイバ一に毎秒10ギガビット(100億個のパルス)を通すことも可能になった.
 光ファイバーは,外径125ミクロン(1ミクロンは千分の1ミリ)の細い石英ガラス繊維で,中心のコア(シングルモード・ファイバーは径10ミクロン)をクラッドが取り囲む構造をしている.コアはゲルマニウム酸化物などの添加により屈折率がクラッドよりも0.3%高く,光はコアとクラッドの境目で反射(全反射の原理)され,光をコアの部分に閉じ込めて,曲げても光が漏れずに伝わるしくみになっている.髪の毛なみに細い光ファイバーが,情報伝送能力としては“太い”のである(プールに水を貯める場合の水道管の太さと同じ).光ファイバーは細く軽い上に,隣接するファイバーへの漏話がないので,2千〜数千本束ねて被覆し1本のケーブルにする(多芯化)ことでさらに能力アップできる.
 ガラスは透明といっても,窓ガラスの断面をみれば色がついているように,光学ガラスでも光が数mも進むと強度が半減してしまう.光ファイバーでは,純度を上げることにより,波長1.55ミクロンの光に対して,20km進んで半減という低損失化を実現した.中継間隔100km以上というのは,太平洋横断ケーブルのような長距離伝送にはありがたい.
 光ファイバー製造には,四塩化ケイ素を酸水素炎中で分解してできる,すす状のシリカ微粒子からなる多孔質の白い母材を脱水・焼結して,透明なプリフォームと呼ばれるガラス棒を作る.プリフォームを加熱(2000℃)し熔かしたところを,細く長く引き伸ばし,同時にプラスチック被覆することにより光ファイバーが作られる.外径5cm,長さ1mのプリフォームが,160kmの継ぎ目なしの光ファイバーになる.世界最大手は“ガラス屋”のコーニング社(米国)であるのに対し,国内では,電線ケーブルにおいて1位のシェアをもつ住友電気工業がトップメーカーである.
 光信号をいったん電気信号に替えて電子回路で処理し,再び光に戻して送るかわりに,光のまま増幅する光増幅中継器も実用化した.光パルスの波形が伝送とともに歪んでいくのを防げる光ソリトン通信は,敷設されている光ファイバーを用いて,従来の25倍以上の情報を伝送でき,中継器の数も大幅に減らせるので次世代光通信技術として期待されている.最近はプラスチック系光ファイバーの特性も向上し,短距離用として注目されている.


Optical fiber, by Jun‐ichi lSOYA
本学教授