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フンボルト大学日本研究センター図書室

島谷祐枝

 フンボルト大学日本研究センター図書室は,かつて森鴎外記念館にある日本学科の一図書室にすぎなかったものが,日本研究センターの発足とともに専任司書が新たに配属され,1995年10月に日本研究センターの独立した図書室として現在の建物に移設されたものです。これを機に,センター図書室は日本研究を目的とした機関,森鴎外記念館は鴎外の業績や,日本文化の紹介を行う機関という役割分担が明確にされました。
 センター図書室の大学内での位置付けは,アジア・アフリカ学科図書館の下位組織ということになっています。しかし実際の業務は予算管理に関係した業務を除いては,かなり独立したものとなっており,分類目録作業も独自に進めています。
 現在,鴎外記念館には「森鴎外関係資料コレクション」が所蔵されており,その資料は鴎外関係研究をしている学生アルバイトによって管理運営されています。一方,センター図書室の日本関係の蔵書は,約1万5千冊で,和書が約8割を占め,残りの2割がドイツ語,英語を中心とした洋書となっています。センターの前身である日本学科では,日本文学を中心テーマとして研究が進められていたこともあり,所蔵日本語資料の中での文学関係資料の役割は非常に高く,約7割を占めているものと思われます。現在はテーマの中心が思想・歴史に移ったこともあり,その分野の資料を充実させるべく,西暦2000年までに基本的な資料の購入を終える計画が立てられています。また,今後行われる予定の特別研究に関連して購入された特色のあるコレクションとしては「日本映画関係資料」「児童青少年関係資料」が挙げられます。
 購入・寄贈をあわせて定期的に受け入れられる雑誌は和・洋あわせて約80タイトルです。寄贈される雑誌のほとんどが大学紀要であり,その中には他学科に寄贈されたものの,その学科に関係する主題のものでも日本語で書かれているというだけでセンター図書室に回されて来ることも多く,現在はそういった本来は他学科に所蔵されるべき雑誌もセンター図書室で受け入れていますが,所蔵スペースの問題から今後は受け入れ基準の改訂が必要となってくるものと予想されます。
 センター図書室が独立する以前の目録について言えば,アジア・アフリカ学科図書館で欧文資料についてのみカード目録が作られていました。しかし日本語資料についてはまった目録は作られていない状況が続いていました。大学にコンピュータ・ネットワークが導入されてからは,欧文資料に関してはセンター図書室受け入れ分についても,アジア・アフリカ学科図書館で,大学を全体のコンピュータ目録に入力されています。しかし大学のコンピュータ。システムでは,使用できる文字に制約があり,日本語資料の目録は作成されておらず,センター図書室でパーソナル・コンピュータベースの簡易データベースソフトを利用した目録作成に取りかかかっている最中です。
 分類は「日本十進分類法」(NDC)を使用し,新規購入資料の分類を進めていますが,過去に購入された資料については,現在パーソナル・コンピュータ上に作成されている目録に遡及入力する過程で分類しなおす予定です。
 図書室の利用者は,センターのスタッフと学生が大多数を占めていますが,学外の利用者にも,図書室の利用は資料の借り出しも含めて開放されています。現在の利用者数は学内・学外の利用者をあわせて約100人程度です。貸出冊数は一般学生1人5冊まで,期間は2週間ですが希望があればさらに2週間延長が可能です。また,ドイツでは4セメスターめに中間試験を受ける必要があるので,その試験の準備をする学生と,修士課程以上の学生には貸出冊数を倍の10冊まで認めています。スタッフは貸出冊数20冊まで,期間は無制限ですが,合鍵で24時間入室可能なため,司書こ借り出しを申し出るケースは,ほとんどありません。貸出登録は身分証明書を提示することで簡単にすることができ,学外者でも一般学生と同じ条件で借り出しをすることができます。こうして在ベルリン日本人,日本語学習者等に利用されています。
 図書室の開室時間は毎週月曜日から金曜日までの12:00から17:00となっています。学生からは開館時間の延長を望む声が聞かれますが,財政引き締めによってこれ以上図書室のスタッフに予算が下りず,延長の予定はありません。センタースタッフについては前にも書きましたように,24時間合鍵により入室が可能となっています。
 資料の購入に関しては,教育・研究スタッフが中心となって計画をたて,発注はセンター秘書が行っています。特に日本研究を主専攻としている学生が少ないこともあり,博士課程未満の学生や学外の利用者からの要望には特別な配慮が払われることは予算の関係上からもほとんどありません。
 現在行っている作業の中心は,新着資料の目録作成と,参考資料の遡及入力です。遡及入力についてはまとまったコレクションから始めるということで「参考資料」児童青少年関係資料」「エチケット関係資料」の順に行うことが決まっています。「日本映画関係資料」については入力が終了しています。
 小規模なセンタ」図書室で司書業務をこなそうとすると,やはり資料の提供には限界があると感じられることがよくあります。そこで他日本関係図書室との連携を深めることが必要であろうと考え,1995年にケルン日本文化会館図書館とベルリン日独センター図書室が中心となり発足したドイツ語圏日本関係図書室情報交換会(1997年までは年3回開催。1998年からは年2回開催)に参加することにしました。その会議や発表などで他の日本関係図書室の状況や対処の方法の報告を聞いてみると,かなりセンター図書室が抱えている問題と似通ったことが報告される例が多いことに驚かされます。
 参加各館に共通した問題となっているのは,地方分権が強いために図書館のコンピュータ・ネットワークが全国的なものとなりにくい点です。同じく大学内でも学科ごとの権限が強いために,なかなか大学全体でのネットワーク構築に足並みが揃いません。現在オンラインで提供される日本の情報が急速に増加しているにもかかわらず,規模の小さい日本学科や研究センターはネットワークに参加できるだけの設備投資ができない,また設備が整ったとしても日本が提供するサービスに対して,継続した料金を支払うだけの予算がないというところでも一致しており,これに対しては日本からの人的・金銭的な援助 が望まれています。


フンボルト大学日本研究センター図書室司書,本学卒業生
Japanese Language and Culture Library of Humboldt University,by Sachie SHIMATANI