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北欧の公共図書館における貸出返却のセルフサービス化

植松貞夫

 北欧諸国はいずれも1980年代後半からの経済停滞の波にさらされている。白治体の財政も逼迫し図書館の経費も大幅に切り詰められているため、新館建設計画の中断はもとより、資料購入費の削減や図書館バスの廃止などを余儀なくされている。図書館経費の大きな要素は人件費であるから、これにも削減は及んでいる。図書館の職員は、専門教育を経て司書資格を有するライブラリアンと専門資格をもっていないアシスタントに分けられ、両者の待遇は、例えぱスウェーデンの場合、前者は個室を与えられるが、後者は大部屋の作業室というように厳然と分けられている。ライブラリアンは自治体から人事権や予算運用のほぽ独立的な管理運営の権利を与えられているから、人件費の削減はアシスタント職員の削減につながる。アシスタントはパートタイマーが多く、主にカウンターでの貸出返却の処理、返却された資料を棚に戻す作業、新規購入図書にラベルを貼ったりという仕事を担当している。
 各国とも高い失業率とりわけ若年の失業者が多いことが問題となっている。外は寒くパチンコ屋などはないから、無料で長時間いられる図書館に集まる(名誉のためつけ加えると、自己の能力向上のために図書館を利用する失業者も多い)。加えて全体として余暇時間が多くなっているが収入はさほど増えていないので、安あがりな図書館へと人が集まるため、来館者数、貸出冊数ともに好景気時代に比べて著しく増加している。利用者の増加とアシスタントの削減という二重苦の解決策として急速に普及しているのが、貸出と返却のセルフサービス化である。
 1.自動貸出装置:利用者自身が装置の指示に従って個人カードと図書のバーコードを機械に読みとらせるものである。単体の装置型とカウンターに造り付け型とがあり、単体のものを貸出カウンターの近辺だけではなく、館内各所に設置している館もある。採用している図書館でも、まだこれは補助的なものとの位置づけが大半だが、ストックホルム市の隣のリーディング市に昨年3月に開館した中央図書館では、貸出はセルフサービス方式だけを原則としている。ここでは入口近くにカウンターがあり内側に職員はいるのだが、バーコードリーダーと端末画面はカウンター上で逆向きに利用者側に向いて並べられていて、利用者がとまどったときだけ職員が補助をする方式である。
 なお延滞には罰金を課すので、貸出期限日を利用者にしっかりと分からせる必要があり、貸出処理をすると書名と貸出期限日を記載したレシートが渡される。従って、貸出カウンターでも自動貸出装置でもこのレシートプリンターは標準装備品である。
 2.自動返却装置:その前に従来型の返却手続きについて説明すると、返却本のある人はまず白動発券機から番号札をとる。職員がボタンを押すと窓口番号が表示され、当該番号の人がカウンターに進み返却する(日本のように番号を呼び上げるなどということは一切ない)。この目的は延滞のチェックで、返却期限を超過している本があれぱ日数に応じた罰金を徴収される。このために返却カウンターに持ってきた本を積み上げてさっと館内に入るということが許されない。面倒くさいことだが、罰金は図書館の収入として資料購入費などに組み込まれるのでしっかりと徴収される。返却カウンターにはキャッシュレジスターがこれも標準装備品である。払うと職員は領収書を渡し「ありがとう」という。
 さて、自動返却装置はスウェーデンの企業が開発したもので、現在スウェーデン南部の公共図書館に数台とノルウェイに2台というところで、まだ本格的に実用とはいいがたい。この装置の売り物は返却本を分類に従って自動的に仕分けする点である。具体的こは利用者が本を投入口に入れると機械がバーコードを読み、本をくわえた自走式ミニロボットが分類に従って並べられた所定のラックに本を仕分ける。そして利用者にはレシートが打ち出され返却処理が完了したことを知らせる。分類は現段階では20種が限界で、6分類という館もあった。ラックはそのままブックトラックとして使用できる仕掛けで、職員はそのまま書架に運んでいき再配架する。ラックヘのたまり具合は目で確認する方法だが、満杯になると警報で知らせる。本の投入口のまわりはガラスなどで仕切られ、ロボットが本をつまんでラックに返す様子を見ることが出来るようになっており、子どもが1冊づつ入れては仕分けされる様子をのぞき込んでいる様子が微笑ましい。
 この装置の導入の背景としては、一般に図書館では貸出冊数制限はなく大量の貸出と返却本が毎日あることが挙げられる。そして、返却本は先に記したように処理されるのでここで流れが滞ること、返却本を再配架のために整理する広い場所と多くの作業員が必要であることがある。実際多くの図書館では返却された本をその日のうちに再配架するのが間に合わず、カウンター背後の作業室に置かれたままになっていることが多いのが実情で、この当たりに人員削減のしわ寄せが集中しているから、この装置は画期的なものと期待されているわけである。
 改良すべきは、かなり大型の装置で場所をとること、バーコードの読みとり能力がやや低く読めなくて戻されてしまう本が多いこと、ビデオテープなどは処理できないことなどである。もう一つ返却期限を過ぎた本でもそのまま受け取ってしまうことであるが、これはレシートに罰金が幾らである旨が表示されるし、次回貸出時に画面に表示されるのでその際に徴収すれぱ良いとの説明であった。しかし、自動貸出装置と自動返却装置とを併用したときにはこの罰金徴収がネックになるのではと思われる。この貸出装置、返却装置ともにまだまだ誤作動なく安定して稼働するとはいい難い。日本の利用者は機械の精度や操作性に対する要求水準が高いし、管理者側も反発を恐れる機運が強いから、両装置をこのままのレベルで日本に導入することはやや無理かなと思われる。しかし、返却装置を採用しているある図書館で、カウンターに返却にきた利用者に「自動の方に」と求めているのを目撃した。両機械に対する図書館員の側の評価は、「若者など機械に慣れた利用者にはこれを利用してもらうことで、助けが必要な人に手厚いサービスができるので結構な方式だ」という意見に代表されよう。
 利用者も協力的で、老人でも慣れない機械に説明を読みながら、利用者同士で助け合いながら取り組み、うまく処理が終わるとやれやれという調子など使いこなす努力をしている。これは、図書館が利用者に対してその財政状況を明らかにしてセルフサービス方式の導入を説明し、利用者に納得されていることが成功の最も大きな背景であろう。
 3.B.D.S.:セルフサービス式の採用にはBDSは不可欠である。北欧ではデパートも含めて専門店のほとんどで類似の装置を設置しているので、市民のなじみは日本よりはるかに高く、図書館利用者もごく当たり前のものとして受け取っている。先の自動貸出装置、返却装置とも検出のキーとなる磁気は自動的に処理できるようになっている。
 4.OPACからの相互貸借請求:いずれの国でも全国公共図書館総合目録がオンラインで提供されており、全国のどの図書館へも利用者自身で資料借用依頼をすることが許されている。このセルフサービス化のおかげでレファレンサーはより手間のかかるサービスに専念できる。また古い本を保存する共同保存図書館が複数設置されているので、個々の図書館は利用頻度の低下した資料を抱え込む必要がなく積極的に除籍し販売して、開架書架の活性化と収入の確保、そして保存用書庫の面積を小さくできるというメリットを享受できている。一般に人口が少ないために書籍の市販価格は高いから、安く売却される廃棄本は歓迎されている。まとめて販売市が開かれることもあり、コペンハーゲン市立中央図書館を私が訪れた日はその初日で、開館前になんと80人もの人が集まっており、開館と同時にそのコーナーはまさにバーゲン会場のような熱気と混雑であった。


本学教授
The spread of se1f−service circu1ation system for the pub1ic libraries in North Europe. by Sadao Uematsu