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資料紹介

「気の世界」入門書あれこれ

遠藤卓郎

 気功がその華々しい現象(気功麻酔や難病治療、気で人が飛ぶ現象)等から世間の注目を集めてはや20年近い歳月が流れた。気功というと何やら特殊な人達の特殊な行為や技術のように思われがちである。しかし気功には、普通の人が毎朝公園等でやっている健康法の類から、高度な知識と技術が必要な医療気功や才能と厳しい鍛錬が伴う武術気功等まで様々な種類とレベルのものがある。
 気功は気のトレーニングと解して良いだろうが、その気に焦点を当ててみると「気」の現象は日常生活のほんの些細な日常のさ中に見つけることができる。いや「我々の生活そのものが気の現象だ」という考え方さえもある。気のことは知らないという人でも、鍼や灸やマッサージ等を知らないという人は少ないだろう。またツボと言う言葉を知らない人も少ないだろう。ツボは経絡(血管の様に人体にはり巡らされている気の通り道。WHOも認めている)上にある気の出入口と考えられている。先の療法ではそこに働きかけて気の流れを調整し治療を行っている。とすれぱまさに我々の存在が気を抜きにしては考えられないと言う立場も無下に無視するわけにもいかない。
 ところで、その気とは何か?学問的な定義が確定しているわけではない。色々に試みられてはいるが、確定したとは言い難い段階である。しかし、科学的な定義が未確定であるからといって、気が存在しないと断定してしまうのも、気が存在すると断定するのと同じ程度に危険である。何れにしても未だ統一的には説明し切れないが、「気」の現象が存在することは確認されている。
 その「気の世界」に関わる入門的な書籍を紹介してみることにしよう。ここでは気の捉らえ方を少しゆるくして一見無関係に見えるかもしれないが、深いところで関係のあるものも敢えて取り上げて紹介しておきたい(現在一般的に入手可能な範囲内のものを)。
 気に関する知的興味を全般的に満足させる為には、湯浅泰雄の「気とは何か」(日本放送出版協会)がお勧めである。ただし、実践的な興味、関心を期待する向きには失望の恐れあり。実践的な意味も含めて気功に関する概括的な理解の為には、津村喬の「気功への道」(創元社)が良いように思われる。津村は我が国への気功紹介のパイオニア的存在である。実践的にも幅広く指導を行っており、著書の数も多く、その多くが良書(良心的、バランスが取れている)である。特に「東洋体育の本」(JICC出版局)は入門書ベスト1と言ってよいであろう。
 我が国にも気に関する天才が大勢いたし、今活躍している人も多数いる。少し古くなるけれども、「風邪の効用」(全生社)[493.87:N−93]という一般にはあまり知られていないが、その道では名著に挙げられている本の著書、野口晴哉もその一人である。この本は一読をお勧めする。風邪に対する考え方が一変する。また気と健康を考える上では、「健康生活の原理」(全生社)[498.3:N−93]が格好の入門書であろう。
 武術関係では気に関する叙述が多く見られる著作も多いが、中でも植芝盛平(植芝吉祥丸監修)の「合気神髄」(柏樹社)が内容的に群を抜いている。
 <スポーツと気>に関する領域では残念ながら、量において米国に先を越されている。例えぱ、マイケル・マーフィの「王国のゴルフ」(春秋社)[783.8:Mu−78]やジョージ・レナードの「魂のスポーツマン」(日本教文社)[780:L−55]等多くの著作が翻訳されている。その中でも出色はオイゲル・ヘリゲルの「弓と禅」(福村出版)であろう。
 さて最後に、本来の気功とは少し離れてしまうが、おおいみつるの「ヨーガに生きる」(春秋社)も面白い。これは中村天風の修業の有様を物語風に描いたものであるが、気功の修業のそれに似て、読み物としても極めておもしろい。同様にマルロ・モーガンの「ミュータント・メッセージ」(角川書店)も必見であろうか。
 さて、気の世界は凡庸な筆者には限りない広がりと深さを感じさせるが、それに関わる書物も多様な広がりと深さを示している。書物の母なる海としての図書館はこうした書物をどのように分類しているのであろうか?スポーツ、医学、趣味、娯楽、…、果たして体育に分類してくれている図書館はあるだろうか。


本学教授
Introduction to various guide, "the World of Chi". by Takurou Endo