表紙へ     前の記事    次の記事
ターミノロジー45

GIS

歳森敦

 日本語では直訳調に「地理情報システム」と称するが,ながったらしいので普通はGISという.道路や河川の形状,土地の起伏,土地利用の状態などの地理的な情報をコンピュータで蓄積・検索・分析・表示するためのソフトウエアであり,地図専門のデ一タべ一スと言って良いかもしれない.その特徴は地図の表す内容を,そのままベクタ図形あるいはラスタ画像として処理することにある.従ってGISを使って行われる分析も,標高差から計算された傾斜度を表す地図と土質を表す地図を重ね合わせて(オーバーレイ解析という)土砂崩れの危険性の高い地域を抽出するというように,地図としての特性を反映したものが多い.

 GISは土地台帳や地下埋設物管理のような図面管理に用いられるほか,分析機能を用いて都市計画や経営などに利用されている.軍事にも利用され,最近ではボスニアの休戦協定を結ぶ際に,休戦ラインを決めるためにGISが用いられたそうだ(テレビで休戦ラインに沿って空中から偵察するようなCGアニメーションが放映されたのを覚えておいでだろうか).

 GlSを使いこなすにはある程度の知識とトレーニングが必要とされ,GlS自体はプロフェッショナル用のソフトウエアという性格が強い.一方で,プレゼンテーション・グラフィックス作成のために,塗り分け地図などの主題図作成に特化した製品がパーソナルコンピュータ上で生まれている.このような機能をデスクトップ・マッピングという.最近の表計算ソフトはデスクトップ・マッピング用ソフトウエアの開発元と提携して,そのサブセットを製品に組み込む例が増えている.またUS Census BureauではWWW上で対話的にセンサスの主題図を作成することのできるTIGER Map Serviceというシステムを公開している.地理的な属性を持つデータを地図を用いて視覚化するという程度であれば,本格的なGISを使うまでもなく比較的簡単におこなえるようになってきた.

 もっとも,GISにしろデスクトップ・マッピングにしろ,地理情報の全てを自分で入力していたのでは生産性はあがらない.日本では国土地理院が「数値地図」という名称で1万分の1地形図と2万5千分の1地形図の行政界や海岸線,道路などの形状を線としてデータ化したもの(Digital Line Graph,DLGという)をそれぞれフロッピーディスクで発売している.ただし,1万分の1地形図は都市部しか作成されていないし,2万5千分の1でデータ化されているのは海岸・湖沼線と行政界だけである.また250m間隔(250mメッシュという)で格子状に標高をデ一タ化したものと,50mメッシュでデータ化したもの(Digital Elevation Model,DEMという)がそれぞれ発行されている.アメリカでは先のTIGER Map Serviceに用いられている10万分の1の精度のアメリカ全土のデータがTIGER/Lineという名称で5枚組のCD-ROMで販売($1500)されている.一方日本では全国の2万5千分の1のDLGデータを購入するだけで80万円以上(フロッピー86枚!)かかってしまう.公的に提供されるデータの乏しさや価格が日本におけるGISやデスクトップ・マッピング普及の障害になっている.

[GISに関するURL]
http://www.census.gov/ftp/pub/geo/www/faq-index.html(usenetのcomp.infosystems.gisでのFAQリスト)
http://tiger.census.gov(TIGER Map Serviceのホームページ)
http://www.gsi-mc.go.jp(国土地理院のホームページ)


本学助手
Geographic Information System,by Atsushi TOSHIMORl