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資料紹介46

解釈学とは何か

遠藤龍二

 解釈学という言葉は,日常ではあまり耳にしないと思いますが,実はきわめて重要な事柄を含んでいます.なぜなら解釈とは,一般に物事の意味を理解することだからです.私たちはほとんど自覚せずに「解釈」しつつ暮らしているわけですが,時に行き違いが起こり,その時はじめて「誤解」していたことを意識します.解釈学とは,そうした解釈に関する学問なのですが,狭い意味では言語の理解,広い意味では現象一般の意味づけを理論的に考える学問で,ヨーロッパではギリシャから現代まで人文科学や社会科学の領域で中心的な位置を占めてきました.

 例えば,数学の問題の解き方を理解するのと,思想に関する本を読んでその内容を理解するのとでは,一体何が違うのでしょう.解釈学の答えはほぽ一致しています.自然科学と異なり,ある思想の理解は,その人の体験まで食いこむことを意味し,人格をかけた受け答えが求められる,という事です.これは何も学問に限られません.「あなたが好きなのです」という言葉に対して,「お聞きしておきます」という答えの持つ救いがたいズレは,上に述べた解釈学の見解が正しい事を証明しています.(日本でも聖徳太子から本居宣長までは同じような学問が存在していましたが,明治時代に消えてしまいました.これはこれで重大な事柄を暗示していますが,今はそれには触れません.)さて最近では,ほかの学問と同様,この分野でも欧米の成果が取り入れられ,様々な議論や翻訳が盛んです.ここでは,その解釈学の内容と展開を概観でき,手に入りやすい資料を紹介したいと思います.

[I]解釈学の課題と展開(梅原猛・竹市明弘編,晃洋書房,1981)

 主に哲学や思想を専攻している学者が,様々な領域で解釈学の可能性を探り,議論を戦わせています.

 冒頭には入門を兼ねたシンポジウムもあり,解釈学の枠組みを知ろうとするには最適な資料です.

[II]解釈学の展開(E.フフナーゲル著,竹田・斉藤・日暮訳,以文社,1991)

 これは現在の解釈学の論点を判りやすく解説したもので,ドイツを中心として大体の傾向を知るのに便利です.各章は解釈学的現象学,解釈学的経験,解釈学の普遍性,精神科学の方法論,認識の意味などの観点から,ハイデガー,ガーダマー,ハーバーマス,ベッティ,アルバートを扱っています.

[III]解釈学の根本間題(O ペゲラー編,晃洋書房,1979)[108:G−34:7]

 これはドイツの哲学者オットー・ペゲラーが編纂した「解釈学入門」の翻訳で,同書房の「現代哲学の根本問題」というシリーズの第7巻です.

 ペゲラーは自分で序文に解説を書き,解釈学が現在のヨーロッパでどんな状況にあるのかを論じる一方,ディルタイに始まり,ハイデガーやガーダマーを経て,アーペル,リクールに至る現代解釈学の流れを,抜粋した原著者のテキストに沿いつつ,われわれの前に提示しています.[II]で述べられた理論を原テキストによって確かめるのも一つの読み方だと思います.


本学教授
Some Books on the Hermeneutics,by Ryuji ENDO