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分類と情報化のはざまで  −最終講義発表要旨−

志村尚夫

 今回のタイトルは≪分類と情報化のはざまで≫ですが,私は分類の方でやっておりまして,3年生の分類論の授業では,2学期は私が担当しました.それで,この情報化というのは,どのようにさまざまなデータや資料といった,情報のとらえ方といった意味あいを込めて,ここでお話ししたいと思います.一昨年,3年生の図書館情報学実習で,私はあるシンクタンクの担当になりました.そこで実習の打合せの後,本学の卒業生と会ったんですが,何が一番重要かと言うと,やはり分類を知っているということだそうです.コンピュータなどはどの大学でもよくやることですので,本学の場合はそういった,分類の考え方,あるいは情報のとらえ方がものを言うのだろうということが,大変印象深く感じられました.

 もう一つ,このテーマを話すにあたって,元学長の藤川先生の主題検索の問題点についての論文を私はよく読ませていただきましたが,その中で藤川先生は次のように述べています.「この学校は,あるいは図書館学を目指すものは,あるいは図書館情報学を目指すものは,分類表を『使う』典型ではなく,分類表を『作る』典型でなくてはならない」要するに,分類表を使うのはクラスファイア,分類表を作るのは,クラスフィケーショニストであると,こういうことを言っておりまして,本学もそれを目指すべきであると,私は思います.

 私も,NDCの分類委員会で,昨年の夏に9版が出ましたが,8版の分類を担当しています.NDCは十進分類法ですが,分類表は本当に難しいもので,知識の体系と,個々の項目から成っていて,約2万項目あります.その2万項目を検討する場合に,その4倍くらいの語句の解釈と定義を行います.その場合にものを言うのは,そういう辞典やツールを決めてやらなければいけないということです.国語辞典や広辞苑,あるいは物理学の辞典と,さまざまなものを決めて,その中でぺージをつけていきます.しかし,日本十進分類法というのは階層分類であり,また標準分類なので,限界があります.汎用分類なので,農業の先生が「発酵学が手薄だ」と言ったり,あるいは学芸員の先生が「絵画についてもっとどうにかならないか」と言ったり,全国から色々とお叱りやご意見をいただきますが,やはり限度があります.実は私も,分類委員でありながら,その辺は紐泥たるものがあります.分類というのは内包と外延の定義があるもので,今の2年生にも去年そのような宿題を出しましたが,日本十進分類法は外延の定義をとっています.物理や生物は内包の定義を取っていますが,なかなかそうはいきません.論理立てて哲学的にとはいかず,従って大体が外延の定義によっていて,さらにその外延の定義が浅いのです.上位の概念から次の概念へと行くと,もうその次へ行かないのです.後は,世俗的な慣習であてはめていくというのが,現状なのです.これはこれから,一般の図書館あるいは図書館情報学の資料の,特に図書分類の場合にそういう問題が出てくるだろうと思います.

 今,本学ではコンピュータやインタフェース,データベースをやっている先生など,さまざまな人がいますが,やはり分類というのは基本的に,例えばデータベースを作る時のコード化(一種の分類定義)など,共通するものがあります.ただ,致命的なのは,利用マニュアルが非常に不親切だということで,これは私どもの責任もあります.それから,これからのシステム化にどれだけ対応できるかということが,非常に問題になってきます.そのようなことを含めて,分類というのは,上位の網にかけて下位,さらにその次の下位と区分分けしていって,最後に一つ一つのキーワードや場所が分類記号の中であてはめられるというわけです.

 しかし,図書館あるいは図書分類は,内容が多岐にわたって難しいものです.私は昭和60年から61年に,熊本県庁の委託研究を受けましたが,大変な数の文書がありまして,1年間に9万件の文書が作成されていました.図書分類と違って,この文書というのが厄介なことに実に多種多様であり,学校の建築や地域振興など雑多で,写真のものもあれば文章のものもあります.図書分類の場合は大体が出版形態で,完成したものが殆どですが,文書はそうはいかないので,大抵は保存のために簡単な分類表が作られています.しかし,何を基準として分類表を作るかというのが問題で,例えば組織別だと,組織というのはしばしば変化するので役に立たないし,図書分類のような主題別では,定義が浅くなります.そこで,行政は事務・事業が中心ですから,事務・事業別の分類を試みました.この分類のメリットは,組織に頼らないこと,ある程度外延的定義でも鮮明に定義できること,キーワードを与えられること,などです.これを非十進法を使って,分類表を作成しました.

 もう一つ,文書分類をつくる時に大事なのは,どこにどの資料があるかということです.例えば建築課などでは,写真や文書が雑多にまとめてあるだけで,こういったものは分類表を作るのと同時に,文書を定形化しなければいけません.図書であれば,新書版であろうと文庫版であろうと,始めからこれは問題ありませんが,文書はそうは行きません.かつ,文書の場合は永久保存なのか否か,また,冊子態であれば図書館ヘ,文書でも大事なものはアーカイブや公文書館へ送られるという問題もあります.

 ともあれ,分類表を作るというのは大変なことで,頭で考えるのと実際とは全然違います.分類表を何か一つ使ったことがあるかどうかというのも大事で,情報をどのようにとらえるかというのは重要なことです.そして,これは何らかの法則性を持っていなければいけません.勿論,組合せ分類もありますが,これでは普遍的で客観的な分類作業はできません.

 次に,事物の分類についてですが,これも非常に難しいものがいくつかあります.例えば,ある大学での書名の分類演習で,有田焼の柿右衛門の赤絵の研究を事例に出した時,学生がNDC8版の721(絵画)に分類してしまったのですが,これは焼き物ですから,例えば751(陶磁・工芸)に入るわけで,単なる分類を知っているだけでは駄目なのです.

 現在,博物館の分類・目録検索システムが作られていますが,これは普通の分類表では役に立ちません.材質は何か,大きさはどのくらいか,作者は誰かなどといった,そのような分類表では駄目なのです.かと言って,それならパソコンのイメージスキャナで出せばいいかと言うと,そういう問題でもありません.例えば,古い日本画などは余白が多いですから,データ自体が出てこないのです.ではどうするかというと,中国の「武陵桃源」という画題などのように,季節感で表すのだそうですが,これも難しいものです.また,小倉色紙の「伝来」などの分類も,事実がはっきりしないので非常に困ります.これらを分類するのに大事なのは,文化や知識です.

 また,生涯学習情報についてですが,文化行政などのデータベースでどのような要求が多いかと言うと,圧倒的なのが緊急災害情報です.次いで緊急医療の情報,三番目が文化情報です.生涯学習情報というのは教育委員会や図書館だけにとどまらない文化行政としてのもので,大体は知事部局あるいは市長部局で扱っています.さらに,その中でタウン情報なども大変要求が多く,これをどのように情報化するかも重要な問題です.例えば,大阪府立情報センターでは企業や団体などの文化活動についてのパンフレットを展示するコーナーがありまして,利用者がこれを持ち帰る率が大変高いわけです.ここではデータベースも作成していて,施設のテーブル,講座案内のテーブルなどを作り,さらにシステムで使えるようにして稼働しています.専門員は,府立高校の先生が5年ほどの周期で相談に乗っています.このように,生涯学習情報の活動は非常に活発で,ネットワークも電話やファックス,最近ではインターネットや携帯電話なども利用されています.一方,大分県ではパソコンネットワークの『COARA』が稼働していますが,アンケート調査によるとこれは若い人しか使えず,お年寄りなどは困るということも判っています.また,主婦や小学生などからは,もっと教育情報を教えてほしいという声が多いです.

 このように,タウン誌やミニコミ誌,公民館便りなどの生活情報や地域情報をどうするかというのは難しい問題で,色々試みているところもありますが,なかなかうまく行っていません.そんな中で,栃木県と群馬県の県境の地域で,図書館だけではなく公民館情報や生活情報も合わせた両毛情報ネットワークを作ろうという活動が起きています.行政の問題上難しいこともありますが,私はこの動きに注目しています.

 ただ,例えば買い物情報や催し物情報などの場合,タイムラグの問題があります.富山市の生活情報データベースは非常によくできていまして,タウン誌も公の出版物も発行前に情報を入手して,データベースに載せています.つまり,データベースヘの入力と同時に出版が行われるという,スピーディな情報処理が可能になるわけです.

 ともあれ,システムも重要ですが,一番大事なのは表面的な分類ではなく,どのように情報を取り入れるか,そしてどのように生かすかという,情報のとらえ方です.私は,本学は常に新しいことにチャレンジするべきであり,しかしまたそれをじりじりと続けてほしいと思っています.そして,文化を大事にしてほしいと思っています.


本学教授
A problem of classification and information system. by Hisao SHIMURA