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ターミノロジー

ATM

阪口哲男

 最近ATMという言葉をしばしば目にする.新聞記事などに載っているATMは自動預払機(Auto Teller Machine)を指していることが多いが,本稿ではそれとは異なる,コンピュータネットワークにおけるATMについて触れる.
 ATMはAsynchronous Transfer Mode,非同期転送モードのことである.しかしながら,これだけではATMの基本的な原理を意味しているのみであり,よほど詳しい人でなければ何もわからないだろう.ATMとは,コンピュータネットワークの一方式である.ATMの基本的な枠組みは電話網に似ている.例えば本学の構内電話では,中央に1台の交換機があり,すべての電話機がその交換機と線で繋がれている.そして,ダイアルを回すとその交換機が信号を受け取って番号で示された別の電話機と接続してくれる.ATMでもやはり交換機が存在し,電話機の代わりに計算機やテレビ会議装置などの端末機が繋がれている.そして電話と違うのは,その「線」を流れる信号が音声に限られず様々なデータであるということである.今のところATMでは最高156Mbpsの速度でデータを転送することができる.これは,これまでの構内ネットワーク(LAN)でよく用いられているEthernetの約15倍,FDDIの約1.5倍である.将来はもっと高速なものも実用化の見込みである.
 ATMはよくマルチメディアに適していると言われる.これは,EthernetやFDDIにはない特徴を備えているからである.EthernetやFDDIは一般的な道路に例えることができる.そこでは車(データ)が混むと渋滞が起きて目的地に到着するのが非常に遅れることがある.一方,ATMではバス専用のレーンを設けた道路に相当する.バス以外の車は渋滞で遅れても,バスについては渋滞にほとんど影響されずに遅れず着くことができる.音声や動画などのマルチメディアデータは転送に遅れが生じると,音が途中で途切れたりコマ落としのような映像になったりする.これを防ぐために,ATMではマルチメディアデータ専用のレーンを設けることができるわけである.このように必要に応じて品質を保つこと(Quality of Service:QoS)は,ビデオ・オン・デマンドのようなマルチメディア分野では必須とされている.
 ATMではネットワークの規模が大きくなると複数の交換機を相互に接続して対応する.このような構成はやはり電話の市内,市外回線によく似ている.そのため,端末機それぞれに付けるアドレスは電話番号のように階層的なものとなる(電話番号では,国別番号,市外局番,市内局番という階層になっている).これは,EthernetやFDDIで使われている48ビットの一様なアドレスとは異なる.また,必ず相手の端末と接続してから使用する点も異なるので,そのままではEthernetやFDDIの代わりにならない.そのため,最近ではEthernetやFDDIと同様な機能を真似るLANエミュレーション機能も準備され,ATM向けに特別なソフトウエアを使う必要もなくなって来ている.しかしながら,その場合はATMの特徴であるQoSが十分に活かせなくなる欠点がある.
 ATMによるLANは本学にも導入される.そこで,ATMについてより詳細に知りたい場合は,市販の解説書などを参照して欲しい.以下は,その例である.
・横河ディジタルコンピュータ株式会社SI事業本部著,
 ATM入門:マルチメディア時代へのパスポート,トッパン,89p. 1994.
・Anthony Alles著,設楽常巳監訳,
 ATMインターネットワーキング,日経BP出版センター,190p. 1995.


本学・助手
Asynchronous Transfer Mode, by Tetsuo Sakaguchi