教員著作紹介コメント(礒田 正美先生)

礒田 正美先生(教育開発国際協力研究センター)よりご著書の紹介コメントをいただきました。(2010/06/10)

【本の情報】
『曲線の事典 : 性質・歴史・作図法』  礒田正美, Maria G. Bartolini Bussi編 ; 田端毅, 讃岐勝, 礒田正美著.共立出版 , 2009.12【分類414.12-I85】

【コメント】
■日本書籍出版協会理事長賞(自然科学書部門:注1)
を受賞した本書は、
◆グルノーブル大学、モデナ大学等との国際共同研究の成果
◆科研費・連携融合事業による研究成果
◆筑波大学数学教育研究室の院生・研究生等の研究成果
であり、
●数学の面白さがわかる本
●本学中央図書館にある数学貴重書を紹介する本
です。

筑波大学数学教育研究室は、1980年代よりフランス・グルノーブル大学と作図ツール(注2)についての共同研究を進めています。編者礒田は、作図ツールの教育利用を検討するために「作図法の歴史」について研究してきました。その一環として、大学院生等とwebサイト「数学の歴史博物館」を開発しています(注3)。「数学の歴史博物館」は、教育情報ナショナルセンター(NICER)の中学校・高等学校の数学教育コンテンツの中で、筆頭と言える分量の教材情報を提供しています。そして編者礒田は、その研究のために筑波大学に科研費・連携融合事業経費などの諸経費で貴重書を購入し、中央図書館に寄贈してきました。

本書は、直接的には共編者のマリア先生(イタリア・モデナ大学)と1996年より進めてきた共同研究、院生・研究生らと蓄えてきた研究成果の蓄積を前提に、同じ関心でともに研究をしてきた田端氏、気鋭の数学者讃岐氏ととももに共同執筆し出版したものです。修了した院生・研究生の皆さんとの研究成果が本書の基盤にあります。

本書に先立つ筑波大学数学教育研究室の我々の研究の前後において日本の中学校・高等学校の図版がいかに変わったかを比べてみていただければわかるように、1990年代に始まる我々の研究は、学校で使われる教科書上の数学史図版の変更に明らかに影響しています。昨今、インターネット上で歴史原典が容易に手に入るようになりました。皆さんがその原典や図版に注目できるのも、そこにそのソースがあることを調べた方がいて、どこかで紹介した結果です。本書収められた美しい図版は、それら源発信者との共同研究から得たものです。

大学数学の難しさに閉口する皆さん、是非、その数学が成立した背景を本書をきっかけに探ってみて下さい。「数学の面白さ」はもちろんですが、「数学教育で何を教えるべきかを考えることがいかに大切か」がわかると思います。

注1:http://www.tsukuba.ac.jp/update/awards/20100607175943.html

注2:作図ツールは、定木とコンパスによる基本作図に加えて、すでに基本作図によって作図した図形を前提に作図する機械作図をコンピュータ上で実現するソフトウエアです。

注3:http://math-info.criced.tsukuba.ac.jp/museum/