筑波大学附属図書館報「つくばね」
私の一冊  森 俊男
弓道上達BOOK : 正しい射術を身につける
(成美堂出版) 〔体芸 789.5-Ky8〕
 わが国での弓矢の使用は,いつ頃から始まったのかは不明である。しかし,約10万年以前の遺跡から石鏃(せきぞく)が発見されていることから,その歴史は相当古いものと考えられる。弓矢で獲物を捕らえ食料とし,危険な動物から身を守るというこの武器の発明は,当時の人々の生活に一大変革を起こしたと想像できる。
 日本の弓には,他の民族の弓矢にはない特徴が幾つかある。第一に,弓が長いということである。現在の標準的な弓の長さは,約2m21cmである。近年,弓道を学ぶ諸外国の人が増えつつあり,身長の高い人の場合には,約2m40cm近くの弓も使用されている。引く矢の長さは射手の身長の半分が基準である。竹と木を張り合わせて作られている弓であるため,引いた時の曲げによる破壊の限界ぎりぎりの長さが2m数十cmとなるからである。
 第2の特徴は,世界中の弓がほぼ中央を握るのに対して,日本弓は上から三分の二の所を握ることである。これは,縄文中期の尖石(とがりいし)遺跡の線刻画や弥生時代の銅鐸に描かれた弓を見ても現在と同様,弓の中央ではなく上から三分の二の辺りを握っている。どうしてこのような位置を握るようになったのかは不明である。この説明として,同じ長さの矢を引いた際,中央よりも下を握った方が弓力(きゅうりょく)が増大し,矢が仰角をもって発射されるからとか。また,握り位置が弓の振動の一番少ない部位で,同時に弓の下方を握ることにより弓幹は垂直ではなく,10数度(まと)方向に前傾し,手首関節が上下に偏らずに中立の位置となり,日本弓独特の手の内の働きを行いやすいから,戦場での膝をつけた低い姿勢や騎乗での弓矢の操作を行いやすくするため,などといった説明はあるが,我々の祖先は様々な経験からこのような握りの位置としたのであろう。
 このような弓を使用し,的中精度を上げ,貫徹力を増すために戦国の世を経て弓具の進歩と同様,精妙な射術が作り上げられた。16世紀に日置流(へきりゅう)各派によって実戦的射術が考案され,筑波大学にもその当時の射術が伝わっている。
 従来,スポーツに関する本は,写真と技術解説で構成されているが,本書はそれとは異なり,全頁カラー写真と射術のポイントだけを付け加えた,非常に目で見て判りやすい構成となっている。ぜひ,日本人の弓術の知恵を見ていただきたい。
(もり・としお  人間総合科学研究科教授)
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