図書館情報大学開学20周年創基80周年記念

特別展示会

(概要)


 図書館情報大学は、昭和54年に図書館情報学に関する高度の理論と技術について教育研究を 行う国内唯一の専門的な大学として設置され、本年10月1日に開学20周年を迎えるが、その 前身の文部省図書館員教習所から起算すると創基80周年にあたる。
 これを記念し、図書館情報大学開学20周年創基80周年記念特別展示会「メディア それぞ れの時代 −粘土板から電子書物まで−」及び特別講演会「読書・図書館・小説 −朗読を交え て−(講師 阿刀田高氏)」を、丸善(株)の協力を得て下記により開催する。メディアの変遷 をたどる本展示会では、粘土板や羊皮紙など紙以前の媒体から電子図書館まで、本学が所蔵して いる貴重な資料や本学の最新の研究成果を広く一般の人々に公開し、知識や情報を記録する様々 なメディア及びその流通拠点としての図書館が歴史とともにどのように発展してきたのかを振り 返るとともに、21世紀のメディア社会への展望を探る。

特別展示会

 1 展示会名 「メディア それぞれの時代 −粘土板から電子書物まで−」
 2 会期   平成11年9月28日(火)〜11月5日(金)
 3 開催時間 9:00〜20:00(土曜・日曜・祝祭日は10:00〜16:30まで)
 4 会場   図書館情報大学附属図書館
 5 内容   1)紙以前の書物
        2)紙の誕生と様々な装訂本 −中国を舞台に−
        3)近代のメディアの幕開けと近代知の集成 −西洋を舞台に−
        4)日本近世の写本と版本と高札
        5)近代・現代・未来の図書館とメディアの拡がり
 6 出展件数   合計 約85点
 7 入場   無料(自由観覧)


展示内容

             *主要な展示品は、ゴチック体で示した

1) 紙以前の書物

 紙のまだなかった時代、諸民族はさまざまの媒体に文字を書写または鋳刻した。石や粘 土板、貝多羅葉、パピルス、羊皮紙などの使用はインドからヨーロッパまで広く分布して いる。中国では亀甲、獣骨、青銅、石、竹、木、帛などが用いられた。
 甲骨文は、亀甲や獣骨などにナイフで刻んだ亀甲獣骨文字で、殷代(BC.1300〜1028)に 使用された。中国では現存最古の文字である。殷の滅亡と共に長らく忘れさられていたが、 19世紀末に、殷の都跡から偶然発見された。20世紀に入って50年の間に甲骨文字の 収集と研究が進んだが、収集された4,500文字の中で現在解読できたものは、1,000文字 しかない。展示品の「殷墟甲骨文」は、河南省博物館の複製品である。
 短文は版牘に、図書は簡(竹片)を連ねて冊に編むという形式・形態は、戦国時代にほ ぼ定まったようである。本展示会では、東漢時代の木簡「儀禮簡冊」と西漢時代の「孫ピン [月賓]兵法竹簡」2つの簡冊を展示する。
 紙がいつ生まれたかは不祥である。だが、前漢の時代(BC.206〜AD.8)にはすでに存 在した。ただ、糸へんの文字にしめされるように、帛と同種のものだったようで、一般に は、2世紀に後漢の蔡倫が植物性繊維を用いて改良した蔡侯紙に始まるとされる。三国時 代(3世紀)以降、紙に書写した図書は中国に流行した。紙は、4世紀から7世紀にかけ て、東は朝鮮や日本に、西はシルクロードを経てサラセンに伝播し、やがて12世紀には ヨーロッパで製紙が開始された。
 本コーナーでは、紙が発明されるまでに人間が記録に用いてきた様々な文字・媒体に情 報の原点を探り、楔形文字が刻まれたメソポタミアの粘土板、亀甲文、簡冊、貝多羅葉、パピル ス等紙以前の書物8点を展示する。

2)紙の誕生とさまざまな装訂本 −中国を舞台に−

 現在最古の刻本(刊本)は1966年に韓国の慶州仏国寺で発見された「無垢浄光大陀 羅尼経」で、8世紀初頭の印刷と言われる。大英博物館に所蔵する敦煌出土の「金剛経」 より150年早く、日本の「百万塔陀羅尼」より10年早い。
 展示品の「毛詩」は、唐の大和7年(833)から開成2年(837)にかけて、儒家の経典12 種が石に刻まれたが、これはそのうちの「毛詩」の原拓。石刻図書は木版印刷の源である。 後漢の石経、魏の石経は現在、残石を留めるだけであるが、唐の開成石経は健在で、現在 も西安の碑林に保存されている。石経原拓線装「春秋穀梁傳」は、同じく開成石経の原拓 をもとに冊子体の図書に仕立て上げたものである。
 木活字による印刷術が実用化されたのは元代であるが、活字印刷術は11世紀にすでに 考案されていた。近時、敦煌の莫高窟内で連続活字が発見され、図書と活字印刷術が敦煌 を経てヨーロッパに伝えられたことを裏付けた。やがて15世紀にグーテンベルクによっ て鉛活字印刷術が考案され、輪転機で刷られた鉛印本が洋装に仕立てられて、アジアに渡 る。洋装は多帖式綴葉装とでも言うべく、中国では唐代に行われ、遣唐使として訪中した 弘法大師の招来した「三十帖冊子」が京都仁和寺に現存する他、宋代の綴葉「金剛経」が 敦煌研究院に存在する。この装訂法はヨーロッパにおいては、2〜3世紀頃の羊皮紙に用 いられたと言われており、シルクロードを経て中国に伝えられた可能性が強い。そうであ るとすればアジアには再度の渡来ということになろう。
 本コーナーでは、様々な装訂や印刷法による書籍16点、また本学所蔵の百万塔陀羅尼 を展示し、書籍の発展過程を探るとともに、「紙と印刷術の伝播」を大型パネルで解説する。

3)近代のメディアの幕開けと近代知の集成 −西洋を舞台に−

 中世末期のグーテンベルクによる活版印刷術の発明は、浮遊する写本テキストに替わっ て、同一テキストの大量生産を可能にし、書物の世界に一大革命をもたらしただけでなく、 近代社会の到来を告げることになった。印刷術は瞬く間にヨーロッパ各地に普及し、人文 主義と結びつき、ルネサンス以降近代知の地平を拡げることになった。
本コーナーでは、「グーテンベルクの42行聖書」べラム3葉のレプリカ、印刷美術の粋ウィ リアム・モーリスがケルムスコット・プレスで擬古的に製作した”The Well at the World's End”を展示する。 活版印刷術による図書生産の増大にともない、書誌コントロールの必要性が生じ、16世 紀以降「書誌」は活発に作られ、発達した。歴史的に重要な書誌、ゲスナーの『世界文庫』や 『フィルマン・ディドロ文庫目録』の珍しい挿絵入り書誌など、書誌4点を展示する。
 また、本コーナーでは17世紀以降の近代知の集約である近代国語辞典・百科事典の世界 を取り上げる。分裂症的宇宙ともいうべき無秩序な情報の集積に対して、時代精神に基づ き、辞典はメタ言語学的に自然語を集約し、百科事典は知識の体系化を企てる。
辞典では、近代辞典の代表である『アカデミー・フランセーズの辞典』(2版)とジョンソンの 『英語辞典』の2点を展示している。
 近代百科事典では、P.ベールの『歴史・批判辞典』、チエンバーズの『サイクロペディア』、 ディドロ・ダランベールの『百科全書』、『ブリタニカ百科事典』初版本など、本学の誇る貴重 書5点を展示している。啓蒙を謳った『百科全書』の「知識の系統樹」のパネル展示も行っ ている。『ラルース19世紀辞典』の「日本」の項目とA.アンベール『挿絵入り日本』は、百科 事典の記述とその情報源を雄弁に語っている例である。

4)日本近世の写本と版本と高札

 江戸時代は、封建体制のもと、身分制度が確立し、そうした中で、実用的な文書形態、 すなわち今日でいうところのビジネス文書の定型がなされていった。村方文書などの一枚 物には当時のそうした文書の書式を見ることができ、通信メディアとして重要な役割を果 たした高札にもそうした書式をうかがうことができる。
 また城下町や交通の発達、商工業の発展などによって人々の経済力が充実し、さらに木 版印刷が進歩したため、これまで写本で伝えられたものを含め、用途によってさまざまな 内容・形態の板本が刊行され、例えば道中案内や名所記なども出版されるようになる。し かし、多くの部数を必要としない場合や保存を主目的とする場合などは、当然のことなが ら、木版印刷が進歩しても写本の形態がとられ、木版印刷と写本の形態が共存していたの である。
 このコーナーでは、一枚物の例として、半紙・折紙・続紙(継紙)・巻子本・折本を、冊 子本の例として色々なサイズの和綴本を展示し、更に、鎖国制下における海外関係の内容 を持つ書物として「天保九戊戌 阿蘭陀船入津風説書略」等、そして名所案内や百人一首など 庶民に親しまれた和綴本を展示している。巻子本の例として展示している「切支丹絵踏一条」 という標題を持つ一巻には、複数の文書が張り込まれているが、その中に天明7年(1787)、豊後臼杵藩(稲葉能登守)で踏絵の必要が生じ、長崎奉行所から「かね(青銅製)の踏絵 二枚」 を拝借することになるが、その時の借用証文ならびに臼杵藩までの踏絵の輸送に関わる文書 が張り込まれている。また、海外情報の内容を持つ書物として展示している1本に「鎖国論」 を出している。これは、ケンプェルの著書『日本誌』の一部分を長崎の阿蘭蛇通詞志筑忠雄 が、享和元年(1801)に翻訳して公にしようとした書物の転写本の一つである。この翻訳にお いて「鎖国」という言葉が始めて使用されたとされている。

5)近代・現代・未来の図書館とメディアの拡がり

 近代、現代の歴史の中で図書館は発展してきた。また、現代、特にこの20年間の情報 技術の発展はインターネットに代表される新しいグローバルなメディアを生み出した。こ のメディアの拓がりに呼応して、未来の図書館ともいうべき電子図書館、あるいはディジ タル図書館が生まれつつある。この流れの中で、図書館情報大学は先駆的システムを研究 開発し、人材を養成し、社会に貢献している。
 近代の市民社会成立とともに近代図書館が誕生した。それは、以前の王侯貴族のための 図書館ではなく、市民のための図書館、すなわち公共図書館である。その理念を引き継い だ現代図書館は、利用者サービスを拡充し、単なる建物建築ではなく、図書館機能充実の ための図書館建築を進め、地域の図書館として発展してきた。
 そして今、インターネット上に様々な国から発信された情報が氾濫する中で、必要な情 報を的確に探し出せる未来型図書館として、電子図書館への期待が高まっている。
 本コーナーでは、近代図書館の例として帝国図書館アメリカ議会図書館の模型を、現代 図書館として日本図書館協会建築賞受賞館の写真を展示し、公共図書館の発展の解説パネ ル、図書館サービスの例として図書館船「ひまわり号」の模型などを展示する。さらに本学 の研究成果である電子図書館システムを、多言語を同時に表示できる「多言語ブラウザ」、 WWWページの効率的な検索のための「メタデータ」ほかによりシステム展示し、メディア社 会と未来の図書館像を探る。


本件についての問い合わせ先
 図書館情報大学 企画広報係 橋野正美 (電話 0298-59-1070)
         情報奉仕係 石村恵子 (電話 0298-59-1230)