5.2 学内LANを利用した情報提供サービス

− 東京工業大学電子図書館(TDL:Titech Digital Library)の概要 −

 

                     東京工業大学附属図書館情報管理課長

                                塚 田 吉 彦      

 

0.はじめに

 

東京工業大学附属図書館では、平成10年度より、文部省から電子図書館化推進経費の配当を受け、TDL(Titech Digital Library:東京工業大学電子図書館)の構築を進めている。TDLは、理工学分野の多様な情報資源とユーザを透過的に結びつけるゲートウェイ機能の実現を目指した電子図書館システムである。

 

1.背景

 

1.1.ハイブリッド・ライブラリ

 

大学図書館の現状を分析してみると、現在の図書館はハイブリッド・ライブラリと呼ぶことができる。ハイブリッド・ライブラリとは、紙ベースの伝統的な図書館からデジタル図書館への移行形態の図書館である。

 

ハイブリッド・ライブラリを特徴づけるのは、「不均質な情報資源の混在」である。ハイブリッド・ライブラリでは、均質でない多様な情報資源、リソースが入りまじって存在している。まず情報伝達のメディアが混在している。紙ベースの情報資源とデジタル形態の情報資源が混在している。また、情報資源の所在場所(ロケーション)もハイブリッド化している。ローカルに存在する情報資源とリモートサイト、他の図書館などに存在する情報資源が入りまじって存在する。さらに、物理的な図書館の建物のなかに存在する情報と、ネットワーク上に存在する情報資源が混在している。

 

1.2.東京工業大学附属図書館の現状

 

こうしたハイブリッド化した大学図書館の具体例として、東京工業大学附属図書館を取り上げてみる。東京工業大学附属図書館では、自館で所蔵する蔵書、あるいは他館が所蔵する蔵書、電子ジャーナル、ネットワーク上に存在する様々な電子的情報資源等の多様な情報資源の提供を行っている。

 

こうした多様な情報資源にアクセスするためには、いわゆるメタデータが必要とされるが、そのメタデータもまた多様化している。まず図書や雑誌にアクセスするために、カード目録とOPACが存在する。東京工業大学の所蔵を調べるには、自館のOPACを利用する。他の大学図書館の所蔵状況を調べるには、NACSIS-Webcat等を利用する。雑誌や図書に含まれる論文情報を見つけ出すためには、Ovidのデータベース、OCLCのFirstSearch、科学技術文献速報のCD-ROM版、外国雑誌目次情報データベースといったメタデータが存在している。勿論冊子体の索引・抄録誌も数多く残っている。また、電子ジャーナルへのアクセスには、各社各様のインターフェイスが用意されている。さらにネットワーク上に存在する情報資源を発見するために、サーチエンジン等の各種ツールが存在する。

 

1.3.問題の所在

 

このようなハイブリッド化した図書館を利用するユーザにとって、何が障害となるか。

 

まず、自分が必要としている情報資源に到達するには、どのメタデータを使えばよいのかがわからない。次に、それぞれのメタデータがそれぞれ異なった固有のインターフェイスを備えているがために、その使い方がわからない。それぞれのインターフェイスに習熟するには膨大な時間を要する。さらに複数のメタデータを一度に利用できない。メタデータを順次検索していかないと、必要な情報資源を網羅的に収集することができない。

 

一方図書館員にとっても、こうした状況はあまり好ましい状況でない。それぞれのメタデータのインターフェイスに習熟し、マニュアルを整備し、講習会を頻繁に開催しなければならない。サービスを充実させるためには、絶えず新たな情報資源を導入する必要があるが、その結果、新規のメタデータ、インターフェイスが追加され、ユーザ及び図書館員にとって混沌とした状況が一層進行することになる。

 

こうしたハイブリッド化した現在の図書館を利用するユーザあるいは図書館員の悩みを解消することが、現在の大学図書館にとっての急務のひとつとなっている。

 

2.コンセプト

 

以上のような背景の下で、東京工業大学附属図書館では、多様で不均質な情報資源とユーザを直結するためのゲートウェイ機能を電子図書館の基本コンセプトとして設定し、その開発を進めているところである。

 

自分の図書館で所蔵する各種のリソース、図書、雑誌、CD-ROM、サーバ上のデジタル情報、あるいは他の図書館に存在する情報資源、またインターネット上に存在する数多くの学術リソース、こうした情報資源とユーザを透過的に結び付けるゲートウェイを実現するための電子図書館システムを構築しようとしている。

 

 

 

3.ゲートウェイの仕組み

 

3.1.水平方向の統合化

 

まず水平方向の統合化であるが、これはZ39.50によるデータベースの横断検索機能を利用することにより、水平方向の統合化を実現するためのシステムである。

 

現在、ローカルあるいはネットワーク上のリモート・サイトには、Z39.50に対応するデータベースが数多く存在している。こうしたデータベースにWebのブラウザを使ってアクセスする仕組みを構築した。ブラウザからユーザが入力した検索式は、Webサーバが受け、Web-Z39.50ゲートウェイを経てZ39.50クライアントに渡される。Zクライアントは検索式を選択されたデータベースに投入する。各サーバから返された検索結果は、逆のルートを通ってブラウザ上に表示される。このようなWWW-Z39.50ゲートウェイ機能を開発し、単一のインターフェイスから、複数データベースを横断的に同時に検索できる仕組みを実現している。

 

現在、横断検索の対象としているデータベースは以下のとおりである。

 

(1)OPAC

OPACについては、東京工業大学のOPACの他に幾つかの機関のOPACが検索できる。

 

(2)文献データベース

次に文献データベースであるが、既に東京工業大学で導入しているOvidとFirstSearchのデータベースを提供している。いずれもZ39.50対応のデータベースであり、問題なく取り込むことができた。その他、オランダのスエッツ社が提供する外国雑誌目次情報データベース、東京工業大学附属図書館が外国雑誌センター館として収集してきた、国際会議録、テクニカルペーパの論文、ペーパ単位のデータベース等が利用できる。

 

(3)電子ジャーナル

電子ジャーナルとしては、エルゼビア社のSDOS約60タイトルを提供している。

 

(4)ネットワーク情報資源メタデータ

これについては後述する。

 

(5)東京工業大学インテリジェントアーカイブ

これは学内で生産された学術情報をアーカイブして、情報発信するためのデータベースである。具体的には、学位論文、紀要、研究業績、ソフトウェア集、図面、映像集、教材集、といった情報資源が対象になってくると思われる。このことを踏まえアーカイブに関しては、現在検討を続けている。

 

以上のような、電子図書館サーバに格納されたデータベース、図書館内の別のサーバ上に置かれたデータベース、リモート・サーバ上に存在するデータベース、といった各所に分散したデータベースをZ39.50のプロトコルを利用して統合的に検索できるインターフェイスを提供している。

 

 

3.2.垂直方向の統合化

 

これは情報の検索から入手に至るまでの一連のプロセスを切れ目のないかたちで実現するためのシステムである。

 

情報資源が電子的な形態で存在する場合には、検索から直ちに情報資源にアクセスできるが、紙媒体の場合は、情報資源そのものにたどり着くまでに、「検索」、「所在の確認」、「リクエスト」、「入手」といったプロセスが必要となってくる。まず検索を行い、必要な論文を探し出す。次にその論文の収録雑誌(図書)の所在場所を特定する。図書館にあればそれを利用する。ない場合には、その場で文献複写のリクエストを行うことができる。図書館はそのリクエストを受けて、図書館間のILLを通じて文献を入手して、ユーザに手渡す。このように文献の検索から入手までを切れ目のないかたちで実現するインターフェイスを用意している。さらに、ユーザに文献が届くまでの時間を短縮するために電子的なドキュメント・デリバリ・システムも活用したいと考えている。

 

3.3.ネットワーク情報資源へのゲートウェイ

 

インターネット上には学術的価値を有する情報資源が数多く存在する。たとえば、大学や研究機関、学会のホームページ、電子ジャーナル、プレプリント、各種データベース、ディレクトリ、教材、特許情報などのリソースが存在している。こうしたネットワーク情報資源は、今や大学における研究教育、学習にとって不可欠のリソースであると言っても過言ではない。しかしながら、インターネット上に蓄積され、日々急速に増大しつつある情報の堆積のなかから、学術的な価値を持ち、自分の研究に必要なリソースを探し出すのはなかなか容易なことではない。

 

インターネット上の情報探索のツールとしては、既に汎用的な「サーチエンジン」が世の中に数多く存在しており、ネット上の情報収集にはなくてはならない道具となっている。しかしながら、いずれもコマーシャルサイトや非学術的なサイト、あるいは断片的なページ、リンク切れページといったノイズが多すぎるという欠点を持っており、大学における研究教育を目的とした使用には不便を感じることがあるのも事実である。TDLがめざすゲートウェイ機能を高めるためには、どうしてもこうしたネットワークリソースへ効率的にアクセスできる仕組みを構築する必要があった。

 

その仕組みであるが、まず、インターネット上の情報資源の中から、理工学分野の高品質のリソースを選別、収集し、分類し目録を作成する。こうしてネットワークリソースのメタデータデータベースを構築する。次に、出来上がったデータベースからURLリストを出力し、それをWeb巡回ロボットに渡す。ロボットは定期的にインターネットを巡回し、リストに含まれるURLに関連するページ情報を集めてくる。その結果、Webページインデクスというデータベースが構築される。このリソースデータベースとWebページインデクスという二つのデータベースを検索ブラウジングすることによって、ユーザは効率的にネットワーク上の学術リソースを発見し、同時にそれにアクセスすることができる。

 

4.サービス展開

 

以上のような仕組みによって実現されるゲートウェイ図書館によって提供されるサービスをまとめてみると、まず、ユーザは水平的な統合システムによって、文献データベース、電子ジャーナル、ネットワークリソースデータベースといった各種メタデータ・データベースを横断的、一元的に検索することができる。その結果、情報資源が電子的な形態で存在している場合は、その場で情報資源そのものへアクセスすることができる。情報資源が紙媒体で提供されている場合は、その情報資源の所在場所をOPAC検索によって探し出す。次にその情報資源に対するリクエストを行う。リクエストは図書館に引き渡されてILL等を介して、最終的に原文献を入手する。このリクエストから入手までの過程は、先に述べたように電子的なドキュメントデリバリシステムを利用することによって効率化される。著作権の問題を何らかのかたちでクリアしさえすれば、ユーザが研究室に居ながらにして原文献を入手することも可能となる。おおよそこのようなサービスをゲートウェイ図書館によって実現したいと考えている。

 

5.デモンストレーション

 

6.課題と展望

 

6.1.Z39.50の普及促進

 

TDLのゲートウェイ機能が充分に機能するには、Z39.50に準拠したデータベースの普及が前提となる。幸いなことに、海外のOPACやデータベースはかなりZ39.50対応が進んでいる。一方、残念ながら日本にはZ39.50準拠のリソースがほとんど存在していない。Z39.50は、すでにISO及びJISの規格として正式に採用されている。今後日本の図書館システム、あるいはデータベースのベンダーがZ39.50への対応を積極的に推進してくれることを期待したい。また、Z39.50に関しては、相互利用性を高めるために、プロトコルの実装に関するガイドライン、共通プロファイルの整備、といった問題も課題として浮上してくるであろう。

 

6.2.コンソーシアムによるリソースの共有

 

TDLゲートウェイの対象データベースのなかにはかなりの数の商用データベースが含まれている。現状ではこれらのデータベースは学内での利用に限定される。このゲートウェイを東京工業大学だけでなく広く他大学のユーザにも有効に使ってもらうには、ぜひともコンソーシアムによるデータベースの共同利用を推進していく必要がある。

 

6.3.ユーザ・オリエンティッドなサービス

 

TDLにアクセスするユーザに提示される最初のインターフェイスは、データベース選択画面になる。将来的に、Z39.50の普及、あるいはコンソーシアムの拡大などによって、ゲートウェイの対象となるデータベースが大幅に増加する可能性がある。そうなると、ユーザは自分に必要な情報資源を入手するためには、一体どのデータベースを選択していいのかわからなくなる。つまり、折角ゲートウェイ図書館を構築しても、冒頭で取り上げた、ハイブリッド化した図書館の中で路頭に迷うユーザ、という図式に逆戻りしてしまうことになりかねない。

 

その解決策としては、以下のようなシステムが考えられる。まず、ユーザ毎に研究分野、主題、キーワード、アクセス権限等の情報を集めたプロファイルを用意しておく。一方、メタデータ・データベースについても、データベース毎の主題、レベル、収録範囲などなどのデータを記述したプロファイルを作成しておく。そして、ユーザがシステムにログインすると、システムはユーザプロファイルとデータベースプロファイルを突き合わせて、ダイナミックに適切なデータベースを選択し横断検索を実行してくれる。検索語を投入しさえすれば、システムがそのユーザにふさわしいメタデータベースを選択して検索して、リソースに関する情報と、リソースへのアクセス手段、例えばURLとか、所蔵図書館といったアクセスするための手段を教えてくれる。

 

7.おわりに

 

以上の課題を克服することによって、はじめて真の意味でのゲートウェイ図書館が実現できる。現在のTDLは未だその第一フェーズを実現したものに過ぎない。今後、各方面からの意見を参考にしながら、理想のゲートウェイ機能を追求していきたい。