2.3 電子図書館システムの実際

 

                                      筑波大学図書館部情報システム課長

  西   

 

  電子図書館の今

  電子図書館というメニューが大学図書館に登場してから,実際にはまだ数年(筑波大では3年

目)しか経っていないが,いまやその拡がりは止まるところを知らない。国立大学だけで考えて

みても,ほとんど全ての図書館が何らかの電子的な情報(OPACや図書館案内など)をインタ

ーネット上で提供している。

  それらの殆どは電子図書館と銘打ってはいないかもしれないが,広義に解釈すれば立派に電子

図書館と位置づけることができるだろう。

  これほど急速に普及し,むしろ新鮮さが失われかけた感のある電子図書館であるが,いざ中身

となると,あるいは実用性となると途端にきわめて未熟な状態にあると言わざるを得ないのであ

る。

  大学図書館サービスの高度化を目指すわれわれ図書館員は,スタートはしたもののなかなか本

格化しない電子図書館サービスを今後どのように発展・充実させていくか,智恵を出し合ってい

かなければならない。

 

  筑波大学における電子図書館への取り組み

・1978(昭53)  図書目録の電算処理開始

・1991(平3)    評議会の下に「図書館電子化推進専門委員会」,「電子図書館システム

                      研究班の設置

                      第1期電子図書館整備計画(’92〜’94)策定

・1992(平4)    CD−ROMネットワーク提供開始

・1993(平5)    インターネット上で蔵書検索サービス開始

・1994(平6)    第2期電子図書館整備計画(’95〜’97)策定

                      図書館に「電子化推進特別委員会」設置

                      筑波大学附属図書館WWWページ公開

・1995(平7)    「電子展示」提供開始

・1996(平8)    遡及入力(旧東京教育大蔵書)開始

・1997(平9)    「高度発信型電子図書館システムの考え方」公表

                      「筑波大学電子図書館システムにおける著作権処理について」の策定

・1998(平10)  図書館システム稼働

                      「図書館運営委員会」の下に「電子図書館専門委員会」の設置

・1999(平11)  和装古書・漢籍の入力開始

・2000(平12)  画像提供フォーマットの変更

 

  筑波大学電子図書館のコンセプト

(1)研究情報の発信

・学術的価値の他界オリジナル研究成果の原文の電子化と全世界への発信

(2)情報サービスの一元化・統合化

・すべての情報サービスを電子図書館トップページから

・「OPACから全文情報へ」,「論文検索からOPACへ」などの縦横なリンクの形成

(3)著作権処理

・著作権者から電子図書館での「使用許諾」を得る・・・基本方針

・「筑波大学電子図書館システムへの登録に関する実施要項」(学内規程)の制定

・使用許諾の獲得方法・・・著作権者からの「(登録)申請書」の提出

 

  筑波大学電子図書館のコンテンツ

(1)文献情報

・学内蔵書検索(OPAC)・・・約160万件(全蔵書の80%以上データベース化)

・学術論文データベース・・・約70種の各種二次情報データベース(学内向け)

・電子資料リスト,主要文庫・コレクションリスト,予約雑誌リスト,新着図書リスト等

(2)全文情報

・学内生産資料・・・紀要(41種),学位論文(約730件),科研費などの研究成果報告

  (約130件),シラバス(97件)

・学内収集資料・・・貴重図書など(モノクロ/約2000件,高精細画像/39件)

・電子ジャーナル・・・約1,600件(学内向け)

(3)その他の情報

・附属図書館案内(概要,利用案内など)

・電子展示

・研究者総覧

・リンク集・・・世界の図書館(自主作成)など

(4)提供方法

・全文情報は画像で(GIFからPDFへ)

・電子テキストへのシフト(不十分)

・高精細画像の提供

 

 

  電子図書館の運営体制と職員研修

(1)オーソライズのための組織

・「電子図書館専門委員会」と最高意思決定機関「図書館運営委員会」

(2)館内の業務体制と仕事の配分

・全館体制・・・規程類の整備(仕事の分担も規定)

・事務の連絡調整組織・・・電子図書館WG(主査は情報システム課課長補佐)

・主たる担当セクション・・・電子情報係とシステム管理係

・運営方式の特徴・・・ネットニュースの活用

(3)職員研修

・館内研修・・・ホームページ作成研修(3回25名受講/一昨年実績)

・館外研修・・・DB研修,軽井沢セミナー,各種シンポジウム参加,研修出張など

・どんな要員が求められるのか?

 

  電子図書館を構築するために

(1)「電子図書館」をどう位置づけるか

・付加的サービスの一つか,新しいサービスか?

・全学的な取り組み・・・図書館ローカルにしないこと

・要するに「図書館サービスの高度化」を目指す

(2)目標(基本理念)の設定

・分かりやすい目標を作りキヤッチフレーズ化する

    「高度発信型電子図書館システム」(筑波大)

    「理工系学術文献へのゲートウェイ」(東京工業大)     

    「机の上に京都大学を」(京都大)など

(3)何を提供するか

・大学の特色を生かす

・利用者のニーズを反映する(DBサービスか,電子ジャーナルか,情報発信か)

・着手の順番が大事!

(4)ディジタル化技術の問題

・長期にわたって通用する技術はないと割り切るべし

・2〜3年で「乗り換える」ことを前提にする(柔軟性)

(5)先行館に学ぶ

・各館のホームページを謙虚に見てみよう・・・沢山のヒントが得られるはず

・但し,ホームページの背後に隠された「思想」まで見極められるのは難しい

(6)予算の確保

・概算要求・・・政策の「流れ」を読むこと

・学内経費の獲得・・・今こそ大胆な発想が必要

・政策に我々の考えを反映させるには?

 

  電子図書館への期待                                                         

(1)図書館サービスの高度化

・豊富な学術情報の提供

・24時間・年中無休のサービス提供

・非来館型の利用

(2)開かれた図書館(図書館の公開)

(3)保存問題への寄与

・貴重資料の代替物の提供

・省スペース

(4)学術情報の生産現場との連携

・NIIの電子ジャーナル作成システムへの期待

(5)新しい研究素材の提供

・高精細画像などの活用で生まれる新しい研究の可能性

(6)図書館間の連携強化

・図書館の連合体として利用者にサービスできる

(7)業務負荷の軽減への期待

・ILLの軽減(電子ジャーナルの活用など)

・雑誌受入,製本業務の軽減

・レファレンスの効率化