電子図書館について

- アメリカを中心とした電子図書館の動向と現状に関する考察 -

 

杉本重雄

図書館情報大学

 

1. はじめに

 

 電子図書館(ディジタル図書館,Digital Library,DL)の研究開発が現在も盛んに進められている。アメリカではNSF,NASA,DARPAによって1994年から進められたDLの研究助成プログラムDigital Library Initiatives (フェーズ1,DLI1)が1998年夏に終わり,現在助成母体を広げてフェーズ2(DLI2)が開始されようとしている[7]。一方,大学図書館を中心とする多くの図書館においてはディジタル形態の資料の提供,ネットワーク上の情報資源へのアクセス支援環境の提供など,DLの実運用が進められている。

 研究プロジェクトと図書館における実際的なシステム開発ともに活発に進められている。一方,現実的には,両者の間には大きなギャップがあるように思えるが,研究プロジェクトでは実際のディジタルコレクションを用いた研究や図書館をベースにした研究が進められてきていることや,図書館で蓄積されたコレクションとその上での経験を基礎にした研究も進められていることは重視すべきであろう。

 以下本稿では,DLIに代表される研究プロジェクト,大学図書館等における電子図書館機能の開発のほか関連する分野の状況についてアメリカを中心として解説した後,筆者の観点から図書館での活動を中心に考察する。

 

2. 情報技術主体の研究プロジェクト

 

 NSF,NASA,DARPAの共同助成によって1994年から1998年まで進められたDLI1は,この分野の重要性が認められる上で大きな役割を果たした。また,DLIに近い分野の大規模な研究助成プログラムであるKnowledge and Distributed Intelligence(KDI)では,インターネットのような分散環境における知識の発見,学習,コミュニケーションといった様々な知的活動を支える技術や知的作業環境に関する学際的な研究を助成している[8]。

 ヨーロッパではEUによる研究助成計画(Fifth Framework[9])の中の情報技術に関連するプログラム(Creating a user-friendly information society [10])が進められようとしている。イギリスではJISC(Joint Information Systems Committee [11])の助成によるElectronic Libraries Programme (eLib [12])が進められている。eLibは図書館を中心として比較的小規模の多数の研究開発プロジェクトを助成してきた。この点は計算機科学を中心とする大規模な6プロジェクトを助成したDLI1との大きな違いであろう。

 

(1) Digital Library Initiatives - DLI1とDLI2

 DLI1は既に終了したプロジェクトであるが,少し振り返ってみたい。DLI1は1994年秋から4年間に渡って下の6大学を中心に進められた。

・カーネギーメロン大学(CMU):音声認識,画像認識,自然言語処理技術を用いたテレビニュース映像の検索システムやビデオ映像の内容を抽出してコンパクトに表す技術等のディジタルビデオライブラリ。

・ミシガン大学:資料や利用者に関するメタデータとAgent Modelに基づく柔軟な検索システム。

・イリノイ大学アーバナシャンペイン校(UIUC):隣接領域間での語彙の相違を超えた全文検索技術,SGMLに基づく学術雑誌記事のデータベース。

・カリフォルニア大学バークレー校(UCB):不均一な構造を持つ電子文書アーキテクチャ,全文およびイメージデータの検索システム。

・スタンフォード大学:複数の異なるDL(あるいは情報資源)を結ぶ一様な環境のためのメタデータやユーザーインタフェース技術。

・カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB):地理情報システム,特に地理情報のためのメタデータ。

 DLI1の特徴は,計算機科学,図書館情報学,図書館からプロジェクトに研究者が参加したこと,テストベッドを作ってコンテンツや技術に関する評価を行うことをプロジェクトの中に含めたこと,異なる種類のコンテンツのプロジェクトを進めるとともにプロジェクト間での技術交流も進めたこと,コンピュータ,通信,出版などいろいろな分野の企業からの協力を得たことなどであろう[1]。DLの研究開発にはいろいろな新しい情報技術を開発することが重要であることは言うまでもないが,新しい技術だけにとらわれること無く要求に適した技術を統合すること,多様で大量なコンテンツに適した技術を利用し,利用しやすい環境を提供することが強く求められる。先のDLI1の特徴はこうした点をよく反映したものであると言える。DLI1でひとつの新しいDLシステムが作り上げられたというわけではないが,コンテンツ,情報技術,利用者(および利用環境・制度)の総合的な面からの研究の必要性に関する広い理解を得たことが最も重要な点であったと考えている。

 1997年3月にサンタフェでDLIの第2段階を考えるワークショップが開催された[2]。このワークショップでは分散環境における知的作業環境(Distributed Knowledge Work Environment)が主題として取り上げられ,システム中心,コレクション中心,人間中心の観点から研究すべきトピックや研究プロジェクトの枠組に関する提案がなされた。

 DLI2はDLI1を助成したNSF,NASA,DARPAに加えて議会図書館(LoC),医学図書館(NLM),および人文基金(NEH)が助成母体に加わっている。さらの公文書館(NARA)ほかいくつかの公的機関が協力している。こうした助成母体の広がりがDLI2の特徴であろう。また,DLI1によるDL研究に対する肯定的な評価が与えられていること,DLI2が単なる新しい情報技術の研究だけを目指したものではないという点が理解できる。DLI2の研究プロジェクトの研究計画募集では,サンタフェワークショップでの提案に基づき上の3つのトピックが示されている。また,個人を基礎とする小規模な研究(最大20万ドル/年,最長3年間)と学際的なグループによる大規模な研究(最大120万ドル/年,最長5年間)を対象としている。また,テストベッドの開発や大学学部教育におけるDLの利用などの研究助成も行われている。DLI2全体では5年間で4000~5000万ドルを予定している。また,DLI2では国際的な研究に対する研究助成プログラムも進められている。これは多言語情報アクセスや国際間での相互利用性(Interoperability)など,国際的な研究チームによるグローバルな視野での研究助成を進めようとしている 注1)

注1)NSFはアメリカの研究者を助成し,他の研究者はそれぞれの国もしくは地域での研究助成を受けなければならない。

(2) 将来に向けた議論

 NSFとEUはDL研究の将来の方向を議論する共同ワーキンググループを作り,どのような分野でどのような研究が必要であるかに関する議論を進めた[3]。これには下記の5つのトピックについてワーキンググループが作られ,それぞれのグループでの議論をまとめて報告をまとめている。これらのグループのトピックからDLを発展させていく上で関連の深い情報技術分野が理解できる。また,こうした研究分野には互いに深く関連する部分も多く含まれる。

・ 知的財産権と経済的観点(Intellectual Property and Economics):DLは社会システムの中で作られ,利用されていく実際的なシステムである。したがって,法律や経済といった社会制度,社会システムとそれを支える情報技術の両面での発展が必要である。

・ 相互利用性(Interoperability):DLI1におけるスタンフォード大学のプロジェクトからも理解できるように,利用者にとってはいくつものDLをネットワークを介してDL間の違いを意識すること無く利用できることが望まれる。相互利用性を高めるには検索プロトコルから語彙やユーザインタフェースに至るまでいろいろなレベルでの相互利用性が求められる。

・ メタデータ(Metadata):所望の情報資源を見つけ,利用者に適した方法でアクセスし,そして必要に応じて対価を支払うにはいろいろなメタデータが必要である。また,世界中で発信される情報資源を長期に渡って利用していくには,地域的広がり(言語や文化の違い)と時間的広がり(知識とそれを表すことばの進化)に適応できるメタデータが要求される。

・ 多言語情報アクセス(Multilingual Information Access):DLにおいて多言語による情報アクセス,言い換えると言語の違いによる情報アクセスの障壁を少しでも小さくすることが重要であることはいうまでもない。多言語情報アクセスには,文字コードや多言語テキストの入出力のような問題から多言語文書の検索,多言語文書からの情報抽出といった問題までが含まれる。

・ 広域に分散したDLにおける情報資源発見(Resource Discovery in a Globally Distributed Digital Library):ネットワークにつながるDL上には非常に大量の情報資源が提供され様々な情報にアクセスできる。一方,利用者は自分が関心を持つ分野・コミュニティの中の情報を見つけることを所望している。この間のギャップを埋めるためにシステム,コレクション,ユーザの観点から研究が求められる。

 

3. 図書館における活動の事例

 

 図書館における取り組みは議会図書館や大学図書館など研究図書館を中心に積極的に進められている。公共図書館においてもインターネット上の情報資源へのアクセスサポートなどが進められている。いろいろな図書館のホームページを見ていると提供されている内容がどんどん充実していることがよくわかる。ここ1・2年の間にWWWを介して図書館が提供する資料・情報の量は飛躍的に増えたように感じられる。図書館が提供する情報資源に関するサービスを大別すると下のようなものがある。

・ 電子出版される雑誌やデータベースの提供

・ 資料のディジタル化とディジタルコレクションの提供

・ ネットワーク上の様々な情報資源へのアクセス支援(例:索引,リンク集の提供)

・ 従来の図書館情報サービスのインターネット上での提供(例:OPAC)や他の種々の情報の提供

以下ではミシガン大学やカリフォルニア大学を中心に図書館での実際的な取り組みについて述べる。

 

3.1 ミシガン大学図書館

 ミシガン大学図書館[13]のディジタル情報資源のページ(Digital Resources)を見るとCatalog,Collection Guides,Subject Specialists,Indexes and Databases,Electronic Journals and Newspapersに区分されている。ここから目録検索やコレクションの説明,分野毎の資料へのアクセス補助などのサービスと,出版社等によって作られたデータベース,Humanities Text Initiative(HTI)やMaking of America(MoA)などのミシガン大学自身のプロジェクトで作られた様々なディジタルコレクション,医学,工学から人文科学,社会科学まで多数の雑誌など,多様なディジタルコレクションにアクセスすることができる。

 ミシガン大学図書館ではDigital Library Production Service(DLPS)という部門を作ってDLサービスを提供している[4][14]。DLPSは1996年に作られた組織で,フルタイムスタッフ換算(Full-Time Equivalent注2))で現在約20名の組織である。DLPSは期間を限って行われるプロジェクトではなく,フルタイムのスタッフによって運営される組織である。こうした点からもミシガン大学図書館におけるディジタル情報資源の提供に関する積極的な取り組み方が理解できる。

 ミシガン大学でのHTI,MoA,TULIP,JSTORといったいろいろなプロジェクトを通して得た経験がDLPSに活かされている。これらの経験は,ディジタル化すべき資料の選定,資料に適したディジタル化の形式(フォーマット)の選定,原資料からのイメージの取り込みやテキスト化,データベースへの蓄積,長期に渡る保存とそれに適した識別子の付与,知的財産権等に関連したアクセス制御などいろいろな面に渡っている。たとえば,原資料をイメージデータとして蓄積する場合,MoAでは600dpiのTIFF G4イメージをマスターイメージとして取り込み,サムネールイメージ等の配信用のイメージは全て動的に作り出すことにしている。また,原資料は多様であり目録もいろいろな基準で作られているので複数の種類の資料にまたがる検索の場合などにはDublin Coreを利用している。

 DLが実際に有効であるかどうか,またどのような形態の課金方法が利用者にとって受容しやすいかといったDLサービスの経済面での評価は非常に重要である。現在,電子的に雑誌記事を提供するサービスでは,機関や個人に対するライセンスの供与やpay-per-viewといった方式のどれかで提供されることが一般的である。PEAK(Pricing Electronic Access to Knowledge)はミシガン大学とエルゼビア社の協力の下で進められている研究プロジェクトで,1000タイトル以上の雑誌に関していくつかの課金モデル注3)を設定し,評価を行っている[15]。

注2)DLPSには少数のパートタイムスタッフも含まれる。

注3) 無料を含む次の4つのモデルを仮定し,登録された利用者(協力者)の利用に基づく評価を行っている。
 ・Free:無料
 ・Traditional Subscription:タイトル毎のライセンス購入
 ・Per-article
 ・purchase:記事毎の購入(ただし1度購入すると何度でも読める)
 ・ Generalized Subscription:ある機関が購入したライセンスに含まれない記事をper-article purchaseとしてその機関の個人利用者が購入でき,かつその機関の他の利用者もその記事を読める。

 

3.2 カリフォルニア大学

(1) California Digital Library

 カリフォルニア大学(University of California)では州内に散らばる9キャンパス注4)全体を結ぶCalifornia Digital Library(CDL)を進めている[16]。カリフォルニア大学の場合,キャンパスとは言っても各キャンパスはひとつの大学として十分な規模を持っており,各キャンパスに図書館が設けられている。一方,各キャンパスでDLに関する努力を重複して行うことは無駄である。したがって,CDLはキャンパス間共通のco-libraryとしてディジタルコレクションを作り上げ,カリフォルニア大学全体に対する新しい学術情報流通環境を提供する役割を持っている。そのため,CDLはカリフォルニア大学にとっては10番目の図書館とも言われる。また,インターネットを介して大学内だけにとどまらず一般の利用者にも大学が持つ学術情報資源を提供する役割も持っている。

(2) カリフォルニア大学バークレー校(UCB)

 UCB図書館のDLサービスは図書館が提供するさまざまな資料の他に,インターネット上のいろいろな情報資源に関する豊富な情報を提供している[17]。特に,このサービスではDLの研究開発や教育に有用な情報資源を豊富に持っている。このサービスのポリシーに関する記述によると,UCB図書館のコレクションポリシーに基づき研究利用に有用であると考えられる資料を提供すること,またarchived,served,mirrored,linkedの4つに区分して提供している注5)。こうした明確なポリシーを提示することは提供される情報への信頼性を高める上で重要であると思われる。

 

3.3 学位論文やテクニカルレポートの提供の事例

 学術雑誌の電子的な提供は広い範囲で進められている。一方,雑誌に載らない,あるいは載る前の学術論文の蓄積と提供も研究者にとっては重要である。たとえば,Los Alamos研究所のe-Print archive[18]は物理学,数学分野を中心に多数の論文を蓄積・提供している。また,学位論文やテクニカルレポートなど大学や研究所単位で出版され,商用の流通経路には乗りにくい資料の電子的な蓄積と提供が進められている。

 コーネル大学を中心に進められているNetworked Computer Science Technical Reference Library (NCSTRL)は計算機科学・工学分野で博士課程を持つ大学,あるいは国立の研究機関などで出版される研究論文やテクニカルレポートを分散的に蓄積し,提供している[19]。また,Los Alamos研究所のe-Print archiveと連携している。

 Networked Digital Library of Theses and Dissertation (NDLTD)は,あらたに作り出される学位論文を集積し,将来に渡って利用できる大規模なディジタルコレクションを作り上げることを目的としてバージニア工科大学を中心として進められている計画である[20]。この計画に参加する大学ではNDLTDが提供するソフトウェアを利用して学位論文を編集し,学位論文コレクションを蓄積する。蓄積された学位論文はネットワークを介してアクセスすることができる。現在,アメリカを中心として52大学が参加している。

注4)Berkeley, Davis, Irvine, Los Angeles, Riverside, San Francisco, San Diego, Santa Barbara, Santa Cruzの9キャンパス。

注5) archived:自館で長期保存に適した形式で資源を蓄積し,提供しているもの。served:自館のシステムに資源を蓄積し,提供しているもの。mirrored:他の組織が提供している資源のコピーを自館のシステムを用いて提供しているもの。linked:他の組織が提供している資源へのリンクのみを提供しているもの。

3.4 公共図書館での活動の事例

 公共図書館におけるインターネット情報資源へのアクセス環境の提供があちこちで進められている。たとえば,InFoPeople (Internet For People)プロジェクト[21]はカリフォルニア州の公共図書館においてインターネットアクセス環境の提供を進めるものであり,カリフォルニア州立図書館,UCB図書館および参加地方自治体によって進められている。これは1993年に開始されたもので,公共図書館への助成を行い,トレーニングの機会を提供するなどしている。また,ミシガン州立図書館では,ミシガン大学図書館と協力していろいろな情報資源へのアクセスを提供するMichigan Electronic Library (MEL)のサービスを行っている[22]。

 

4. メタデータおよびメタデータに基づくサービスに関して

 

 メタデータ,たとえば目録や索引,抄録がネットワーク上での情報資源に大きな役割を果たすことは言うまでもない。(メタデータに関する詳しい説明は文献[5]を参照されたい。)たとえば,図書館情報大学附属図書館で進めているディジタル図書館システムは図書館情報学,あるいは図書館関連のネットワーク情報資源に関するメタデータの蓄積を進めている。また,ヨーロッパ,アメリカを中心として特定の学術分野や地域の情報資源に関する情報を提供するサブジェクトゲートウェイ・サービスが提供されている。それらには,社会科学分野の情報を集めるSOSIG[23]や芸術・人文学分野を扱うAHDS[24],医学分野のOMNI[25],工学分野のEEVL[26],教育関係の情報資源を扱うEdNA[27]などがある。WWW以前からネットワーク上の情報資源に関する情報を提供してきたBUBL[28],美術館,博物館が共同してメタデータを蓄積しているCIMI[29]がある。また,北欧諸国やオランダの国立図書館でもネットワーク情報資源に関する情報を蓄積している。OCLCでは図書館と共同してネットワーク情報資源に関するメタデータを蓄積するCORCを進めている[30]。イギリスではサブジェクトゲートウェイの活動を基礎としてResource Discovery Network (RDN)を立ち上げようとしており,またサブジェクトゲートウェイ間の協力を進める活動も始められている[31]。こうしたサービスではいずれの場合もメタデータを作成している。

 現在のところ,ネットワーク上での情報資源の発見を目的として提案されているメタデータとしてはDublin Core Metadata Element Set (通称Dublin Core)が最も広く認知されている。上の活動でもDublin Coreに基づくとするものは多くある。Dublin Coreは第1版(DC1.0)が定義され,標準化が進められている。メタデータを蓄積する側の立場からするとDublin Coreを採用する上でいくつか考慮すべき点があると思える。たとえば,DC1.0はサブエレメントを一切持たないが,実際の利用においては適宜必要なサブエレメントを加えることや応用毎に必要なエレメントを付加することがよく行われている。また,実際にはDublin Coreに基づいて一からメタデータを記述することはせず既存のメタデータ(目録)を機械的に変換して利用することやDublin Coreのエレメントを検索項目としてのみ利用することも行われている。ネットワーク上での情報資源やサービスの多様さを考えるとCore Metadata Elementの柔軟な利用方法を十分に考えるべきであると思われる。

 メタデータの作成と蓄積の方法,特にサブジェクトゲートウェイの実現と運営のかなりの部分が手作業によっている。これは情報資源の内容を理解し,その目録を作るためにしかたのない部分であるとは思われる。その一方,文書の内容を抽出し短くまとめるツール,メタデータの編集ツール,メタデータとして蓄積した内容が有効であるかどうかをチェックするツール,多言語によるメタデータアクセス,メタデータの作成基準の進化に対応するためのツールなど,いろいろなソフトウェアによる支援が必要な分野でもある。

 

5. 考察

 

5.1 新しい情報技術,電子図書館の研究開発に関して

 電子図書館に関する研究・開発活動を見ると,計算機技術(あるいはより広い意味での情報技術)を中心とする研究活動と,図書館で行われているネットワークを通じた情報資源の提供サービスとの間にギャップがあることは否めない。これは従来から計算機技術の研究者・開発者,いわば情報資源の「入れ物」の研究者と,図書館の研究者・実務家,いわば大量の情報資源の中味の研究者との間にあったギャップが埋まっていないことを意味するものであろう。一方,DLI1の最大の功績は,計算機技術と図書館情報学の研究者,さらに図書館の実務家が一緒に研究開発をする場を提供したことであると言ってもよい。今後,ネットワークを介した情報資源へのアクセスがさらに広がることは明らかで,「入れ物」と「中味」を総合的に研究開発していく場の必要性が増すことは明らかである。

 

5.2 電子図書館のサービスの種類に関して

 現在,実際にサービスを提供している電子図書館を見ると,そのサービスは大きく分けて次のように分けることができよう。

(1) ディジタルコレクションの開発と提供(コレクションの形成機能):ミシガン大学のHTIやMaking of America,議会図書館のAmerican Memory,THOMAS,京都大学などが提供する貴重書などが典型的な例。

(2) 雑誌やデータベース等の提供(資料の媒介機能):出版社が電子形態で出版したものを提供するものや自館で資料を電子化して提供するものがある。奈良先端大のMandala Library,学術情報センターのNACSIS-ELSなどがある。また,California Digital Libraryやミシガン大学図書館では多数の雑誌を電子的に提供している。

(3) 情報資源へのゲートウェイ機能(情報の組織化機能)の提供:ネットワーク上でアクセスできる情報資源に関する情報を提供するサービス。なんらかの分野に特化している場合が多く,サブジェクトゲートウェイ(Subject Gateway)と呼ばれる。たとえば,図書館情報大学では図書館情報学,あるいは図書館関連の情報資源に関する情報(メタデータ)の蓄積を進めている。

(4) その他:上に示した情報資源を提供するサービスに加えて,従来のサービス,たとえばOPACや参考調査のインターネットを介してサービスの提供,ディジタル情報資源と従来型情報資源を総合的に利用するための利用者環境の整備が進められている。また,図書館員自身,あるいは利用者向けのトレーニングなど,電子図書館を本当に使えるものにする上での重要な要素であろう。

大学図書館におけるサービスは上のどれか一つだけを提供するというわけではなく,それぞれの大学の事情に応じてサービスを提供している。

 

5.3 メタデータに関して

 ネットワーク上での情報資源へのアクセスにおいて,メタデータが重要な役割を果たす。図書館になじみ深い目録や索引,抄録はメタデータに含まれる。知的財産権やアクセス権限に関する記述もメタデータに含まれる。将来のネットワーク上での情報資源の利用には様々なメタデータを組み合わせて使うことが必要とされることになろう。図書館にとって基本的な機能と考えられるゲートウェイ機能の実現は,メタデータを蓄積することに他ならない。ゲートウェイ機能の実現には,情報資源に関する目録,索引,抄録などのメタデータを作ることが求められる。

 メタデータの蓄積は分野ごと,図書館ごとといった活動が行われているが,利用しやすくするにはいろいろな分野や組織のメタデータを総合的に利用できるようにすること,あるいはネットワーク情報資源に関する総合目録(のようなもの)を実現することが望まれる。こうしたメタデータの作成と蓄積は単独の組織で全てカバーできると考えることはできず,組織間(図書館間)の協力によるしかないと考えられる。筆者自身はDublin Coreに代表されるCore Metadataの考え方が異なる組織間でメタデータを共有・相互利用する上で有用であろうと考えている。学術的な情報資源に関しては,yahooやAltavistaといったサービスに代わって,図書館が提供するメタデータが頼りにされるようになればよいのにと思う。そのためには良質なメタデータを提供するゲートウェイ(図書館)が相互協力して多くの分野,領域をカバーするようになる必要があろう。

 

6. おわりに

 昨年終了したDLI1は多くの注目を集めた計画であったことは疑えない。また,助成母体が増えたDLI2にも非常に多くの応募があったと聞いている。1994年はDLI1が開始された年であると共に,後にACMやIEEEのDL分野の国際会議なる会議がはじめて開催された年でもあった。それから5年が経ち,DLの研究分野が認められてきたようにも思える。一方,こうした国際会議からは「DL分野の優れた論文とは」に関する議論も聞こえてくることもあり,これからもまた変化していく分野であるとも思える。

 ディジタルコレクションの開発や提供がDLにとって重要なサービスであることは疑えないが,筆者にはUCBのサービスに見られるような情報資源に関する情報の提供もDLのサービスにとって重要な要素であると思える。特定分野の情報資源の情報に関するサービス,Subject Gatewayはいろいろなところで進められている。昨年ギリシャのCreteで開催された第2回のヨーロッパ電子図書館国際会議ECDLユ98においてSubject Gatewayに関するミーティングがもたれ,本年6月に第1回IMeshワークショップが開催された。今後も情報交換の機会が持たれる予定である[32]。

 本稿を執筆するに当たってあちこちの図書館のWWWページにアクセスして,提供されている内容とサービスが盛りだくさんになってきていることに改めて驚かされた。1995年ごろのミシガン大学のAtkins他による論文[6]では,網羅的なコレクションを用意することが必要であると言っていたが,コレクションの充実ぶりを見るとそれが実現されてきているように思える。一方,ディジタルコレクションの充実は人的資源も含めてコストがかかる。先進的な図書館からの技術やノウハウの移転,実際的なコレクションの上での経済モデルの評価の進展が期待される。

 

参考文献

[1] Chien, YT.,Digital Libraries, Knowledge Networks, and Human-centered Information Systems,ISDL'97論文集,pp.63-69,1997.11 (http://www.DL.slis.tsukuba.ac.jp/ISDL97/proceedings/ytchien/ytchien.html)

[2] Report of the Santa Fe Planning Workshop, http://www.si.umich.edu/SantaFe/, 1997.7

[3] EU-NSFワーキンググループのページはhttp://www.dli2.nsf.gov/workgroups.htmlhttp://www.iei.pi.cnr.it/DELOS/NSF/nsf.htmにあり,グループ全体のレポートは http://www.iei.pi.cnr.it/DELOS/NSF/Brussrep.htm で見ることができる。

[4] Price-Wilkin, J., Moving the Digital Library from "Project" to "Production", http://www.DL.slis.tsukuba.ac.jp/DLjournal/No_14/3-jpwilkin/3-jpwilkin.html,ディジタル図書館No.14, pp.26-62

[5] 特集:メタデータ,情報の科学と技術,vol.49, No.1,1999.1

[6] Atkins, D.E.他,ミシガン大学におけるディジタル図書館計画,情報処理,Vol.37,No.9,pp.848-856,1996.9

 

ホームページなどのURL

[7] DLI,http://www.dli2.nsf.gov/ (phase 1,2ともにアクセスできる)

[8] KDI,http://www.ehr.nsf.gov/kdi/default.htm

[9] EUのFifth Framework,http://www.cordis.lu/fp5/home.html

[10] Creating a user-friendly information society (IST),http://www.cordis.lu/ist/home.html

[11] Joint Information Systems Committee,http://www.jisc.ac.uk/

[12] Electronic Libraries Programme (eLib),http://www.ukoln.ac.uk/services/elib/ (尾城孝一著,英国高等教育機関における電子図書館イニシャティブ,情報の科学と技術, Vol.49, No.6, pp.276-283にeLibプログラムの解説がある。)

[13] ミシガン大学図書館,http://www.lib.umich.edu/

[14] ミシガン大学図書館Digital Library Production Service,http://www.umdl.umich.edu/dlps/

[15] https://www.umdl.umich.edu/peak/

[16] California Digital Library,http://www.cdlib.org/(コレクションに関する情報はhttp://www.cdlib.org/about/collections.htmlで得られる。)

[17] カリフォルニア大学バークレー校図書館,http://www.lib.ucb.edu/ (DLサービスは http://sunsite.berkeley.edu/

[18] Los Alamos研究所e-Print archive,http://xxx.lanl.gov/

[19] Networked Computer Science Technical Reference Library,http://www.ncstrl.org/

[20] Networked Digital Library of Theses and Dissertations,http://www.ndltd.org/

[21] Internet For People,http://www.infopeople.org/

[22] Michigan Electronic Library,http://mel.lib.mi.us/

[23] Social Science Information Gateway,http://www.sosig.ac.uk/welcome.html

[24] Arts and Humanities Data Service,http://www.ahds.ac.uk/

[25] OMNI: Organising Medical Networked Information,http://www.omni.ac.uk/

[26] Edinburgh Engineering Virtual Library,http://www.eevl.ac.uk/

[27] Education Netwaork Australia,http://www.edna.edu.au/EdNA/

[28] BUBL Information Service,http://www.bubl.ac.uk/

[29] CIMI Consortium for the Computer Interchange of Museum Information,http://www.cimi.org/

[30] CORC--Cooperative Online Resource Catalog,http://www.oclc.org/oclc/research/projects/corc/index.htm

[31] UKOLN Newsletter Issue 8 March 1999 ISSN 0963-7354,http://www.ukoln.ac.uk/ukoln/newsletters/issue8/newsletter.htm

[32] International Collaboration on Internet Subject Gateways, http://www.desire.org/html/subjectgateways/community/imesh/